森へ・・・
「えっおじさまが!?どうして森に…」
「話しぶりからして、森でのケガや事故が相次いでいると、あなた方は知っているということですね。どうしてご主人は行かれたのですか?」
驚いたエルサナを横に、アレックスが落ち着いた口調で奥さんに聞いた。
「あの森で希少な薬草が取れるって、よく主人が話してまして。昨日も薬草を取りに行ってくると言って…最近、森でケガをする人が多いからと止めたんですけど、
奥に入らないから大丈夫だと言ってそのまま行ってしまって―――」
薬草屋の奥さんは涙目になり
「あの時止めておけば、主人は―――」
「おばさま。まだ、おじさまが死んだとは限らないわ」
慌ててエルサナがフォローした
「そうですね、もしかしたらケガをして動けないだけかもしれませんし…急いでご主人の捜索をしに行きましょう」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
アレックスは部下に指示を出し、馬で森に向かおうと準備を始めた。
きびきびと無駄のない動きで、よく訓練されていると思わせる。
無駄がなさすぎて人形みたい―――その惚れ惚れするような動きを横目で見ながら、私はようやく解放された使い魔の元に行き、怒りをぶつけた。
「あなたね!お腹がすいたなら私に言えば良かったじゃないの。おかげで周りに迷惑かけ、私に恥をかかせたわね!それとも、そうゆうのも逐一命令しないといけないのかしら」
「すみません。裏庭から主の姿を見た時、話しかけるべきではないと判断しました。
まさか木の実を食べて、掃除していただけで、槍を向けられるとは思いませんでしたので…」
はぁぁと深いため息をつく
(使い魔ってみんなこんな感じなのかしら…雑務を代わりにしてくれて、少しでも楽しようと思ったのに、これじゃ面倒ごとが増えただけじゃない)
怒られているというに、目の前の使い魔は顔色一つ変えず―――クマなので表情は読み取りずらいけど―――じっと調査隊の様子を見ている。
話し聞いてるの!?と、怒鳴り散らしたい気持ちをグッとこらえているエルサナの元に、薬草屋の奥さんが話かけてきた。
「エルサナちゃん。ごめんなさいね、私の早とちりで迷惑かけちゃって…」
「いえいえ大丈夫ですよ。それよりも、おじさまが心配ですね。無事見つかるといいんですけど…」
「エルサナちゃんも一緒に行くんじゃないの?」
驚いた奥さんに、エルサナは説明をした。
「ごめんなさいおばさま。魔女は基本、危険な調査や魔物退治等の依頼は受けられないの。人々の生活等を手助けするのが、主に魔女の仕事なのよ。
危険のない調査に同行したり、受けたりもするけど…今回は事故が多発している森だから―――」
薬草屋の奥さんは、悲しい表情を浮かべ小さくうなずくしかなかった。
「そう、ごめんなさい勉強不足で…エルサナちゃんなら、何とかしてくれると勝手に思い込んでいたわ」
「お役に立てずにごめんさない。よかったらお茶をお出しするわ、少しは落ち着くと思います」
そうするわと薬草屋の奥さんは言い、二人と一匹は家へと入ろうとした、
その時―――
「何をしている、君も準備をしたまえ」
アレックスが呼びかけた。
「・・・・失礼ですが、私に言ってます?」
「? 君以外に誰が居る。使い魔と共に森へ行き、店主を探しに行くぞ」
当たり前のように言うアレックスに、驚きを隠せないエルサナ。
魔女の決められた法律と規則とか知らないんですか?と言いたい気持ちを抑えて、穏やかな口調で説明した。
「申し訳ありませんが、私たち魔女は危険な場所へは行けません。あくまで、人々の生活のサポートをするのが、お仕事ですので…」
「だから同行は出来ない、そう言いたいのか?」
「そうです。申し訳ありま―――」
「だが魔女協会と国の最高法律院会の許可があれば、どんな場所にも同行させられる、そうだろ?」
エルサナは目を見開いてアレックスをみた。
おかしい、おかしいのだ、その情報を知っていることが―――
「なぜ、知っているんですか…その事は魔女と法律院会しか知らない情報ですよ…」
「追加で国王だな。協会と院会に許可を得ている時間はない、急ぎ準備をし馬に乗れ」
いやいやいや!?あなたは何を言ってるのかしら!!???
