昔話 ①
「今日は星が良く見えるわ」
エルサナはゴンザレスにもたれかかり、半分寝転んでいる姿勢で星空を見上げた。
アレックスは警備団の人達と話し合いがまだあるからと、エルサナを裏庭に案内してから建物へ戻っていった。
秋に入り冷気が流れてくるが、ゴンザレスのおかげで寒さはあまり感じず
過ごしやすかった。
「こうして星を眺めていると、昔を思い出すわ…」
「主の子供の頃ってどんな感じだったんです?」
「どんなって…特別面白い話はないわよ」
そういいながらもエルサナはポツポツと話し始めた――――
――――
「エルはよく本を読むのね。すごいわ」
母様はにこやかに言った。
普段褒めてくれない母様が唯一わたしを見て褒めてくれるのは、読書中の時だけ。
わたしは褒められたくて本を読む。
「うん 本好きなの」
無邪気に笑いながらわたしは答える。
母様はもう一度笑い、わたしの頭を撫でて執務室に戻る。
ここから遠い国でわたしは貴族に生まれた、
上に兄が二人、姉一人がいる四人兄姉の末子。
一番上の兄は次期後継者として父様と一緒に行動し、
二番目の兄は官僚となるべく名門の学校へ
姉は法律家になるべく学校で勉学に励んでいた。
皆、15になる頃には進む道をハッキリしていて、12歳を迎えたわたしはまだ将来を悩んでいた。
幼いころから、両親は様々な分野を経験させ教えてくれた。
政治、法律、社交会、馬術にチェスとか・・・・将来どの仕事を目指すのか、一族に恥じぬようにと父様はいつも言っていた。
常に完璧であれ、勤勉であれ、人の上に立て――――
父様の口癖で、兄姉達はその言葉にしたがい己の信じる道として、進んでいく。
わたしは何になりたいんだろう・・・・
いつも漠然としていて、これというのが思い浮かばなかった。
母様に褒められたくて始めた読書はいつしか習慣となり、一日に二・三冊読むのが当たり前になった。
本を読んでいればやりたいことが見つかるかもしれないと考えていたが
一向に分からず、本の山が出来ていくだけ。
――――月日が流れ 春の季節 わたしは14になった。
一番上の兄は父様と共に仕事をはじめ
二番目の兄は首席で卒業と同時に、国一番の都市で官僚として働くことになり
姉は常にトップの成績、隣国にある法律科の名門へ通っている。
兄姉達が次々成績を残している中、自分は何もない
わたしの歳の頃はスポーツも勉強も何かしら表彰されており、率先して会長になったりとしていて友人も多くいた。
わたしはただ、本の山が出来上がっただけで、知識はあろうと活かせる場所がなくては、ただのゴミだ…
父様は諦めたのか、顔を合わせても話をしなくなった。
勇気を出し話かけても「忙しい」としか言わなくなり。
最近は挨拶しても無視される。
一番上の兄とも徐々に会話がなくなっていった。
幼い頃は、よく面倒を見てくれて可愛がってくれた兄さま…
忙しいのか屋敷の中でも会わなくなった。
(父様と一緒にいると話しかけずらくて、ここ数か月まともに顔を見てないわ…)
二番目の兄や姉とも、はじめは手紙のやり取りをしてたが、ここ最近なくなった。
お二人とも忙しいのよ、きっと―――――
屋敷にいても孤独を感じる日々…
でも母様だけは本を読んでいるわたしをみて、変わらず褒めてくれる。
「エルは昔から本を読むわね…楽しいの?」
「はい。本はたくさんの事を教えてくれます。
知らないことを知り得たり多くの事を体験させてくれます。
…もし母様がよろしければ、なにか一冊」
「ごめんなさい、エル。もう仕事に戻らなくては」
いつも通りの短い言葉のやり取り
それでも私は話せて嬉しい。
友達のいないわたしにとって母様との会話が、何よりも幸せなのだ――――
温暖な季節が過ぎてゆき季秋の頃――――
ある日、学校内で「魔法」が流行り出した。
一人の生徒が「いらないから好きにして」と本を持ってきたのが始まりで、
その本は魔導書の偽物本だった。
瞬く間に学校中の生徒の間で流行り出し、みんなしてこぞって本を求めた。
特に女子生徒の人気が高く、恋に効くおまじないが載ってないかと集団で騒いでいた。
