作戦
「作戦はあるのか?」
賢い彼女の事だ、何か策があって来たんだろう。期待を胸に抱き聞いてみたら。
「えっあ~ と、とりあえず、私の使い魔で攻撃する、とか…」
前言撤回 馬鹿だこの子・・・・
まさか勢いだけで来るとは、おかげで助かったが、そうゆう問題ではない。
「やっぱり考えてなかったんですね。安心してください。俺が代わりに考えておきました」
「あ、ありがとう。助かるわ」
使い魔の方がしっかりしているな―――と口が裂けても言えないが、なんでもいい。
キメラを倒せるのなら、どんな作戦でも乗るつもりだ――――
使い魔の攻撃のおかげで、キメラは警戒し近づいて来ない。作戦を練るには今が好機。
――――
足と目に集中的に攻撃を受け、血が目の中に入り見えづらい状態であった。
軽い怪我などは直ぐに再生できるが、見慣れぬ大きな暗褐色の獣に、直ぐに再生が出来ないほど深く傷を負わされた。
死に至るほどの致命傷ではないが、動きを少しだけ鈍らせるほどの効果はあるようだ。
キメラはイライラしていた。見慣れない人間達に攻撃されているからではなく
単に腹が減っているからだ。ここ数日まともに食べておらず、空腹で気性が荒くなっていた。
腹をすかせた獣が求めるものといったら『食欲』しかない。
とにかく、腹を満たせることだけがキメラの最優先事項であった。
いつもなら、日が昇る頃と落ちる頃に大量の肉が、目の前に転がり込んで来たのだが、ここ最近は全くない。
腹は減り続け、食べ物を求めさまよい、この森に行きついた。
なぜ、自分が見知らぬ場所に居るのか理解できなかった。
ある日暗闇から小さな明かりをみた。
気になり体当たりをしたら大きな穴ができ、その穴に向かって飛び込んだ。
飛び込んだ先は、見慣れない草原の景色が広がっていた。
いつもはカビや油に、息をするだけで鉄を吸い込んだような重い空気。
腐ったネズミの腐敗臭で満たされていたが…いつぶりなのか、新鮮な葉の匂いに、呼吸をするだけで肺を綺麗にしてくれそうな空気。
脳神経が刺激され、筋肉が震え、自身でも制御が出来ないくらい興奮してしまった。
喉が裂けるほどの雄たけびを上げ、地面がえぐれるほど強く蹴り出し駆け抜ける。
無我夢中で走った―――――
途中、硬い感触とやわらかい感触が足元に当たったが、気にもせず走る。
それからはあまり覚えていない――――
走り疲れ辺りを見回すと、知らない場所に居た。
それからは、本能の赴くままに食べ物を探して森に行きついたが、自分の腹を満たしてくれる食べ物は見つからなかった。
小さくすばしっこい白い塊を食べても――――足りない
時々高くジャンプする茶色い塊を食べても――――足りない
赤い実―――足りない、足りない
水の中に居るヌメヌメしているやつ――――足りない 足りない 足りない
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない――――
ハラガ・・・ヘッタ・・・・
――――
「この作戦で行こう。お前出来るよな?」
使い魔がアレックスに確認する。
「出来ると…言いたいが、私でいいのか?」
「本音を言うと不安だ。だが、この中でやれるのはお前しかいない」
作戦内容は思いのほかシンプルだった。
まず、使い魔がキメラの注意を引き攻撃を続け弱らせる、その間アレックスが魔力を限界まで込め続け、強力な攻撃魔法でキメラの心臓を突く。
心臓を停止させれば再生能力は使えない。
ただ懸念すべきところがある、心臓を突けと簡単には言うがピタリと当てられるのか…弱らせるとはいえど動く獣。初心者がいきなり数キロ先に不規則に動く小さい的を一発で当てろと言われているみたいだ。
エルサナは戦闘用の魔法は使えない、使い魔もキメラを弱らせるため長い時間攻撃を続ける為体力がなくなるだろう、私は限界まで力を使い果たし魔力切れになる。
一度きりの大技、外せば終わり――――
同じ言葉が頭の中でループする。
部隊でのアレックスは主に味方の補助と、敵の注意を引き付けるのを中心に任務をこなしてきたので、このような作戦は慣れていない。
秘密部隊の人間が聞いて呆れる――――
