昔話 ③
エルサナは、近くにある椅子に座った。
女性は銀色のポットを持ちだし
二つ並べた白い無地のカップに注いでいく。
紅茶かしら…とてもいい香り…
「はい。曾祖母から伝わる一族秘伝の紅茶よ、お口に合えば嬉しいわ」
テーブルに置かれたカップを持ち、一口飲む。
口の中に広がる香りが何とも香ばしく、心がホッとする。
少しだけスパイシーな味わいと、それに合う赤い木の実が入っていて
それに――――
「甘いです…」
「隠し味にスプーン一杯のはちみつを入れているのよ。
貧乏だった曾祖母の唯一の楽しみだったらしくて、お菓子代わりに飲んでいたそうよ」
女性もカップを持ち、紅茶を口に運ぶ。
その所作が、あまりに美しく思わず見惚れてしまった。
「ところで、あなたはどうしてこの場所に?
見た所、良いところのお嬢様かしら…」
「エルサナと申します。ここに来た理由は、魔女に…あなたに会いたくて来ました」
「私に?確かに私は魔女よ。
名前はリアンよろしくね。
どうして魔女に会いたいと思ったのかしら?」
エルサナは茶色い肩掛けカバンから魔導書を取り出し
手が震えながら本をテーブルの上に置いた。
「あら、魔導書の偽物ね」
「この本を読んでわたしは魔法に興味を持ちました。
使ってみたい、習得してみたいと思ったんです」
リアンは本を開き、パラパラとページをめくる。
こんな風に書いてるのね…そう…これは…
と聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で独り言をいうと、エルサナに向き直り質問した。
「魔法を習得してどうするの?」
「え、と…どう、する…」
「あなたは魔女になりたいの?」
―――――――ッ 言葉が詰まる。
わたしはただ興味があっただけで、魔女になりたいとは思わなかったし考えもしなかった。
人の上に立て、父様がおっしゃっているような仕事をいつも考えていた。
幼い頃は花屋になろうと思い伝えたら、それは低俗の人間がやることだと一括され、
それからは良い仕事に良い地位を与えられる職業に就くのだと・・・・
そう思い…それが当たり前だと…
「・・・・・・・・・」
わたしは俯き両手でスカートを握る。
本当は分かっているんだ…
決められないじゃない
見つからない?ううん…
考えなかった?・・・・そんなんじゃないでしょ
ただ、わたしは怖いんだ…
その言葉をいったらどうなるのか…
「あなたは魔法がどんなものだと思う?」
わたしの葛藤に気づいたのか、リアンは聞いてきた。
「怖い?恐ろしい? 人を平気で傷つける刃物のようなもの?
騙し、不幸に陥れる道具?」
リアンが目を細めながらわたしに問う。
魔法についてどんな事が出来て、どういったものなのか正直分からない
でも、偽物だけど魔導書を読んだ時に想ったの――――
「魔法は楽しいものだと思います…
傷つけるかどうかは使う人によると思いますし、わたしはただ…
魔法を使えたら楽しそうだなとか、もっとたくさん知ったらどんな景色が見えるんだろうとか…
人を助けたいとか幸せにしたいとか大層な理由はないです。
わたしは知りたいんです、魔法はどんな事ができて、それは楽しいものなのか…
わたしは…知りたい、です……」
答えになっているか分からないし、言いたいこと想っていることを
ただ言葉にした。
伝えられているかどうか分からない、口早に言葉にしただけ。
今だ視線を下げているエルサナを見て
リアンは目を閉じ、そして、ゆっくり口角を上げた。
「ふふ…おかしな子。まだ習得して習ってもないのに
もう楽しいものだと考えているのね…
しかも理由は自分の為…ね」
「変でしょうか…」
わたしは耳が熱くなるのを感じる。
「いいんじゃないかしら。人の為と綺麗ごというより
よっぽど素直でいいと私は思うわ」
そういうとリアンは立ち上がり、別のテーブルに置いてある
分厚い革製のバックを開け
紙とペンを取り出し何やら書き始め
その紙をわたしに差し出した。
「私ね魔女を育成している学校の校長をしているの、あなたが本気で魔法を習得し
学びたいならここにいらっしゃい。
行き方と場所は書いてあるから」
わたしは書かれた紙を受け取り確認する
ここからかなり遠い国にあるようで、船で十日間、そこから列車に三日乗り
降りたところで馬車を使い、ようやくたどり着いた所に学校はあるらしい。
「あの、どうして教えてくれるんですか…はじめて会ったばかりで
どうゆう人かもわからないのに…」
疑問をぶつける。
「あなたが曾祖母と同じ言葉を言ったから、かしら」
リアンは向かい席に座り直し、エルサナの顔を見つめながら話す。
「曾祖母は私が赤ん坊の頃に亡くなってね、特に思い出もなにもないのだけど、一つだけ覚えている言葉があるの」
『魔法は怖くない。楽しいものよ。人を助け笑顔にするの』
「どうしてか、その言葉だけは記憶にあってね。
最初は何となく魔女になったけど、今は魔法の楽しさと人助けを積極的に行っているの」
リアンは穏やかに微笑む。
エルサナは貰った紙を見つめ、考え込む。
「エルサナ、そろそろ帰らないといけないのでは?
