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魔女とクマの使い魔  作者: 雪白せっか


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10/18

戦いは・・・

 

 キメラがこちらに向かってくる――――


 どうする…撃つか!?

 いや、攻撃してくると分かっている、簡単に避けられるだろう。


 ぼやけてくる視界の中、キメラが目の前まで迫って来た。

 せめて彼女だけでも、とエルサナの方へ視線を向けると…

 そこには力強く真っすぐに見つめている瞳があった――――


「大丈夫・・・わたしは・・・信じてるから」



 キメラが前足を振り下ろす――――が二人には届かず、頭上で止まった。


 キメラが後ろを向くと、尻尾を咥え後ろへ引っ張っている暗褐色の獣がいた。

 片方が進むもうとすると、もう片方が後ろに引っ張る。二匹は綱引き状態となった。


 はじめは接戦状態だったが、わずかにキメラの方が優勢になってきた。

 使い魔も負けじと力を込め引っ張るが、キメラの力に負けそうになる。

 力み過ぎて、手から出血し、顎も外れそうな状態であるが、使い魔は諦めない。


 今度こそ 絶対に守る―――――


 渾身の力を振り絞り、引っ張りだす。

 またも接戦状態に持ち込みだす。キメラはしぶとくエルサナ達を殺そうと、前足を振り下ろそうとしている。キメラの爪がわずか五十センチの所まで迫っていた。



 危機的状況の中でもエルサナは使い魔を信じていた。


 守るって、約束したでしょ!―――――

 歯を食いしばりながら戦っている自分の使い魔を見て、あの時の会話を

 走馬灯のように思い出す。


 ――――


「本契約よ本契約…今から名前つけるから」

「俺の名前は決まってるんです?」

「フフ…かっこいい名前思いついたのよ。今からあなたの名前は―――」


 ――――


 エルサナは声を張り上げる。


「ゴ(・)ン(・)ザ(・)レ(・)ス(・)!!!負けないでよ!!!」


 ゴンザレスは限界まで力を出しキメラを引っ張る。

 後ろによろめき、両前足が宙に浮かび、胴体が丸見えになった。

 アレックスはガラ空きになった胸元に矛先を合わせ――――


「    聖  槍 (ロンギヌス)    」



 稲妻の如く飛び出た槍はキメラの心臓を突く。

 胸から大量の血が出て、キメラはフラフラと左右に揺れ、そのまま地面に倒れた。


 一瞬 これまで感じたことのない痛みを味わった。心臓を生きたままもぎ取られた様な、踏みつぶされたような…しかし、痛みは一瞬だけで、今は何も感じない。


 不思議だ・・・あれほど空腹だったのに・・・・

 いまは まったく腹が減らない・・・・


 ・・・・・・・・ねむいな


 ゆっくりと目蓋が落ちていく。


 最後に・・・・腹いっぱい・・・・たべたかっ・・た・・・・・


 キメラは完全に事切れた。




 アレックスは立っていられず、その場に尻もちを着く。

 頭がボーとして、ガンガンと強くハンマーで叩かれているみたいに痛い。

 手の甲をみると血がついていた。

 何の血だ?と思ったら、自身が鼻血を出していたことにようやく気付く。


「はい これで拭いて」


 隣に居るエルサナからハンカチを貰う。

 真っ白な布は血で真っ赤に染まる。


「ありがとう…ケガは、ないか…?」

「大丈夫。魔力の使い過ぎで、少し疲れてるだけ…」


 エルサナも座りこんだ。

 少々顔色が悪いが、大きなケガもなく大丈夫そうだ。


「全く…主はまた勝手な行動を取りましたね」


 倒れているキメラの傍からゴンザレスが歩いて近づいてくる。

 前脚、後ろ脚から血が出ており見てるだけで痛そうだ。

 当の本人は気にせず痛がるそぶりもない。


「みんな助かったから良かったじゃない。結果オーライよ」


「何が結果オーライです。俺が少しでも引っ張るのが遅れてたらどうするんですか。

 主がこの男の傍に居て驚いたんですよ」


 ゴンザレスの口調は淡々としてるが、内心相当焦っていたらしい。

 表情は分かりずらいも、言葉と行動で理解できるようになった。

 分かりやすくエルサナに詰め寄っているのが、なによりの証拠だろう。


「すまない。私の魔力が足りなかったせいだ…彼女が魔力を渡してくれなかったら

 キメラを倒せなかっただろう」

「ほらほら アレックスもこう言ってるし、もう怒らないでよ」


 納得はしてないが、ゴンザレスは、しぶしぶエルサナと向き合うようにして座る。


「もうこれ以上勝手な行動しないですよね…」

「しないしない・・・・多分・・・・」


 なんだそりゃ・・・・多分ってなんだ多分って――――


 ゴンザレスが無言でエルサナを睨む。

 そんな主従の一人と一匹を無視して、アレックスはハンカチで鼻を抑えながら

 先ほどから疑問に思っていることを聞く。


「エルサナ 気になったことがあるんだが、キメラとの戦闘中に何やら叫んでいたが…もしや、使い魔(彼)の名前か?」


「! そうよ。あなたがキメラと戦っている間に、本契約したのよ。

 強くて、かっこいい名前を思いついてね!

