秘伝のレシピ
薬草屋の店主の行方不明に、キメラとの戦いが起きた事件から
約三週間が過ぎた――――
エルサナは警備団の人達に、あれこれと質問攻めをくらい
てんやわんやしていたが、何とか一日で質問攻めは終わり
そのまま、ゴンザレスと共に自宅へと戻った。
アレックスは、騎士団と国王への報告をする為
エルサナ達とは駐屯所で別れた。
アレックスに対し、特別な感情があるわけではないが
キメラと一緒に戦い、死地を乗り越えた仲というのもあり
連絡先を聞かなかったことを、家に帰ってから後悔した。
「もう少し話をしたかったな…」
キッチンで湯を沸かす準備をしながら、エルサナはつぶやく。
隣でテーブルを拭いていたゴンザレスが、目ざとく聞いていた。
「主は、やっぱりあの男に興味があるんですね」
「違うわよ…ただ、慌ただしく別れたから
もう少しゆっくり話をしたかったなって…」
「あの男は、世界をあちこち渡り歩く奴ですよ。
仕事柄いつ命を落とすか分からないですし、いつでも会えるわけではないです。
主が大変な時に傍にいる確証もないですし、聞いた感じブラックな仕事のようですし、
人間の女性に慣れてない様子でしたが、主がいくら魅力的でも
世界は広いので、他で現を抜かす可能性もあります。
それに魔術師として、優秀かどうかも微妙なところです。
キメラと同等、それ以上の魔物が出てきたりしたら
あの男は主をちゃんと守れません。
そもそも、あの男は主を――――――」
「あなたは私のお母さんか」
使い魔に、お母さんというのも変な話だが
長々と鬱陶しかったので、黙ってて欲しい。
「何を勘違いしているのか知らないけど
私がアレックスと話をしたかったのは、魔法についてのことよ。
魔女は女性ばかり…だから男性のアレックスに、色々と聞きたかったの
貴重な意見が聞けるかもしれないじゃない」
「そうですか・・・・そういうことにしときます」
ゴンザレスは納得してない様子で、またテーブルを拭き始める。
なんで使い魔に、自分の恋愛事情を心配されなければいけないのか
前の召喚者の事もあってなのか
少々、エルサナに対し過保護なところが見える。
少々どころじゃないわ…かなり過保護よ―――――
「ところで、今日の紅茶は何ですか主?」
ふきんを流し台に置いたゴンザレスが、興味津々に聞いてくる。
最近、私たちの間で紅茶がマイブームになっていて
貴族時代に飲んでいたフレーバーに、魔女学校で同級生や教師陣から教えてもらったオリジナルの茶葉やスパイス。
毎日、朝の朝食の時間に飲むのが日課になっていた。
紅茶に関しての知識、種類の豊富さはかなりあり
昔から料理は苦手なのだが、紅茶を淹れるのは年々腕が上がっていった。
ゴンザレスは私の淹れる紅茶が好きらしく、毎日嬉しそうに聞いてくるのだ。
淹れるのが上手くなったのは、リアン校長の影響もあるのかな・・・・
「今日は、私の思い出の紅茶を作ってあげる。
私が、はじめて出会った魔女の人が淹れてくれた紅茶よ」
「はじめて出会ったって、学校でですか?」
どうやらゴンザレスは、かなり最初の方で寝ていたらしい。
「いいえ。私が貴族の時に出会った人よ。
一族秘伝のレシピらしいの、入学したときに特別に教えてもらったのよ。
詳しい作り方とか細かくね・・・・
ある意味、私の初めての魔法なのかもね…」
今朝、エルサナは裏庭で栽培している赤い木の実を収穫していた。
リアンから教えてもらったレシピは、エルサナ自身も気に入っており
いつでも飲めるように、必要な材料を用意してあるのだ。
そろそろ湯が沸きそうになる頃、玄関の扉からノック音が聞こえた。
誰かと思い扉を開けると、噂のアレックスだった。
「ア ア ア…アレックス!?ど どど、どうして…」
「驚きすぎて変な声ですよ、主」
そんな漫才をスルーし、アレックスは真剣な表情でエルサナに詰め寄る。
「エルサナ 君に大事な話がある」
―――――――
「えー、と つまり…」
「隣国に生息しているはずのキメラが、なぜ森に居たのか判明した。
国王が秘密裏にキメラをペットとして飼っていたんだ。
城の地下牢に閉じ込めていたんだが、牢の老朽化が進み壁が壊れ
キメラが脱走した。
これが、キメラが森にいた謎の正体だ」
アレックスから詳しく話を聞き、まとめると・・・・・
秘密に飼っていたキメラが脱走
バレたら大問題だと慌てた王様が、秘密部隊のアレックスに依頼する
近頃、森でのケガが相次いでいる場所がある
不安になった王様が調査だと嘘をつき、アレックスに向かわせる
ついでに町に魔女が居るから同行させる
それでキメラを退治してもらう算段だと・・・・
うんうん、まず一言いいですか
王様バカなんですか!!??
