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魔女とクマの使い魔  作者: 雪白せっか


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17/18

昔話 (終)

 

 聞き間違えかしら?…エルサナはもう一度聞いた。


「兄さま、すみません。なんとおっしゃいましたか?」


 兄さまは照れくさそうに同じセリフを言った。


「ははは…恥ずかしいだろう。

 俺、本当は魔法使いになりたかったって言ったんだ」


 聞き間違いではなかった。

 衝撃的な告白に脳がフリーズを起こす。

 あの兄さまが…?

 全くそんなそぶりもなかったし、分からなかった。


 真面目に勉強をし、学生時代は成績トップにスポーツ万能

 会長にもなり、誰もが一目置く存在。

 容姿も身長にも恵まれ、一族の次期当主。

 絵に描いたような人で、幼い頃から遊びも、大人になった今でも娯楽もせず

 真剣に父様の仕事をお手伝いしている。


 全然知らなかった――――

 いつから、とありきたりな疑問しか浮かばなかった。


「エルが幼い頃、家族で隣国に旅行をしに行ったときかな…

 とある商店街に買い物に来た時、一度だけ父様達とはぐれたんだ。

 その時、商店街の路地裏に迷い込んだんだけど…

 そこで魔女に会ったんだ!

 綺麗で優しい人でな、特別に魔法を見せてくれたり、魔導書を触らせてくれて

 凄く興奮したんだよ」


 兄さまはキラキラと目を輝かせながら、当時の事を鮮明に話す。

 まるで小さな子供が、自分だけの特別なおもちゃを貰ったかのように

 はしゃいでいた。


 兄さまも…こんな表情するんだ―――――



「遠い東の国の魔法らしくて、空に火の玉?を打ち上げて

 花びらのように咲かせる魔法なんだと!