 フフ…我ながらいいセンスの名前でしょ!」


 キラキラと顔を輝かせながらエルサナは話す。


「そ そ、うか…」


 彼女は独特な感性を持っているのか…いや、そんなこと言ったら

 世の中のゴンザレスに失礼か…使い魔(ゴンザレス)はどう思っているんだ――――



 ゴンザレスは笑いながら自身の名前を嬉しそうに話す主を見て、昔を思い出す。

 前の主も俺の名前を『レックス』なんて付けたな。


『強くて、速くて力持ち。私の使い魔はかっこいいのよ!

 名は体を表すっていうじゃない?

 だから彼にかっこよくピッタリな名前を付けたのよ』


 その時も、嬉しそうに周りに話してたっけ・・・・

 懐かしい主を思い出しながら、ゴンザレスはフッと笑みをこぼす。


 (!?喜んでる・・・・いいんだ・・・・)



 ―――――


 休んでいたエルサナの顔色は次第に良くなってきた。

 ゆっくりと立ち上がり、深呼吸を二 三度おこない、脳をリフレッシュさせた。

 実は彼女はやりたいことがあり、少し前からうずうずしていた。


 (せっかく こんな機会ないもの、ちょっとキメラの身体(構造)を調べてこよ)


 エルサナがキメラの方へ歩みを進めようと、一歩歩き出そうとした時

 アレックスに呼び止められる。


「エルサナ どこに行こうとしている」


「ちょっとキメラを調べに…」


「いい…と言いたいところだが、キメラには猛毒がある。

 研究者が何人もソレで命を落としている。危険行動はやめるんだ」


 はーい わかりました・・・・と素直に従うエルサナではないので

 ニッコリと微笑みかけ構わず進もうとする。


「エルサナ!待つん―――――ぶっっ!?」


 見返るとアレックスから、止まったはずの鼻血がまたでている。


「えっちょっと、どうしたのよ まだ具合悪いの?」


「ち ちがう!どうしたはこちらのセリフだ!!その背中はどうしたんだ」


 エルサナの背中はいまだゴンザレスに服を破かれた状態のままで、丸見えである。


「あぁこれ(背中)?すこーし破れただけよ、気にしないで」


 口元は笑ってはいるが、目が笑っていない。

 ゴンザレスは申し訳なさでエルサナから目を背ける。


 キメラとの戦いに集中しすぎて気づかなかったアレックスは、エルサナと

 目を合わせずに自身のマントを渡す。


「目のやり場に困る。汚れていてすまないが、これを着てくれ…」

「あ ありがとう」


 耳を真っ赤にしながら渡してきたアレックスのマントを着る。

 丈が長く足元擦れ擦れで、肩幅もエルサナにとっては大きすぎて包まれているようだった。

 腕を動かすと、ひらひらと舞う。


 (こんなに大きいとキメラを解体したりしたら血がついて汚れるわ…)


 善意で借してくれたものを平気で汚せるわけもなく、諦めて地面に垂れている

 血だけを、細長いガラス瓶に入れ回収した。


 ゴンザレスたちの所に戻ろうとしたとき、視界の端に人影をみた。

 誰だと身構えたら、生い茂る木々の間から這い出る様に、薬草屋の店主が現れた。


「あれ エルサナちゃん?どうしてこんな所にいるんだ。もしかして、エルサナちゃんも薬草を取りにきたのかい?」


 能天気な声が耳に入る。


「おじさま!?・・・・・よかった生きてたのね」


 店主の無事を確認できて安堵した。

 正直にいうと、現れるまで忘れていた。

 しょうがないじゃない、キメラのインパクトが強すぎたのよ!

 そんな心の声を無視してエルサナは店主に駆け寄った。


「無事でよかったわ。昨日、出かけて帰ってこないからと、おばさまが心配してたのよ」


「昨日…今日の空の夕刻は今日じゃなく?」


「??? なにをいっているのか分からないわ。おじさま」


 店主は混乱している様子だった。

 アレックスも加わり、店主の奥さんから帰ってこないから捜索してほしいと依頼されたことを説明した。


「・・・・・では、私はかなり眠っていたのか」


「眠っていた?おじさま今まで眠っていたの?」


 今のいままで森で寝てたなんて、キメラに食べられなくて運がよかった。


「急に眠気がきてな…いつの間にか寝てたんじゃ。気づいたら夕方になってて

 驚いたが…まさか、一日中寝ていたとわ…」


 話によると昨日エルサナが店を出たあとに、店主は森に出かけたそうだ。

 森に着いたのはお昼頃で、希少な薬草がある場所を目指し歩いていたら、急に眠くなったそうだ。

 軽く仮眠をとるだけが、とんだ騒動になってしまった。


 店主の話を聞いたエルサナは考え込み、右手の人差し指を頬にトントンと軽く叩く。

 なんか なんだっけ…思い出せそうな――――

 瞬間、ハッと思い出した。

 そう 昨日読んだ本で見たんだ。

 そうとなると、ケガや事故の原因は…私の考えが正しければ――――


「おじさま。私たちをいまから、おじさまが寝ていたところに案内してくださる?」


ここまで読んで頂きありがとうございます。

次回は 9月13日 17時30分を予定しております。


「面白い」「応援したい」と思ってくださったら☆やブクマをよろしくお願いします。

読んでくださるだけでも執筆の励みになります。

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