【第二章:過去編・紫煙の放課後】
タツミがまだ普通の高校生だった頃。
教育実習生として彼のクラスにやってきたのが、数歳年上のサラだった。
当時のタツミは、学校にも家庭にも居場所を感じられず、いつも屋上で落ちこぼれていた。そんな彼に唯一、真面目に向き合ってくれたのがサラだった。
ある日の放課後。夕焼けに染まる屋上で、タツミは偶然、サラの「秘密」を見てしまう。
完全禁煙化が進み、街から煙草が消えかけていたその時代、サラは誰もいない屋上の影で、こっそりと「最後の時代の煙草」をくゆらせていたのだ。
「あ……タツミ君。見ちゃった?」
慌てて煙草を隠そうとするサラ。しかしタツミは通報するどころか、綺麗な紫煙に見とれていた。
「先生、それ……」
「内緒にしてね。……私、この『煙』が好きなの。世界がどんなに正しく綺麗になっても、無駄で、不真面目で、でもちょっとだけ優しい……こういう隙間が必要だと思うんだよね」
サラが吐き出した煙草の香りは、甘くて少し苦かった。
大人びたサラの横顔と、夕焼けの紫煙。それがタツミにとっての「初恋」であり、「煙草」という存在への原体験だった。
しかし、実習期間が終わる頃、サラの「違法喫煙」が密告によって学校にバレてしまう。
サラは社会的に追放され、行方をくらませた。
タツミは彼女を探し続け、やがて「貧困層向けの怪しい高額治験」に行き着く。
そこは、社会からあぶれた人間を集め、ニコチン超人兵士を作る政府の秘密施設『プロジェクト・メンソール』だった。
そして、運命の悪戯か——。
タツミが施設で再会したサラは、もう昔の優しい実習生ではなかった。
絶望の末に自ら実験体となり、政府の洗脳と改造を受け、冷酷な兵士へと変貌を遂げていたのだ。
脱走しようとするタツミに、サラは冷たい瞳で言い放った。
「タツミ君。世界は綺麗じゃなきゃいけないの。……煙も、無駄な感情も、全部消さなきゃ」




