正体
「出会った時に、私は国の調査隊だと、君に説明をしたな」
「えぇ」
「すまない。あれは嘘で、私は各国を渡り歩いている秘密部隊の人間なんだ」
「・・・・秘密部隊って何の?」
エルサナに緊張が走る。
「主に、魔物退治や危険人物の排除。国王から直々の命令もある。表だって動けない事柄を代行し行う。簡単に言えば、国に認められている、暗殺部隊と思ってくれればいい」
「その部隊の人たちは、みんな魔法を使えるの?」
「いや。誰もが使えるわけではない。私が魔法を使えるのは、血筋が関係している」
「血筋?」
「あぁ。私の先祖は魔術師なんだ。昔、世界中で戦争をしていた時代に、活躍していたと伝えられている。一族に古くから伝えられているから、私は自然と魔法を習得出来たんだ」
歴史の授業の時に、魔術師が戦争で活躍していた、そんな話があったなと思い出した。それがきっかけなのか分からないが、終戦した後、一般での魔法戦闘行為を法律で禁止となった。
魔法は学べば誰でも習得できるが、独学での習得は禁止されており、魔女以外での使用も禁止。
―――――のはずなのだが、法律を決めている国が作っている部隊…
決まりもなにもないわね。
「聞いてもいいかしら。どうして私に話してくれたのかしら。秘密部隊なんだから、一般人――職業が魔女であるだけで一般人と変わらない――である私に教えたら、ダメなんじゃないの?」
少し間がありアレックスは答えた。
「確かに、誰それと教えてはいけないが、君に魔法を使えると知られた以上、隠し事が出来ないと判断した。・・・・それに、こんなことに君を巻き込んでしまって、申し訳ないと思っている」
そう言うと、アレックスは頭を下げた。
無理やり連れてきたあげく、命の危険にさらされた。そのことに怒りはあったが、彼の真剣な謝罪を受け、これ以上強くは言えなかった。
それに、気になることがある―――――
「調査隊が嘘なら、何の用事で森に来たの?」
「国王自ら依頼があったんだ。この森で、事故やケガが多発しているから様子を見に行ってくれと。あと、森の近くの町に魔女がいるから、使えそうなら連れて行ってもかまわないと言われたんだ…」
だから、魔女協会と法律院会の許可なしで私を連れていけたのね。国王から許可をもらっているなんて、ただの調査隊の人間じゃ出来ないことだし、そんな事いったら怪しいしね。というか、信じないと思うし…
「でも、以外ね。王様がこんな田舎町の森を気にするなんて、一度だけお会いしたことあるけど、民草にあまり興味がない印象だったわ」
一度、夜会に招待を受けたことがあり、その時に少しだけ話をしたのだが、上から目線で周りの従者に威張りちらし、我一番。って印象だったから、正直驚いた。
案外いい人だったのかしら…?記憶の中の印象だと想像がつかない。
「どうだろうな。私自身、この国の国王の事はよく知らない…。森の様子を確認するだけなら騎士団でもいいが、わざわざ我々の部隊に頼んだのだ、興味がないというわけではあるまい」
まぁ、ほとんど会って話もしてない王様の事を、いま考えてもしょうがないし。
むしろ、これからどうするのかを考えなきゃ――――
「あなたの正体は分かったわ。聞くけど、あなた一人で、あのキメラは倒せるのかしら」
アレックスが何か言おうとしたその時、エルサナの隣に座っていた使い魔が話し出した。
「見た所、魔力の力は十分にある。だがお前…魔力を込めるの苦手だろ」
「・・・・・・え??」
エルサナは、使い魔を思わず二度見し、自分の耳を疑った。こいつ、いまなんつった!?と思わんばかりの表情をする。
驚いていたのはエルサナだけで、アレックスは使い魔の言葉に特に気にしていなかった。むしろ関心していた。
「やはり君は気づいていたんだね。私が魔術師であることに…」
「上手く隠していたが、甲冑達からほんの少しだけ、魔力の匂いがした。それに、
お前が命令を出しているとき、ほんの少しだけ行動に移すのにズレがあった」
(嘘でしょ・・・・。私は、素早く動いてすごいなーとしか思わなかった)
エルサナは心の中でぼやき、今にもその場で、のたうち回りたいのを我慢した。
「キメラと戦っている時もそうだった。甲冑達に魔力の伝達が上手ければ、少しだが、キメラを追い詰められたかもしれない。致命傷まではいかないが…」
「なんで、あなた、そんなに詳しいの?」
エルサナの質問に、使い魔が淡々と答えた。
