第005話〈喰〉
精神と肉体からのダブルショック。
普通の男であれば、ここで絶望のまま息絶えていただろう。
――だが、奈々は致命的な勘違いをしていた。
「確かに……ただのアンデッドならやられていただろう……」
陽鉄刀で刺された傷がゆっくりと、しかし確実にふさがっていく。
【任務を開始します。】
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任務:眼前の転生者を抹消せよ
報酬:ガチャチケット1枚 システムポイント1000
失敗ペナルティ:死亡
制限時間:60分
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「な!?」
「だが、残念ながら俺の日光弱点も陽属性弱点もⅠ、この程度痛み以外どうってことないぜ!」
言い終わると同時にデザートイーグルの引き金を引き、音速を超える弾丸が奈々へと射出される。
「ぐッ……」
さすがにあの虎ほどの動体視力は無かったのだろう。奈々は弾を避けようとするが、弾丸は奈々の頭をとらえ、ノックバックにより奈々は湖の中へ落ちた。
「これで死んだとは思わねぇ、さっきお前も言ってたんだからな。お前もアンデッドだろ?」
湖の中から奈々が這い出る。
「正解よ……でもこれで分かった?銃弾ごときじゃ私は殺せないわよ?」
頭部に大きな損傷を受けているが、そこからは何本もの角状の組織が生え、傷を覆っている。
防御力は虎ほどではないが、再生速度は柊よりも若干上だろう。
「ならば、ありがたくこれを使わせてもらうぞ。」
地面に放棄されたモーニングスターを拾い上げる。
「へぇ、じゃぁやってみなよ!」
一直線に柊へ刀が振るわれるが、柊はモーニングスターの鎖部分でそれを受け止める。」
「防ぐか、でも鎖ごと叩き斬ってあげる!」
「何勘違いしてるんだ?鎖越しなら、掴みとれる!」
「え?」
柊は鎖で刃から隔てられた陽鉄刀の刀身を掴み、思いっきり引っ張る。
「あ!」
「残念だったな。再生速度は速くとも、どうやらパワーは人間とほとんど変わらない!」
奪った日輪刀でそのまま奈々の左腕を切り落とす。
「ぎゃあああああああ!」
「チョロかったのはお前のほうみたいだな。自分を始末できる武器を自分で持っているなんてよ。」
そのまま右腕もそぎ落とす。
「ああああああ!再生できない再生できない再生できない゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」
「さて、情報を吐いてもらおうか。」
両腕を失い、湖畔の泥に塗れてのたうち回る奈々は、断面からシュウシュウと煙を上げて灼かれ続ける痛みに絶叫する。
アンデッドを殺すための武器。それが今、同じくアンデッドである自分自身の再生能力を完全に阻害しているという皮肉に、彼女は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃに歪めていた。
柊は冷酷な、ひたすらに冷徹な視線でそれを見下ろし、奪い取った日輪刀の切っ先を、奈々の喉元へピタリと突きつけた。
「質問は俺がする。お前は答えるだけでいい。……俺たちの脳内にある『システム』の目的は何だ。なぜ転生者同士を殺し合わせる?」
「し、知らないわよ! 私はただ、システムに『他の転生者を殺せばポイントと新しいスキルをやる、でなきゃ存在ごと消去する』って脅されただけ! 本当よ、信じて、柊くん!!」
その言葉を聞き、柊は理解する。
転生者は皆、システムを持ち、なおかつシステムに縛られている。
ならば、今後の転生者は全員敵となるだろう。
「この森の転生者はほとんどアンデッド化していると言ったな。それはどういう意味だ。」
「この森自体がそういう呪われた場所なのよぉ! 転生直後に何らかの要因でアンデッドになるか、人のまま死ぬかの選択に陥る!あなたもそうだったでしょ!?」
奈々は喉元に触れる刃の熱に怯えながら、必死に声をからした。
「ねえ、お願い……情報はもう喋ったでしょ!? 腕なら、時間をかければ日輪刀の力だって解けて生えてくるわ! 顔も元に戻る!だから助けて! 私、あんたの言うことなら何でも聞くから! 奴隷にでも何にでもしていいからぁ!!」
プライドも何もかもを捨て去った、醜悪な命乞い。
そして、奈々の目はわずかにピンクに光っていた。
(おそらくこれが魔眼による魅了とやらだろう。)
だが、柊の心が、その言葉に動かされることは万に一つもなかった。