「開いた口が塞がらないとはこの事ね…
というか何故、危険なキメラを飼おうなんて発想になるのかしら」
「その辺について、国王は口を割らないらしく黙秘している。
私はこの国の人間ではないから、これ以上詳しい事は聞かされていない」
「その件についてなのか、色々と騒がれているようですよ」
ゴンザレスが、今日の新聞をテーブルに置いた。
大きく見出しに【国王・王位を剥奪!?いや、自ら降りる!?真相は如何に】
「キメラの件は載ってないけど、世間に知られるのは時間の問題ね…」
こんなくだらない愚かな人、早く王位を降りるべきよ。
てゆーか、お城付近の情報欄に【近隣住民のバラバラ死体発見】とか起きてるし…
王様の周り物騒過ぎない??
「そうだ、エルサナ。これとは別件なんだが…」
アレックスが何やら書類の束を出し、渡してきた。
「君が急に倒れた件なんだが、理由が判明したんだ」
書類を受け取り中を確認すると、過眠花の生態について詳しく書かれている書類だった。
どうやら、過眠花の花茎部分には、人間の脳神経を麻痺させる成分があると判明。
その成分が含まれている樹液が、皮膚に触れるだけでも脳を刺激し麻痺させる。
強力な睡眠作用も重なり、脳への疲労、覚醒シグナルが無理やり分泌され
目眩や発熱が起き、意識を失う―――――
等々…色々と書かれており、一通り目を通してから書類をテーブルに置いた。
とりあえず、毒ではなかったのと、二日ほどで体から抜けるとも記載されており
エルサナは一安心した。
「理由が分かって安心したわ。正直、不安で気が気じゃなかったのよ」
「毒はないって、俺言いましたよ?」
「そうだけど…理由が分からないと怖いでしょ」
「エルサナが倒れる直前の行動など、研究者達に詳しく話をしたことによって
判明したらしい。
エルサナ、君は生物研究の発展に大きく貢献したんだ!凄いぞ!」
「・・・・そう、倒れたかいがあったのね」
喜んでいいのやら複雑な気分だけど――――
なんだかんだと話し込んでしまい、朝食の時間が過ぎてしまった。
エルサナは、キッチンに向かいカップを二つ、深めのお皿を用意し始める。
「アレックス せっかく来たんだから、朝食でもどう?
今ちょうど紅茶を淹れるところなのよ」
「ありがとう、頂くよ」
手際よく準備し、数十分ほどでリアンから教えてもらった紅茶が出来上がった。
カップはエルサナとアレックス
ゴンザレスは手で持てないので、深めのお皿に淹れる。
パンを切り、果物も用意し朝食は出来上がった。
テーブルは、そこまで大きくないので
間隔を空けず、なんとか三人座ることが出来た。
エルサナは紅茶を一口飲みホッとする。
(何度飲んでもおいしいな…)
アレックスも紅茶を頂く。
「はじめて飲む味わいだ…安心するというか…それに甘いな」
「ふふ 実は隠し味があるの
それは 「「 スプーン一杯のはちみつ 」」
ゴンザレスとエルサナの言葉が同時に被る。
驚き隣に座っている使い魔を見る。
「やっぱあなた嗅覚良いのね…よく分かったわね」
ゴンザレスはそれ以上何も言わず、ピクリとも動かず固まっていた。
紅茶も一口も飲んでいない。
「どうしたのよ、いつもなら直ぐ飲むのに…
もしかして、はちみつ嫌いだった?」
「いいえ・・・・主、この紅茶のレシピは・・・・・・」
「え?これはリアンっていう魔女の人が
曾祖母から伝わるレシピで――――
って・・・ええええ!?
ちょっと、大丈夫??」
ゴンザレスの目から大粒の涙がボロボロと溢れ出ていた
突然の涙に、エルサナは慌てふためるしかなかった。
そうか・・・主・・・・主――――――
***********
薄暗い暗闇から、辺りを照らせるほどの光が小屋から溢れた。
壁や屋根は穴が沢山開いており、隙間風が冷たく入る
強い衝撃を入れれば、直ぐにでも倒れそうなボロボロの小屋だった。
部屋の中は、天井に届くほどの本の山に
小屋の住人だろうか、女性が一人立っていた。
狭い空間になんとかスペースを作っており、そこに魔法陣が描かれ
中心に大きな影が現れた。
女性が影に近づき「あれれ」とお気楽な声を発する。
「んーー意外と大きいわね~
小屋壊れないかな・・・大丈夫かな・・・・・
まぁいっか!
はじめまして!私があなたを召喚した魔女よ
これからよろしくね」
その女性が笑うと何故か安心してしまうような、不思議な気持ちになる。
目は三日月のようになり、右目の下にホクロ、笑うとえくぼが出る
魅力的な人だった。
「じゃあ、今日の召喚を記念して
私が考えた美味しい紅茶を淹れてあげるね!!」
大きな影は頷く。
これが主との、初めての出会いだった――――
ここまで読んで頂きありがとうございます。
処女作というのもあり、荒っぽい所や不慣れで変な部分があると思いますが
なんとか最後まで書ききれました。
少しずつ増えるPVが嬉しくて毎日の執筆が楽しかったです。
読んでくださった皆様、そしてブクマや評価をして下さった方々
本当にありがとうございます。
次の作品も書いていきますので
ご縁があれば、これからもよろしくお願いします。
最後までお付き合いいただき
本当にありがとうございました。




