はじめての召喚
小説初投稿です。
のんびりと読んで頂ければと思ってます。
エルサナは深く深呼吸をしていた。
何故ならこれから行われることは彼女が魔女になって初めての召喚儀式である――
肘まで伸びたウェーブかかったホワイトブロンズ髪に、切れ長の目には
黒曜石を思わせる瞳に、レースがきれいに編み込まれた黒いドレスを纏いながら彼女は心の中でつぶやいた。
(大丈夫、何度も本を読みこんだしイメトレもバッチリ…)
本と書類の山で覆われたお世辞にも綺麗とは言えない部屋でエルサナは目を閉じ
床に描かれてる魔法陣の前で精神を整えた。
窓の隙間から風が入り、お気に入りの金のピアスが揺れながら学生時代の講師達の言葉を思い出した。
一流の魔女は使い魔も一流である
魔女の世界ではそれが当たり前。エルサナは先人たちの言葉を信じ、ひた向きに努力を重ね学生時代は常にトップであり続けた。
卒業をした今、魔術の研究に没頭しており依頼も増え忙しい毎日を送っている。
(細かい作業とか色々手が回らなくなってきたし…そろそろ使い魔を召喚してもいいころ合いよね)
もう一度深呼吸をした
(私は、一流の魔女…私は一流の魔女―――)
意を決しエルサナは全身に力を入れた
エルサナの体に光がまとい、部屋全体に大きな風が吹く
「我が命に従い出でよ―――」
魔法陣が赤く燃え部屋全体を包んだ。
不思議と熱くはなくハーブティーを飲んでホッと一息つく様な、何とも言えない心地よさを感じた。
そして、魔法陣の中心から大きな光が出てきた
「我に忠誠を尽くし、その命朽ちるまで共に歩む事を命ずる―――
我の前にて姿を現せ、ファミリア!」
光は大きくなり辺りはほとんど見えなくなった。
(まぶしい…何も見えないわね。でも、召喚は成功ね)
部屋全体に覆っていた光はゆっくり消えて行き、少しづつ目が慣れてきた。
「さぁて、どんな子が私の使い魔なのかしら。フクロウ?定番のネコも良いわね。私の使い魔なんだもん美しい姿じゃなきゃ…」
エルサナは、目の前に映る光景を前に動揺を隠せなかった。
―――こんなことってあり得るの?何かの間違い!?
開いた口が塞がらない、生まれて初めての経験である
エルサナはしばらく沈黙していたが、ようやく今にも消え入りそうな声を絞り出した。
「クマの使い魔なんて…聞いたこと、ないわよ…」
魔法陣の中央に居たのは体長三メートルほどもある大きな体に、両手には大きなひづめを出し、両脚を前にして、どっしりと座っている巨大なクマの使い魔であった。
魔女の世界で、使い魔は基本ネコやフクロウなどの鳥類系の生き物、中には
トカゲや蛇といった爬虫類系などを使い魔にしている者もいるが、ほどんどは何処に行っても邪魔にならず作業もスムーズに行うことが出来るサイズである。
あまりに大きすぎると目立つし人目に付きやすい。
(どうしましょう。こんなに大きいと街まで一緒に行動なんて難しいわよ…)
お互いに見つめたまま重い空気が流れる。
先に口を開いたのは意外にも使い魔の方だった。
「あの…なんか命令してくれませんか?」
「へ?あっ、命令…?」
「そうです。何か言ってくれないと俺たち使い魔は何にも動けないので…」
「そ、そうね…」
クマの使い魔は前例がないのでエルサナは、なんと命令すればよいのか考えた。
昔、自分の使い魔に雑に命令し扱っていた魔女が居たらしく、日々激務に追われ
身も心も疲れ果て、そのうち精神を患い、使い魔は自ら命を絶ったとの事。
その事がきっかけで使い魔に対してのマニュアル本も出て、使い魔も同じ生き物なのだから大切に扱うようにと魔女の世界に浸透していった。
(本の知識は役に立たないし、簡単な命令を出して様子を見ようかしら)
エルサナは散らばった本と書類の山を指さし命令した。
「じゃあ早速なんだけど、この本と書類を分けてくれるかしら。日付や種類別とか気にしなくていいから本と書類だけで簡単に分けてくれればいいわ」