 威力を抑えて見せてくれたんだが、今まで見たこともないくらい

 綺麗で、幻想的な世界に迷う込んだと錯覚するほどだった…」



 わたしは、そんな魔法があるんだなと感心した

 国々によって、多種多様の魔法が存在するのね。



「幼かった俺は、その魔女に聞いたんだ。

『どうやったら魔法使いになれますか?』って…

 そしたら、今の時代に魔法を使えるのは魔女だけ。女性のみ。と言われた

 後で調べたら、法律で決められていたことを知った…

 当時の俺はすごくショックを受けた…」


 どうしてか、魔法の習得や使用は魔女のみ

 それも女性限定とされている。

 なんで、国がこんな法律を作ったのかは謎のままだが…

 基本的に魔女という名の職業は、世界的にもあまり浸透していないし

 何故、女性のみなのかも、皆そこまで気にもならない。

 良く分からないものを目指すより、手に職。地に足がついた仕事を

 大体の人は好む。


「それでも魔法を使いたい気持ちが止むこともなく

 父様に話したんだ。

『魔法を女性だけでなく、どんな人でも使用できるよう法律を変えませんか?』

 そういったこともあったんだ。

 まぁ…予想通り、父様にこっぴどく怒られたよ。

 くだらないことを言ってるんじゃない!ってな」



 ははは と兄さまは笑うが、その姿がどこか寂しそうだった。



「もしかして兄さま、わたしが裏庭で魔導書を読んでいた時―――」


「エルが魔導書を読んでいると聞いた時、驚いたよ。

 本自体ニセモノだから問題はないけど、ただでさえ父様はエルに冷たいだろ…

 魔導書を読んでいると分かったら、さらにひどい事されるんじゃないかと思ったんだ」


 あり得ることだ…

 父様は厳格で、空想や現実的ではないものを嫌う。

 屋敷に冒険もの、物語系の本がほとんど無いのも

 父様が嫌っていたからでもある。


「偽物だから…エルは本が好きだから…ただ興味本位で読んでいるだけ…

 でも、あんなにも楽しそうにしているエルを見て、不安になったんだ。

 もしかして、魔法に興味を持ったんじゃないか

 魔女になりたいなんていったら…

 そんなことを言ったら、父様との関係は終わってしまう

 そう考えていたんだが、まさか、母様がエルを…」



「・・・・・・・・・・」




 わたしは何もいえない。

 言いたくないともいえる。


 だけど、兄さまが魔法使いになりたかったとか、わたしを心配して下さったことは

 とても嬉しかった。

 ずっと母様に愛されたい、褒められたい、見て欲しい…

 そんなことばかり考えていたから

 家族に、近しい人に

 こんなにも、わたしを大切に思ってくれる人がいる。

 その事実が、わたしの冷えた心を温めてくれる。



「しんみりするような話をして、すまない。

 ・・・・・そろそろ出航の時間だな」


「そうですね・・・・・・」



 ふと わたしは顔を上げた。

 空には満点の星空が輝いており、肉眼でもくっきりと見えた。

 ミルキーウェイが美しく川のように流れている。

 確か、ギリシャ神話の女神ヘラが母乳をこぼした跡だとか…

 本で得た知識が、頭の中で浮かび上がる。



 あなた本ばかり読んでいたから、知(・)識(・)だ(・)け(・)は(・)あ(・)る(・)も(・)の(・)ね(・)――――



 母様の言葉を思い出し

 ズキリと胸が痛む。

 だが、あの時のように泣いたりはしなかった。


 母様…わたしは、その知識だけで、これから生きていきます。

 何に挑戦しても、上達しなかったわたしですが

 知識だけはわたしの生きてきた証…宝物なのです。




 ありがとう母様… さようなら…




 深く深呼吸をし、エルサナは隣にいる兄に笑顔で

 別れを告げる。



「兄さま 今までありがとうございました。

 わたし、立派な魔女になって

 たくさん、たくさんの魔法を習得してみせます。

 多くの人に愛される、完璧な魔女になってみせます」



「・・・・・そっか、楽しみだな・・・・」



 わたしはトランク持ち、船に向かおうと歩きだしたら――――



「エル これだけ持っていってくれないか?」



 振り返えると、兄さまの手に茶色の紙袋があった。



「誕生日、15の誕生日お祝いしなかっただろ…

 エルが必要ないって、やらなかったけど…

 これ、俺からの贈り物だ。

 大事にしてくれると嬉しい」


 紙袋を開けると、輪っかの形をした金のピアスが二つ。

 それはこれまで身につけてきた、どのアクセサリーよりも輝いてみえた。


「ほとんどアクセサリーとか、おしゃれな物は置いてきたんだろ…

 ピアスは家では禁止だったけど、もうエルは自由な人生を送るんだ

 好きにつけてもいいと思ってな」


「ありがとう兄さま・・・・

 大切にします・・・・」



 二人は互いに別れを告げ抱き合う。

 これが最後だと理解していた

 もう二度と会うことはない…

 エルサナが家に戻ることはないだろう。




 わたしは振り返ることもなく船に乗り込んだ。

 兄様の姿を見てしまえば覚悟が揺れる、帰りたいと言ってしまう

 そう思い船が出航し、港が見えなくなるまで

 わたしは夜空の星を見上げていた。


 宝石をちりばめたかの様に美しく輝いていて、海に反射して世界丸ごと

 星空になったかのように感じた。


 あの星は…この星座は…

 ここから遠い国では…海は…


 わたしは兄から貰ったピアスを掲げ、輪っかの中心を覗き見る

 望遠鏡の如く星を観測する。

 視ていると 遠くで星が流れた。



 いつの日か、あの星を捕まえることができるかしら・・・・



 くすりと笑みを浮かべ、潮風に当たりながら、帽子を取る。


 見事なホワイトブロンズの髪がなびく

 もう貴族じゃない、ただの15の女の子。

 ただの女の子が、魔女になるため故郷を離れ、家を出て

 一人ぼっちになった。



「でも…決めたんだもん…」



 わたし…いや、私は

 完璧な魔女になる!!――――――




 ―――――――




 兄から貰ったピアスが風に揺れる。

 ゴンザレスに寄りかかり、座りながら星を見上げていた。


 あの頃にみた星と変わらない…

 住む世界は違えど空は繋がっている。


(兄さま、元気かなぁ・・・・)


 船で別れてから、6年経った。

 21になり、立派な大人の女性へと成長した。


 魔法もたくさん覚えたし、本も今でも変わらず読むし

 多くの人に必要とされる魔女になったよ、兄さま…



「私の昔話はこんな感じかしら…

 どう?大して面白い話じゃなかったでしょ」



 しばらくしても返事がないのでゴンザレスの顔を覗くと、目をつぶり

 すやすやと弾むような寝息が聞こえる。

 大きい図体の割に、軽やかで、どこか小気味よい。


 出血していた前脚、後ろ脚は、誰かが手当てをしてくれたのだろう

 丁寧に包帯が巻かれていた。


 そうよね、疲れたわよね…

 私はゴンザレスに、おやすみと囁きかける。



 エルサナは星へと視線を戻し、遠い国に居る兄を想い

 静かに目を閉じた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

次回は 明日 17時30分を予定しております。


次で最終回です。


「面白い」「応援したい」と思ってくださったら☆やブクマをよろしくお願いします。

読んでくださるだけでも執筆の励みになります。


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