決心
エルサナは、急に背中がスース―することに違和感がありつつも、破れた所を魔法で直さなかった。これから戦いに行くのに、くだらない事に魔力を使いたくはなかったからだ。
「本の次には服…あなた破くの好きなの?」
「そんな趣味はありません。それより、本当に助けに行くんですか?」
「そうよ」
「俺の話し聞いてました?」
「聞いたわよ。そのうえで、私は彼を助けに行くの」
エルサナは、また歩き出した。
もういいや、後で恨まれようがかまわない、俺は気絶させようと腕に少し力を込めた。
間違っても首の骨を折らない様に―――
素早く振り下ろそうとしたその時、エルサナが話し出した。
「あぁ、そうそう!忘れてた。あなたに名前つけなきゃ」
俺は振り下ろそうとした手を止め、ゆっくりと降ろした。
聞き間違いか?名前…?
エルサナは、くるりと使い魔の方を向いた。
「仮契約から本契約よ。正式に私の使い魔になりなさい」
「・・・・・・」
「あれ…?喜ぶとこじゃないの??私のこともしかして嫌いなのかしら、本や服を破いたの私が嫌われていたからなの・・・・」
「いや、嫌いではないですけど…さっきちょっと嫌いになりかけました…」
「えっ…」
なぜ急に本契約する気になったのか、俺は問い詰めた。
「どうして、本契約しようと思ったんです?」
エルサナは真剣な顔付で答えた。
「あなた怖いんでしょ。また守れなかったらどうしようって…自分の非力さに、こうしとけば、ああしとけばって、ずっと後悔しているんでしょ?」
使い魔は何も言わなかった。ただ、じっとエルサナを見つめている。
「目の前で大切な人を守れなかった、そのせいで自分に自信がなくなってしまった。
また、失うかもしれない…ずっと不安なんでしょう」
図星だった。彼女の言う通り、俺はまた守れなかったら、また失ったらどうしようと考えてしまう。
今でも捕まって連行させる主の姿を思い出す。
エルサナは、俯いて体を震わせていた。
泣かせてしまったのか?別に泣かせたいわけではないけど、今回の主はよく泣くなと思う。
何か言って慰めないと。
「ある――――」
「それが何だというの!!!!」
突然の大きな声に体がビクッとなる。てゆうか泣いてなかった。
「あなたの過去はつらいもので大変だったでしょう、でも正直、私は関係ないわ!
戦争も知らない、平和な世界でぬくぬく過ごしてきた私には、想像しても分からない。
だから、私は私の好きなように生きる!」
堂々と言うエルサナに使い魔は面食らう。
「でも、勘違いしないで。死ぬつもりなんてもうとうないわ、痛いのも死ぬのも
私はごめんよ!」
「死にたくないなら逃げればいいじゃないですか…」
呆れながら言うと、主は俺に優しく微笑みかけた。
「そのためにあなたが居るんでしょう。私がピンチになったり、大怪我しない様に守ってね。あなたの事、信じているから、今度は最後まで守って見せなさい。死んだら祟りにいくから」
笑いながら言う主を見て、ふと、前の主の言葉を思い出した。
信じてるから。だって、あなた強いもの――――
使い魔はふふっと軽く笑った。
なに笑ってるのよとエルサナが言うと、さっさと行くわよとスタスタと歩いて行く。
使い魔は、エルサナの後ろ姿を見ながら思う。
今度の主はわがままだな…
心の中で不満を言っているが、意思は決まっている。
もう二度と失わないと――――
あっと声を上げたエルサナ。
「私は馬鹿なのかしら、本契約よ本契約…今から名前つけるから」
「俺の名前は決まってるんです?」
「フフ…かっこいい名前思いついたのよ。今からあなたの名前は―――」
――――
大きな木々たちが何本も倒されていく。
キメラが突進してくるので、避けるたびに次々折れていく。ぶつかった衝撃でケガでもしてくれればいいのにと、都合の良いことを考えてしまう。
あれから、どれくらい時間がたったか、二時間?いや、もしかしたらまだ一時間もたってないのかもしれない――――
アレックスは、一度退避した時に人形達に足止めをしてもらった。
その魔力の痕跡、それにエルサナが人形を大きくしてキメラの体に染みつかせてくれたおかげで、キメラの場所が容易にわかった。
真っ正面から戦いには挑まず奇襲をかけた。しかし、あまり効果はなかった。
それから、ヒット&アウェイでここまで戦ってきたが、自身の体力の限界が近いと感じていた。
エルサナに知らせを託したが、スムーズにいっても王都からここまで四時間はかかる、それまで自分が生きているとは思わない。
いずれ体力の限界がきてキメラに食べられる。
クソ、時間に余裕があればもっと魔法で攻撃できるのに――――
今更自分の能力不足に悩んでも仕方ないので、盾の人形に守ってもらい、剣で攻撃をしている間、弓での遠距離攻撃を繰り返しているが、最初の頃よりキメラが避ける様になった。次の攻撃パターンを考えていたら、キメラの尻尾が盾の人形に直撃した。
盾の人形が崩れバラバラになる。衝撃で体がよろめき、その隙を狙ってキメラが突進してきた。
(避けられない…!!)
防御の魔法を唱える時間はない。もうダメかと思った矢先――――
目にも留まらぬ速さでキメラに攻撃を掛ける影をみた。
幻視か…?と思ったがそうではない。確かに確実に、キメラに攻撃を仕掛けている
大きな影がある。
困惑していると、聞きなれた声が後ろから聞こえてきた。
「アレックス、こっちに!」
振り向くとエルサナが駆け寄り、アレックスの手を引きキメラから距離を取った。
「なっ、なにを君はどうしてここに…」
「幽霊でも見るような顔しないでよ。助けに来たのよ」
訳が分からないが、何とか状況整理をしようと脳をフル回転させた。
・・・・やっぱりわからない―――
ありきたりな言葉しか出てこなかった。
「どうして、助けにきたんだ?」
「目の前で死にに行く人を放っておけるほど、割り切れるタイプじゃないのよ私」
安心して。知らせはちゃんと送ったからと彼女は言うが、そうゆう問題ではない!
キメラの怒号がまた響く。
視線を移すと、キメラが体を震わせた。
大きな影は攻撃を止め、エルサナの近くに着地する。
よく見ると、彼女の使い魔だった。
「さぁ、みんなでキメラを倒しましょう!」
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次回は 9月9日 17時30分を予定しております。
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