過去
「主は、今日出会ったばかりの人間に対して、よく泣けますね」
この場の雰囲気に似合わない声色で話す、使い魔に少しイラっとした。
「なに、私が目の前で死に行きそうな人間を放っておくような奴に見えるの?
気にせず森を出ていくのかしら。そこまでクズに見える…?」
鏡がないから分からないけど、多分、私はものすごい怒った顔をしている。
怒りをあらわにして感情的になっても、物や人に暴力を振るうことは決してないが、今はその衝動に駆られている―――――まぁ、やらないけど。
「俺は、主の命が優先です。キメラと遭遇する前に森を出ましょう」
立ち上がった使い魔が、私を動くように言う。でも、私は動かなかった。
「主。このまま座っても意味ないですよ」
「分かってる、分かってるわよ。でも…私たちが――――」
「戦闘魔法を使えないなら、加勢しに行っても無駄です」
「――――っ!!」
正論だ。まさか使い魔に正論言われるなんて思いもしなかった。
「・・・・前の主も、今の主のように、他人をほっとけない人でした」
「えっ…」
「真っすぐで、優しくて、今の主と同じように『私は完璧な魔女よ』とよく自分を鼓舞してました。俺が今も生きてるのは、前の主のおかげです」
急に、自身の話をしはじめた使い魔に戸惑わざるを得なかった。
いきなり昔話しを語り出すなんてどうゆうつもり?困惑しながらも、エルサナは使い魔の話しに、静かに耳を傾けた。
「とても強い魔女でした。ほとんどの魔女が使い魔を道具のように使役してる中、主は自分の力だけで戦ってました。俺が盾になろうとしたら、本気で怒るんです」
命を大事にしなさい―――――
大丈夫よ。私は、強くて完璧な魔女だから!あなたは、私の盾にならないで―――
「ケガをしたら治療してくれるし、まともに食事がとれなかったら、どの木の実が食べられるか教えてくれたりしてくれました」
戦争で皆、笑顔が消えている中、主は笑顔を忘れなかった。
何人もの人間が、主の笑顔と魔法で救われたか。
笑うとえくぼが出て、目は三日月のようになり、右目の下にホクロがあって、いまでも主の顔は鮮明に覚えている。
俺は、主の為に生きると決めた―――――なのに
「終戦後、戦争に参加していた魔術師と魔女達の死刑が決まった。
おそらく、彼らの魔法を恐れた連中が決めたんだろう、力のあるやつらが次々に殺される。
魔法を使えること以外は、非力だからな、騙されたり、毒殺されたり…」
いつもの様に、相変わらず表情は分からないが、怒っていると肌で感じる。
「主も例外ではなかった、必死に隠れ俺が絶対守ると決めていた、のに・・・・
ある人間が死にそうになっているのを助けた主は、その人間が主が魔女だと告げ口した。
そして、主は捕まった。
当然俺も、一緒について行き死ぬつもりだった。
だけど主は――――」
大勢の人間たちが、主を抑えて捕まえた。
俺は捕まえた奴らを殺してでも、主を助けようとしたが、長期の逃亡に加え、何か月もロクに満足に食べておらず、体力も力もなかった。
主の魔力も、助けた人間に使ってしまい、ほとんどない。
ここまでか…せめて、主と一緒に死のう。
俺も一緒に行こうとした時――――
あなたまで死ぬことはないの、今までありがとう。次、もしまた召喚されることがあったら、新しい召喚者を守ってあげて。
きっとね 約束だよ―――――
「そう言って俺との契約を切った。最後まで笑顔で、お人好しなのは変わらず。
主との契約はそこで終わった…」
使い魔の話を聞いて、私は言葉が出なかった。
戦争をしらない平和しか知らない私は、なんと言えばいいのだろうか…
私が言葉に詰まっている中、使い魔は話し続けた。
「俺は前の主との約束を守るため、あなたを絶対に死なせません。仮契約とはいえ主は主です、俺が守ります。だから一緒に森を出て下さい」
使い魔が私を必死に守ろうとしているのは、前の召喚者との約束があるから。
きっと彼は、完璧じゃなくていい、いい人じゃなくていい、自分の命を大事にしてほしい、その思いがあるのね。
目の前で、大切な人が居なくなってしまう、守り切れなかったことが、彼の恐怖。
私が危険な所に飛び込もうとした時に、棘のある言い方をしたのも、昔の出来事があったから――――
使い魔の気持ちを知り、エルサナは考え込んだ。
「主、早く…」
その時、大きな怒号が森全体に響いた。空気がビリビリと避けるように揺らめいた。
匂いを嗅いだら、数キロ先でアレックスの魔力の匂いがした。恐らく、キメラと戦闘し始めたのだろう。
あの男が、どこまで持つか分からない。早く主を森の外に…
エルサナを見ると、まだ考え事をしている様子だった。
右手の人差し指を頬にトントン叩きながら黙ったまま。
もういっそ、気絶させて連れて行こうかとそう思っていたら、無言でいきなり立ち上がった。
ようやく森を出る決心がついたのかと、安堵したと思ったら、エルサナから思わぬ言葉を聞いて仰天した。
「あなたには悪いけど、私は彼を助けに行くわ」
「・・・・正気ですか」
この人は馬鹿なのかと心の中で舌打ちをしてしまった。声に出さないだけでも有難いと思って欲しい・・・・
「連絡はどうするんです?知らせに行かないと、誰も助けには来ませんよ」
「大丈夫よ」
主は、魔力を込めると手の平に、小さな青い鳥を作る。鳥にアレックスからもらった紙を咥えさせ、メッセージを込めると、鳥は空高く飛び立った。
「これで知らせは大丈夫。さぁ行きましょう」
主が、先ほど怒号のする方へと歩き出した。
俺は声よりも先に、思わず主の服を手で引っ張ってしまい
おかげで主の服がビリビリと裂けてしまった。
「~~~~~~~~っっ!!何してんの!?片付けの時の事を忘れたのかしら??」
ざっくりと服が破れ、背中が丸見えになり、大胆な服装になってしまった。
「・・・・主は意外とスタイルが良いんですね」
「まずは謝罪でしょ!!バカ!!!」
読んで頂きありがとうございます。
もう一話投稿してます。