魔法が使えるからとはじめは期待されたが、蓋を開けば大したことなかったと落胆された。魔法で攻撃するくらいなら、直接殴った方が早い。
戦闘能力の高い人を支える、これが私の役割――――
仮にも男――不安な表情は出さないが、今にもこの場で弱音を吐いてしまいそうだ。
そんな私の気持ちを無視して、この場に似合わない明るい声が聞こえた―――
「何よ簡単じゃない。要は心臓に当てればいいんでしょ!絶対上手くいくわよ」
何を根拠に上手くいくと言っているのか…
戦いの場に立ったことがないから言えるのだろう、のんきだなと彼女をみると
呼吸は浅く、冷や汗をかき、足も震えていた。
口元は笑ってはいたが、明らかに不安で怖がっていた。
馬鹿か私は――――なぜ気づかなかった―――
怖いに決まってるだろ、二度も自身の危険を顧みず助けに来たから、彼女は肝が据わってると勝手に思い込んでいた。
エルサナの震える姿をみて、アレックスの胸の奥にあった恐れや不安という黒い靄が、スゥーと消えていく。
バチッ!と両手で頬を思いっきり叩いた。
「急になに!?」エルサナは素っ頓狂な声を出す。
「いや、すまない。もう大丈夫だ…私に任せてくれ」
覚悟を決め、はっきりと答えた。迷いのある顔はしてない。
「主の心配はしなくてもいい、お前がどうなろうと主は俺が必ず守るからな」
「はは…心強いな…」
使い魔なりの激励か気遣いか…いや単に私のことはどうでもいいのか。
どう思ってるかは、いま関係ない。
覚悟を決めたんだ、絶対に殺してみせる―――
深く傷ついたケガは次第に消えていった。
なんでもいい、どんなものでもいい、腹を満たしたい。視界は変わらず血で見ずらいが、嗅覚である程度は把握できるので問題はなかった。
三つの影が動き出した――――
また暗褐色の獣が襲い掛かり、鋭利な爪で肉をえぐってきた。
嚙み砕き食べようとするも、すばしっこく口元をかするだけで食べさせてくれない。
空腹で胃がキリキリする。
大抵は尻尾を当てると大人しくなり、素直に胃の中へと入れさせてくれるが、
この獣は一向に大人しくなってはくれず、さらに胃が痛くなる――――
アレックスは数メートル離れた木の間に入り、意識を集中させ魔力を込め始める。
限界まで魔力を込めたことがないので、どこまで出来るか未知数だがやるしかない。
使い魔がキメラを命がけで足止めしてくれている、私では他の者に行かないよう
一人での足止めは荷が重すぎる。
そう考えての作戦だろう…
エルサナは、もしもの為、直ぐに逃げられる所に隠れてもらっている。
螺旋状に青く光る風が浮かび、アレックスの頭上に集まり、槍のような形を作っていく。
確実に殺せるだろう魔法はこれしかない―――――
風は次第に強く、槍も長く太くなり、二メートルの大きさになった。
殺傷能力は高いがコントロールが難しい。
これ以上大きくできないのか…七メートルもある巨大な相手に心許ないぞ…
手が震え、脳みそが沸騰していような感覚が襲う。
視界が霞みはじめ、鼻腔が熱くなる。片方から鼻血が出てきたが、それに気づかないほど集中する――――が
(クソ これ以上無理か…)
―――その時、優しい手つきでアレックスの肩に手を置いたエルサナが現れる。
魔力が乱れそうになったが、それ以上に魔力がどんどん体に流れてくるのを感じる。
「魔力足りないでしょ。私の使いなさい!」
エルサナの魔力が押し寄せて、槍は四メートルも大きくなった。
これなら・・・アレックスは、キメラに心臓があるであろう胸元に槍を向ける。
キメラは死を感じた―――
野生の本能なのか、空腹で生に対し敏感になっていたのか分からないが、
攻撃を受けてもエルサナ達の方へ一直線に駆けていく。
使い魔もキメラの行動に気づくが、一歩キメラが早かった。
エルサナとアレックスにキメラの前足が振り下ろされる――――
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次回は 9月11日 17時30分を予定しております。
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