あまり遅いと怒られるんじゃないの」
見上げると辺りは少しずつ暗くになり始めている
まだ聞きたいことがあるが、夜になる前に学校へ戻らないと怪しまれる。
急ぎ紅茶を飲み、帰る支度をしていると
リアンが魔導書を持ちながら話す。
「これは私が預かっているわ。
本気で魔女になりたいなら学校にいらっしゃい。
あなたが来ることを願っているわ」
リアンはウインクをして、ローランと呼ばれていたフクロウと一緒に
木々の奥へ入っていき、暗闇の中へ消えていった。
わたしは足早にその場から去る。
街の市街地を走りながら、学校へ向かう。
体力は平均以下のエルサナだが足取りは軽く
走っても走っても、不思議と疲れないし息も上がらない
全身がバネになったようだった。
重く視えていた空も、息苦しかった空気も
何もかも軽かった。
敵のように感じていた世界が世が消え失せていく。
焦り 苛立ち 不安 もどかしさ
どうでもいい―――――――
わたしは わたしは―――――――
*******
学校の裏門に着いたエルサナは、肩から息を上げていた。
果樹から学校まで約三キロの距離があったので、さすがにヘトヘトである。
本ばかり読んでいて体力がない自分が、時間内に往復できただけでも奇跡だ。
「なんとか…間に合って…帰ってこれたわ…」
時計を見ると針が七時をとらえ、鐘が鳴る。
鐘の音が新たな世界への始まりを告げているかの様で、エルサナは高揚した。
息を整え、迎えにきているであろう使用人の元に向かい、屋敷に帰る。
******
夕食を食べ終え、エルサナは母の居る執務室に向かいドアをノックする。
「母様。エルサナです。お時間よろしいでしょうか」
「・・・・・いいですよ。入ってらっしゃい」
震える手でドアノブを握りゆっくり回す。
部屋に入ると母様は椅子に座り、机の上に置かれている書類に書き込みをしていた。
「お仕事中にごめんなさい」
「大丈夫よ、もう終わったから。それでどうしたの?」
口から心臓が飛び出しそうな気分で気持ちが悪く
うなじから冷や汗が伝う。
「わたし・・・・や、やりたいことが出来ました」
「あら、よかったわ。決められなくて悩んでいたものね。
エルは何になりたいの?」
母様は笑顔で私を見る
きっとわたしが、素晴らしい選択をしたんだと思っているはず…
胸がチクリと痛む
ごめんなさい母様、ご期待にそうような選択をしなくて
今ならまだ間に合うだろう…「やっぱりまだ迷ってます」と言えば
引き返せる。
悪魔のささやきが、わたしの心に入るが、自分の気持ちを本心を誤魔化したくはない。
わたしは深く深呼吸し、覚悟を決め 答えた――――
「わたし 魔女になりたいです! 魔法を学びたいんです!!」
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
母様は、はじめ目を見開きそれから視線を下げ
椅子から立ち上がった。
「本気でいっているの?冗談ではなく?」
「はい。兄さま達や姉さまのような、ご期待に添える選択ではないと理解してます。
未知の世界でどうなるのか予想は出来ませんが、わたしは挑戦したいと
なりたいと本気で思っています。
母様…どうか許可を…目指してもよろしいでしょうか」
わたしの言葉を聞き、母様は机にあった一枚の書類を渡してきた。
受け取り目を通すと
隣国の侯爵家跡取りとの婚約書であった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は 明日 17時30分を予定しております。
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*読んでも読まなくても大丈夫です*
今まで「ベッド」を「ベット」と打ってました
少し修正しました。勉強不足ですみません。