一般人そして独学での魔法習得は法律で禁止となっている
偽物本とはいえ、読んでいるのは良くないのではと 後ろめたさがあるのか
生徒たちはこっそり魔導書の偽物本を読み回していた。
本物との違いは、本書の半分を正しい文章、その半分を間違った文章で
記載しており、読んだところで魔法の習得は出来ない使用になっているが
雰囲気を味わう分には充分である。
魔法の習得は正しい知識、正しい詠唱、正しい魔力の込め方で習得できる。
やり方を覚えたところで、使えこなせないものが多くあるが、反復練習を重ねれば
ある程度は扱える。
中には詠唱を省略、唱えることもなく発動させる人もいるとか…
エルサナは魔導書を読んだことがなく
本の虫であるエルサナが興味を示すのは容易であった。
屋敷にある本は、法律関係に生物学、物理、化学、政治などの本がほとんどで
時々、物語系も読んではいたが、正直なところ飽きてきていたのだ。
今まで触れたことのない未知の知識に、エルサナは興奮し目を輝かせていた。
「読みたいけど一冊しかないのよね…」
これほど友人がいないことを悔やんだことはない。
読みたくて読みたくてエルサナは、ずっと うずうずしていた。
同級生たちが、本を囲んで楽しそうに話しているのを遠くでみているしかなかった。
落ち葉が散り、雪が降り始めるその日、ついに念願叶う時がきた――――
流行りが落ち着き、ほとんどの生徒が本を読み終わった頃、エルサナに本が回って来た。
回って来たというより、誰も読まなくなって図書館の本棚の上に無造作に置かれていたのをエルサナが発見したのだ。
最初はこっそり回っていた本は一度は教師に見つかるが、偽物であるのと
勉学に影響がないのであればと許可がおり、最終的に皆 堂々と読んでいたのである。
流行りが廃ればどうでもよくなり、注目を集めていた本は今や誰の目にも留まらないが、エルサナにとっては待ちに待った瞬間である。
ようやく本が手に入り、自身の部屋に置いてあるお気に入りのソファに座り
宝物のように慎重にページをめくった。
いまこの瞬間にも、壊れそうなガラス細工を扱いが如く丁寧に丁寧に読み進めた。
静寂のなかページをめくる音だけが響き、その日エルサナは一睡もしなかった。
「お嬢様 朝食の時間です」
使用人の声でようやくエルサナは本から顔を上げた。
いつのまにか朝になっており、朝の光が目に沁みる。
どれほど面白い内容でも、必ず夜にはベッドで眠りについていたエルサナが
睡眠を忘れるほど夢中になった本は初めてだ。
使用人に言われるまま朝食を食べるが、頭の中は魔導書のことばかり
偽物なので魔法を使用できるわけではないのだが、魔法という未知の知識に興味を持つには十分である。
それからというものエルサナは授業中もご飯を食べている時も、魔法の事ばかり
考えていた。
ある時は、授業をサボり隠れて魔導書を読んでいる日もあった。
これまで同じ本を何週間も読んだことはない、エルサナは何かに憑かれたかのように、毎日毎日 日が沈むまで本に噛り付いていた。
好奇心が止まらずエルサナはあることを想い始める――――
魔法を使ってみたい…習得したい――――
半分正しく半分間違っている偽物本。
しかし、言い換えれば半分が正しいのなら、もう半分を正しくすればいいのでは…
エルサナは文字や言葉が分からない部分や、法則性がないか解読を始める。
どんななに難しい本でも必ず法則や道筋がある、何度も読み直して法則を見つけだそうとし、自分で用意した紙に隙間なく文字を埋める。
いま思えば軽率な行動をしていた、法律違反を進んでやろうとしていたのだ。
法則や解読をし始めて三か月が経ったある日の午後――――
屋敷の裏庭で魔導書を読んでいた時、不意に話しかけられた。
「エル その本はなんだい?」
見上げると長兄の兄さまだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は 明日 17時30分を予定しております。
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