「昔、戦争していた時代に、一度だけ召喚されたことあるんですよ。それで、魔法を見たり知ったりしたんです、知識はそこからですね。あと、その時代に召喚された使い魔は使い捨ての駒として扱われましたね、爆弾をつけられて敵陣地を爆発させたり、敵の攻撃を防ぐ盾となったりと、色々させられましたよ」
「なによそれ!そんなの聞いたことないわよ!結構、本読む方だけど…そんな記述みたことないわ…!」
エルサナは、ついつい大声を出してしまった。
「おそらく、終戦後に魔女協会や国のトップたちが隠したんだろう。上の人達にとって、記録に残されると不都合だったんだろうな。よくある話だ…」
そんな、そんな事が戦争時代に起きていたなんて。使い魔だって、生きているのに、どうしてそんな惨い事が出来るのよ――――
「・・・・使い魔の召喚者って、魔女だった?魔術師はどうなの…」
「そうですね。俺が知っている範囲だと、召喚者は魔女だけでした。魔術師は基本、遠くからの攻撃のみを専門にしていたので…」
あの時の会話を思い出し、ギュッと胸が痛くなった。
俺たちは所詮、主の駒として動き死ぬんです―――――
私たち魔女が使い魔を道具として扱ってきたみたいな言い方して――――
何も知らないのは私じゃない…。ひどい事言ってしまったわ。
本を読んで知識を得て、世の中を知った気になってたのね。無知の無知という言葉が今の私にピッタリね…。馬鹿じゃないの
「何が完璧よ…全然ダメじゃないの、私…」
ついポツリと言ってしまった。声に出すつもりはなかったが、無意識に出てしまったらしい。その言葉を聞いていた使い魔が、エルサナを横目で見ていた。
――――
どれくらい時間がたったのだろうか、空気が重くのしかかり、無言が続く―――
しばらくして、アレックスが立ち上がった。手を閉じたり開いたりしながら、何やらブツブツと、独り言を言っている。
何をしているのかと見ていたら、アレックスは内ポケットから、手のひらサイズの紙を取り出し、それをエルサナに渡した。
紙には、金色の馬が描かれていた。
「これを町の警備団に見せれば、王直属の騎士団に連絡がつくようになる。そしたら、森にキメラが居ると報告してくれ。きっと騎士団が動いてくれる。君たちはこのまま森を出るんだ。」
「えっ、あなたは?」
「私は、キメラをこのままにはしておけない。もし、森を出て町にでも行ってしまえば、大変なことになる。このまま足止めをする」
アレックスは、手を握りしめ魔力を込めた。使い魔の言う通り、エルサナから見ても、魔力をスムーズに込められていない様子だった。
魔法を使用するときに、物であれ人であれ魔力を血液のように巡回させる。
そうすることによって、魔法を使えるのだが、アレックスは、魔力を込め巡回させるのが苦手のようだった。
魔力量は見た感じ十分にある、複数の人形を同時に操れる程の魔術を使えるから決して弱いわけではないが…
スピードや力のあるキメラ相手では、一歩遅れを取るだろう。
アレックスは再び、人形を作り出した。今度のは、一回り大きいい体をした盾を持つ人形一体と、剣を持つ接近戦専用三体に、弓を構えている遠距離型の人形二体を召喚した。
そして、エルサナに振り向き、また頭を下げた。
「改めて、君を危険なことに巻き込んでしまいすまなかった。君の使い魔ならスピードもあるし、キメラに見つかったとしても逃げられるだろう。無事を祈る」
「あっ、ちょっ・・・・」
エルサナは立ち上がり、止めようとしたが
アレックスはそのまま人形を連れ、走り去ってしまった。
エルサナは、その場から動けなかった。あのまま行かせて良かったのだろうか、本当にこのまま使い魔と森を出て、騎士団に連絡を取った方が良いのか…
分かるのは、知らせに森を出ると、アレックスの生存率は殆ど0に等しいだろう。
秘密部隊の人間なので、そう簡単には死なないだろうと思うが…
胸の奥が、チクリと痛む。
怖いのも、痛い思いをするのも嫌い――――
死ぬなんてもってのほか…でも、このまま行ってしまったら、彼は死んでしまうの?
木にもたれかかりズルズルと体が崩れ落ちる。
目には大粒の涙が浮かぶ。
「・・・・私、どうしたら・・・・」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は 9月7日 17時30分を予定しております。
二話分を投稿します。
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