調査隊アレックス
エルサナは、今だに片づけを(実際散らかってる)している使い魔に向かい大声を上げた。
「何よこれは!どうして前より散らかってるのよ。説明なさい―――クマ!!!!」
「ちょっ…めちゃシンプルに呼びますね、まぁいいや。言われた通り片付けてますよ主?」
使い魔はキョトンとした顔で言った。
「あ、主なんてあなた、古臭い呼び方するのね」
つま先立ちになり床に散らばっている本と書類を踏まないように歩き、使い魔が持っている本を奪い取った。
「も~~~この本高かったのに!表紙も中もビリビリに破けてるじゃないの」
「すみません。爪立てないように気を付けてるんですけど…」
そう言うと使い魔は、少しでもかすれば肉をえぐりそうな鋭利な爪でゆっくりと
本を持ち上げたが、予想通り本をつかんだ時に爪で表紙を傷つけてしまった。
「最初は力加減を間違えて爪で本を貫通させてしまいましたけど、今は少しづつ慣れてきたんで、大丈夫です。」
「全然大丈夫じゃないわよ!?本がズタズタなの変わらないし、ゆっくり過ぎて時間かかりすぎ」
はぁと大きなため息を尽き、エルサナは使い魔に指さしながら次の命令を下した。
「もうここはいいから外の庭掃除をお願い出来る?」
「分かりました」
のしのしと歩きながら使い魔は部屋を出て行った。
エルサナは使い魔が出ていくのを見送った後、散らかった部屋の片づけを始めた。
魔法でまず本を浮かばせて、それから細かく刻まれた書類を拾い集めながらエルサナは考えていた。
(よくよく考えたらあんな図体と手で細かい作業は難しかったわね。今回は私の
命令がよくなかったわ。反省、反省…)
反省と心の中で思ってはいるが、ボロボロに破れた本の残骸を見るたびに、
本当に自分が悪いのか?おかしくないか?と不満が出てくる。
そうこうと考えているうちに部屋の掃除は終わり、次にダイニングテーブルへ向かい、今日買った物を戸棚へと入れている中チラリと目線を窓の外へと移した。
動きは遅いながらも丁寧に草むしりをしている巨大クマの姿が見えた。
一流の魔女は、使い魔も一流である―――
魔女になる時に教えられた講師の言葉を思い出す。
大丈夫よ私ならきっと…そう思い、仕事に取り掛かるため仕事部屋へ入った。
最近、森へ狩りに出かけるとケガをする事案が多く、ケガを治して欲しいと依頼が後を絶えない。そのため薬草が足りなくなり今日買いに行ったのだ。
(先月よりもケガ人が増えている、全員町から数キロ離れた森へ行きケガをしたとのこと…)
治療を依頼したケガ人のリストを見ながら、傷に効く薬草と免疫力を高めてくれる魔法薬を混ぜながら何が原因なのかを考えた。
(手や足に深い切り傷の人もいれば、足を骨折した人もいる。皆、ケガの理由を聞いても口をそろえて『何も分からない。気づいたらケガしてた』と…)
次に混ぜ終えた薬を一つ一つ丁寧に小瓶へと分けていった。
作業しながらもエルサナは思考を止めない。
(あの辺りには危険な獣も居ないし、居るのは鹿とかウサギといったおとなしい動物ばかり、仮に襲われたのなら誰か一人でも姿を見ているはず。
でも、だれも何も見ていない…)
依頼分の薬を作り終えフーと軽いため息をついた。
考えるときの癖で右手の人差し指を頬にトントン叩きながらつぶやいた。
「気づいたら、ね。記憶でも消されてる?それとも…」
エルサナは気になりはじめ、部屋の壁一面にある本棚へいき魔導書を片っ端から開き調べ始めた。
気になったら調べずにはいられない―――
これでもない、あれでもないと呟きながら次々と本を床に置き、気づけば床は本の山でいっぱいになったが、エルサナは気にも留めず調べ続けた。
やがて日は陰り空は完全な闇へとなった。
床に座り手元には文字が見える程度の明かりを灯したランプを置き、水も食事も取らずに今だ魔導書とにらめっこをしている。
正直な話し、本来魔女は自身の事以外に関し関わらない事がほとんどである。
何故なら、依頼以外にも国から魔法等の研究やら何やらで忙しくしていたり、
単に面倒ごとに関わりたくない、日々の生活でそれどころだはないと理由は様々だ。
なので、自ら原因を調べ調査する魔女は、単に暇人か物好きか、あるいは他に理由があるのか―――
それらしい項目は見るものの、自身が納得する様なものはなく
ペラペラとページをめくる音だけが部屋に響いてゆく。
長い時間にらめっこをしていたが、ついに力尽きてしまい本を持ったまま眠ってしまった。