使い魔は軽くうなずき、ゆっくりと立ち上がった。頭と部屋の天井まで隙間がほとんどなく使い魔は、動きずらそうな様子であった。
自分が居ると作業の邪魔になると感じたエルサナは、別の用事を済まそうと思い
部屋を出ようとした。
「私、出かけてくるから作業が終わったら家の掃除とかお願いね。いってくるわ」
そう言い残すとエルサナは外へ出掛けて行った。
エルサナは、いつもお世話になっている薬草屋を訪ねに歩いた。
ここは、都心から離れている場所で、自然も多くお店の数も十分にある。
町全体がのどかな雰囲気で、エルサナはここを気に入っていた。
建物はほとんどがレンガで建てており、通りには色とりどりの花が咲いていて
一年を通し楽しむ仕組みになっている。
町の飲み水として使われている井戸を通り抜けた先に目当てのお店が見えてきた。
「おじさま。いらっしゃるかしら」
「おお。エルサナちゃんいらっしゃい」
店の店主は笑顔で挨拶をした。
ボサボサの白髪交じりの髪に無精髭を生やした細身の老人で、椅子に座りながら
薬草の世話をしている最中だった。
「ちょうど今ね、お願いされてた薬草が取れるところなんだ。少し待っててくれんか?」
「えぇ、問題ないわ。その間お店を見て回るから」
店内は草や花、土の匂いが漂っており商品を枯らさない為、日を当てない構造になっており、店の中の匂いはいつも独特な香りが漂っていて、例えるなら糞まみれの牧草にスパイスチャイとバニラビーンズの甘い香りが混ざった何とも言えない香りである。
エルサナは気にせず商品を眺めて回った、独特な臭いのおかげで人が来ずゆっくりと商品を拝見できる。
しばらくして、店主が薬草を持ってきた。
「はい。これでいいかね?」
「問題ないわ。いつもありがとうおじさま」
「なんの、なんの!エルサナちゃんの為なら、どんな希少な薬草でも出してあげるよ。また入用なら言ってくれ」
「まぁ頼もしいわ、またお願いするわね」
エルサナはそう言うと店主にウインクをし、お金を払い店を後にした。
次に、食糧を買いに町の中心にある市場へと向かった。
市場でもエルサナは人気者で店で物を一つでも買えばおまけをつけてくれたり、
料金を安くしてくれたりと良くしてくれた。
今日は野菜売りの女性から仕事の依頼を頼まれたりと、エルサナの周りには何かと人が集まった。
―――フフ…今日も私は完璧ね。
魔女業も昨今政治や国の経済によって仕事が減りつつある。
そのため、人が集まりやすい都心に魔女達が移り住み依頼を貰おうとするが、
逆に魔女の数が有り余り、仕事を奪う争奪戦状態になっている。
エルサナは先を見越し、都心から離れたあまり知られていない町に移り住み
地道に依頼をこなし信頼を獲ていった。
今やエルサナは、町の人たちにとって重宝される存在になった。
(昔は、こちらから動かなくても勝手に仕事が舞い込んできたらしいけど
もうそんな時代は終わり終わり。今の時代、魔女もビジネスを覚えなきゃね。
言わば今の私は、新時代のキャリアウィッチってとこかしら)
なんかゴロ悪いかな?ビジネスソーサラー??などなど思い浮かべながら
エルサナは意気揚々と買い物を終え、家に帰えろうと来た道を戻り始めた。
「依頼の話もしてたから予定より帰るの遅くなっちゃった。もう片付け終わってるかしら…」
そうつぶやきながら家の玄関扉を開け、荷物をダイニングテーブルに置き、
召喚儀式を行った部屋の前で声をかけた。
「ただいま。もう片付け終わってるかしら―――」
扉を開けた瞬間エルサナはまたも動揺した。
何故なら、部屋の中はより散らかっていたからだ。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は 2日後の17時30分を予定しております。
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