そもそもどうして、そのことを知っているのか答えてないですし、許可がなければ
私は同行出来ないのよ!?と言葉にしたいが驚きのあまり声に出せなかった。
隣にいるおばさまは、よかったーみたいな顔してるけど、私は全然良くないわ。
危険な場所への同行なんてしたこともないし、ケガとかが嫌でそういったのとは無縁なこの土地を選んだのに…とゆうか―――
「何を呆けてる早くしろ」
アレックスがさらに鋭い目つきで急かしてきた。
「あの…すみませんが、許可がないのに私が同行出来るわけないじゃないですか。
勝手に行くのも大問題ですし、怒られるだけならマシですが、最悪魔女の資格を剥奪されるかもしれません。あなたにどんな権力があるのか知りませんが、やはりちゃんと―――」
「話が長い、いいから来い」
話しの途中でアレックスが無理やり手首を掴み、驚くエルサナをよそに
そのまま待機している馬の方へ無理やり移動させる。
「だ…だから!話を―――」
「時間がない行くぞ」
「許可!許可取って!」
「私がいいと言っている、問題ない」
「意味が分かりません!?」
「うるさい…」
深いため息をついたと思ったら、今度は俵担ぎをし、逃げられない様にした。
暴れてもびくともしない、そして抵抗も空しくアレックスの乗って来た馬に乗せられた。
アレックスはエルサナの後ろに座り部下に号令を掛けた。
「森に向け出発だ。到着次第、すぐに店主の捜索を始める―――行くぞ」
掛け声と共に、全速力で馬が走り出した。乗馬に慣れてないエルサナは落ちそうになったが、アレックスが上手く支えてくれて何とか落ちずに済んだ。
「ま、待ちなさい!私の使い魔は?一緒に行くって話じゃないの!?」
グラグラと視界が揺れる中でエルサナは叫んだ。
「問題ない。君の使い魔は、私の隣で一緒に走っている」
えっ―――そう思い右隣を見たら、同じスピードで並んで走っている巨大クマの姿があった。大きい図体のわりに走る音は静かだったので気づかなかった。
「あなたね!主人が連れてかれそうになっているのに、どうして助けないのよ!?」
「すみません。その人が主に対して殺意がなかったので、危険はないと判断しました。それに―――」
チラリとアレックスに視線を向けたかと思えば、直ぐに視線を前に向け直した
「少ししんどいな…」
「? 何言ってるのよあなたは。もう疲れたの…?」
「疲れてませんよ主。気にしないでください」
キッパリと言うので、これ以上は聞いても無駄だと判断しエルサナは黙った。
しばらくの沈黙の中でアレックスが話しかけてきた。
「そういえば、君の使い魔の名前は?」
「まだ名付けてません…仮契約中です」
「なぜ直ぐにでも本契約しないのだ?君の使い魔は優秀なのに」
優秀…??片付けも出来ない、本はボロボロにするし、問題を引き起こすこの子が
優秀ですって!?なんだか頭が痛くなってきた。
私はただ、身の回りの世話をしてくれる使い魔が欲しかっただけなのに…。
この子が片付けも出来て、問題を引き起こさなければ、直ぐにでも名前を付けて本契約をするのに―――
「仮契約のままだと本来の力を発揮できないと聞く。君が何を考えてるのか知らないが、彼の為にも本契約はしといた方が良い。聞くところに、仮契約のまま二日経てば使い魔は元の世界に退去するとか…」
「…気になったんですが、どうしてそんなに詳しい知識持ってるんですか?実は魔女とか言わないですよね…」
「………そんな訳ないだろう。君から見て私は女に見えるのか?」
アレックスは少し驚いたような表情で答えた。
女性だなんて思ってもないけど、業界にしか知りえない情報を持ってたら誰だって思うでしょ…彼が何者かは分からない限り信用は出来ないわ。
おじさまの安否は心配だし一緒に捜索はするけど、見つけ次第転送魔術を使って町に帰るわ。魔力の消費が多すぎるから、しばらく動けなくなるのが難点だけど――
あれこれと考えていたら例の森に到着した。
エルサナ自身も何度か森に来たことはあったが、以前来た時よりもジメジメしていて薄暗く感じた。
(この森こんな空気だったかしら…もう少しカラッとしてて気持ちの良いところだったはず―――)
なんだかモヤモヤを感じながら森を見ていたら、アレックスが馬から降ろしてくれた。久しぶりの地面に感動し、ついつい足をパタパタと動かした。その様子を見ていた使い魔が傍に寄り小さく囁いた。
「主はあの男に興味が湧いたんです?」
「ちっ違うわよ!?なに言ってんのあんたは!」
あたふたとしながら、短い言葉を交わし
アレックス率いる部下数名と魔女と使い魔は森へと入っていった。
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次回は 火曜日17時30分を予定しております。
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