世界の全貌と『紙箱』に秘められた神の力
やがて落ち着きを取り戻した三人は、暗闇の中で車輪を丸めるように座り込んだ。
暗がりを照らすのは、タツミが吸う『ラッキーストライク』の小さな赤い火種だけだ。
「……サラさん、あの組織は一体なんなんだ?」
タツミの問いに、サラは表情を引き締めて口を開いた。
「私たちが追われていた組織の名は『A.T.S.』……だがそれは表の顔に過ぎない。その実態は、世界を裏から支配する秘密結社『ゴールド・フィルター』」
サラは静かに語り始める。
彼らの目的は、全世界から煙草を没収して一般市民を「従順な羊」へと弱体化させ、自分たちだけがニコチンによる超人化の恩恵を独占すること。そして、その中枢には『四天王』と呼ばれる最高峰の銘柄使いが存在すること。
「そして……タツミ君。君たちがただの体質変異だと思っている《ニコティニア》の力には、もっと深い真実があるの」
サラは静かにタツミの手元にある赤い紙箱を見つめた。
「太古の昔……煙草(タバコ葉)は、神の意思を聞き、人の精神と肉体を神域へと引き上げるための『神聖な儀式の触媒』だったのよ」
「神の儀式……?」
「そう。古代の人々が用いた神の権能——それを現代の科学でコントロールし、波長ごとに安定して封印した【カプセル】こそが、この『紙箱』なの。……そして、その封印を完全に解き放つ鍵となるのが、煙の成分を一度も受けたことがないメイちゃんの《最適化酵素》なのよ」
「私……? 私の身体が……?」
驚くメイの横で、サラはコートの裏ポケットから数箱の煙草を取り出し、床に並べた。
「これは私が組織から持ち出したものよ。一つは私の『ピアニッシモ・アイシス』。そして……」
サラが差し出したのは、馴染み深い赤と白の箱だった。
「洗脳されていた間も……なぜかこれだけは、無意識に手放せなかったの。受け取って、タツミ君」
「これ……俺のラッキーストライク……! 覚えててくれたんだな、先生」
タツミは胸を熱くしながら、残弾が尽きかけていた相棒の箱を受け取る。
そしてサラは、最後に黒と金で彩られた異様な威厳を放つ未開封の箱を指し示した。
「そしてこれが……『ゴールド・フィルター』の最深部に封印されていた幻の最高級銘柄『ピース・インフィニティ』。四天王すら使用を禁じられている、神の領域の煙草よ」