―――なにか音が……
窓から差し込む日の光を浴びながら、ぼやけた視界をこすり起きた。
―――なんの音かしら?外から…
固い床で寝てたので体のあちこちが痛むが、気にせず立ち上がり両腕を上げ背伸びをした、ちゃんとベットで寝ようと思ってるけど中々出来ないのよね。
まだ眠気は飛んではいないけど音が気になって部屋を出た。
(ガシャガシャとうるさいわね。何かしら)
怪訝な顔で外に出たら、庭で甲冑を着た人たちがおり、自身の使い魔を囲って
動けないよう槍を向けていた。その近くに隊長らしき人物が何やら老婆と話をしている様子であった。
「なんなのこの状況は…?」
「あぁエルサナちゃん。よかったわ無事で!」
エルサナの姿を見るなり老婆は、安心した顔で話しかけてきた。
よく見ると、その老婆は昨日行った薬草屋の店主の奥さんである。
「ええと…おはようございます、おばさま?あの、無事って何のことでしょうか…」
寝起きで頭が回ってなくて訳が分からず質問する。
「君がこの町に住んでいる魔女のエルサナか?」
さっきまでおばさまと話をしていた青年が鋭い目つきで、私に話しかけてきた。
明るい金髪にエメラルドグリーンの瞳、他の者が甲冑に対し彼は、紺色の軍服に
金色の馬が描かれた刺繍のマントを羽織っていた。
歳は私と同じくらいに見えた。
「そうよ、あなたは?」
「私は国の調査隊の隊長、アレックスだ。近頃この町の近辺の森でケガをする事故が多発していると聞いて、調査の為この町に訪れた」
「そう、森の件は私も気になっているところだわ。わざわざ遠くからお疲れさまと言いたいところだけど、この状況は何なのかしら」
「それは、このご婦人に聞いた方がいい」
アレックスはそう言うと、心配そうな顔をしている薬草屋の奥さんに説明するよう促した。
「実は今日、エルサナちゃんにお願いがあって朝方ここに来たのよ。
そしたら、裏庭から大きな音がしてね、エルサナちゃんが何か作業でもしているのかと思って入っていったのよ」
薬草屋の奥さんは顔を真っ青にし、どっしりと座っている使い魔に視線を送りながら続けた。
「裏庭に来たらビックリ!この巨大なクマが鎌を待ちながら歩いていたのよ。
倉庫はぐちゃぐちゃになってて、私エルサナちゃんに何かあったかと思って、
急いで警備隊の所に向かおうとしたら、偶然隊長さんたちに会ったのよ」
「ちょうど我々は例の森へと行こうとしているところご婦人と会ったのだ。
かなり切羽詰まった様子だったので、事情を聞き巨大クマを捕まえたところ、君が現れたということだ」
薬草屋の奥さんが両手で顔を隠し、大きく息を吐いた。
「クマの手や口周りに赤い血がついてて、もしかしたら食べられてしまったのかと心配したわ。無事な姿を見れてホッとしたわ…」
なるほどと状況は理解したけど、まず先に言っておかなければならないことがあった。
「ご心配ありがとう、おばさま。あとこの巨大クマは私の使い魔なのよ。危害を加えることはないから、安心して欲しいわ」
「何、使い魔だと?」
アレックスが驚いた様子で使い魔を見た。
今だ部下たちに槍を向けられて身動きが取れない状態だが、落ち着いた声でアレックスに話しかけてきた。
「昨日、主に召喚された使い魔です。鎌を持ってたのは主の命令で、庭掃除をしていただけです」
「その手や口周りにある赤いのは?」
「お腹すいてたんで辺りに生えてる木の実を食べたんです。主は昨日から部屋に籠りっぱなしで出て来なくて、主のものを勝手に食べるわけにはいかないので…」
呆れた顔でアレックスに見られて苦笑いするしかない。
「使い魔に食事を与えないとは、君は魔女としての自覚はあるのかね?」
「す、すみません…」
恥ずかしさと、自身への情けなさで顔が熱くなる。
―――しっかりしなさい、エルサナ!完璧な魔女になるって決めたじゃない
それはそうと切り替えて、エルサナは薬草屋の奥さんに話しかけた。
「そういえば、おばさまは何の用事で私の所へ?」
「あぁ!そうよ!大変なことになったのよ、うちの主人が昨日から帰ってこないのよ。例の森に行ってから」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は 明後日17時30分を予定しております。
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