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純白の魔法世界に共産の真赤を  作者: おとぎ長
第一章 赤の真価は、魔法で進化する

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二 再誕?

 目を開けると、天井に染みがなかった。

 代わりに、黒ずんだ梁が何本も渡っていて、その隙間に蜘蛛の巣が光っていた。窓から差す光は白く、埃がゆっくり回っている。

 日本列島は、どこにもない。

 

 死に損なったのだと思った。誰かが見つけて、病院に運んだのだろう。余計なことをする、と思いかけて、すぐにおかしいと気づいた。

 胸が痛くない。ただ痛みが引いたのではなく、何か違和感がある。

 自分が呼吸をしていないことに気がついた。慌てて息を吸うが、そもそも息をしていなくても苦しくなかった。

 

 右手が重い。持ち上げると、掌から手首まで、布が巻かれていた。

 包帯にしては目が詰まっていて、細かい模様が織り込んである。幾何学的な線が、互いに絡み合いながら、どこまでも途切れずに続いていた。その奥に、膿んだ傷が透けて見えた。

 指先に、布の感触がある。

 さっきまで撫でていた布と、よく似ていた。

 

 それから、手そのものに目がいった。

 若い。節くれてはいるが、皺がない。爪の間に、黒い砂のようなものが詰まっている。私の手ではなかった。七十年あまり使った、染みだらけの手ではなかった。

 

 寝台の脇で、何かが身じろぎした。

 少女だった。床に座り込んだまま、寝台の縁に突っ伏して眠っている。十二、三歳だろうか。指先が糸くずと染料で汚れていて、目の下に、何日も眠っていない者の色があった。

 部屋の隅には、古い木の織機が据えてあった。

 

 少女が顔を上げた。

 私と目が合い、しばらく動かなかった。それから、唇が震えた。

「……お兄ちゃん」

 かすれた声だった。少女は寝台に這い上がり、私の胸に顔を押しつけた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……ごめんね、ごめんね、遅くなって……」

 胸の上で、少女の肩が震えている。熱い。生きている者の体は、こんなに熱かったかと思った。

 私の胸は、たぶん冷たいはずだった。

 

 何か言わなければならない。人違いだと。私は君の兄ではないと。

「……お嬢さん」

 喉から出たのは、若い男の声だった。それが、私の言葉づかいで続いた。

「大変申し訳ないのだが、お人違いをされておられるようで」

 少女の震えが、止まった。

 ゆっくりと顔を上げる。泣き腫らした目が、私の顔を見て、それから、私の口元を見た。

「……お兄ちゃんは、そんなしゃべり方、しない」

 

 部屋が静かになった。織機の上で、張ったままの糸が、風もないのに小さく鳴った。

 少女は寝台から下りて、一歩、後ずさった。

 

 私は、包帯の巻かれた右手を見下ろした。

 脈はない。傷は膿んでいる。布の下から、かすかに、甘いような匂いがしていた。

 あのアパートの私の体も、いまごろ同じ匂いをさせているのだろう。郵便受けから機関紙が溢れるまで、まだ何日かかかる。

 なるほど、と思った。

 どうやら、死んだ別人の身体で私は復活したらしい。

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