「お前は俺を裏切った。」
刀が一寸また一寸と奈々の首に食い込む。
「ひっ……!」
「一度裏切った人間を、二度と信用するわけがないだろう。それに、お前もシステムを持つ以上、生かしておけばまたいつ後ろから刺されるかわからない。さらにお前は今でも魔眼を俺に向けているときた。」
柊は冷たく言い放ち、陽鉄刀を引く。その瞬間、奈々の瞳に完全な絶望が宿った。
「待っ――」
ザシュッ。
躊躇いは一瞬すらなかった。 鋭い刃が奈々の首を正確に刎ね飛ばす。首がボトリと落下し、物いわぬ屍と化す。
【任務完了】
【報酬:ガチャチケット1枚、システムポイント1000を取得しました。】
静寂が戻った湖畔で、柊は手元に残った陽鉄刀を見つめる。
「結局システムの目的はわからず終い、か……」
この世界はただの異世界ではない。
神、あるいはシステムのような上位の存在が転生者をチェスの駒のように弄んで楽しむ、最悪の『デスゲームの盤上』なのだ。
今回は日光弱点がまだⅠであり、なおかつ聖骸布外套による浸食阻害のおかげで命拾いしたが、次も同じようにいくとは限らない。 より強く、より冷酷にならなければ、生き残れない。
柊は、システムの画面を開く。 手に入れた報酬は、ガチャチケットが1枚と、合計2000になったシステムポイント。
自分が人間として持っていた甘さは、今、奈々の裏切りとともに完全に死んだ。 これからは、心を鋼鉄に変えて突き進む。
「システム。ガチャを引く。俺をさらに強くする『力』を寄こせ」
【ガチャを実行……結果:[Bランク]スキル『喰Ⅰ』を取得しました。】
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【スキル『喰Ⅰ』】
補食時に得られる栄養や効果が増加し、常時周辺から魔力を食らい、補給する。
低確率で相手の特性を奪取できる。
デメリットとして食欲が増大する。
-生きるっていうのは、他の誰かの命を喰らうってことだ!-
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「まじかよ。ちょうどいいな……ここにはいい『肉』がある」
奈々の死体へ目を移した次の瞬間、凄まじい衝動が柊の脳を支配した。
先ほどの虎の時とは比にならない、魂の底から突き上げてくる獰猛な飢餓感。
柊は己の内に目覚めた吸血鬼の本能に身を任せ、むさぼるようにその肉に牙を立てた。
__驚くべきことに、それは絶妙な柔らかさを誇り、舌の上でとろけるようななめらかな口溶けだった。
人間だった頃の倫理観を消し飛ばすほどの、極上の『肉』。
最も、アンデッドと化した者をまだ人間と呼べるかは甚だ疑問だが。
「ふぅ……思わず全部食べてしまったな」
気がつけば、そこには骨すら残っていなかった。
黎種吸血鬼の圧倒的な咬合力と、『喰Ⅰ』によって増幅された狂おしいほどの食欲の前には、残るものなど何もなかったのだ。
脳内に無機質なシステムメッセージが次々と流れる。
【喰血行為により吸血鬼融合率が8.0%になりました。 】
【スキル『喰Ⅰ』の特性奪取が発動__ 魔術適正:土を獲得しました。】
【スキル『喰Ⅰ』の特性奪取が発動__ 魔術適正:無を獲得しました。】
【スキル『喰Ⅰ』の特性奪取が発動__ 土属性魔術『岩石弾』を獲得しました。】
【スキル『喰Ⅰ』の特性奪取が発動__ 土属性魔術『地潜り』を獲得しました。】
【スキル『喰Ⅰ』の特性奪取が発動__『種魔眼Ⅱ
Ⅰ』を獲得しました。】
【スキル『視力強化』を『種魔眼Ⅱ
Ⅰ』へ統合、『種魔眼Ⅱ
Ⅱ』へ進化しました。】
柊の精神に、快感と満足感が満ちる。
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【種魔眼Ⅱ
Ⅱ】
受ける攻撃が1/3の速度に見え、暗闇や簡単な阻害を見通せる。
魔力を1消費するごとに目を合わせた敵へ威力1の精神攻撃を行える。
この魔眼は強力な精神的ショックによって進化する。
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「ふむ、これが魔眼か……あいつが言ってた魅了とは少し違うな。ⅠからⅡになったって言ってるし、たぶん経験によって進化方向が異なっていたのだろう。」
魔術属性の欄には、新しく『土』と『無』の文字が刻まれている。
自身の網膜に映る、以前よりも赤く輝く新しい瞳の感覚を確かめながら、柊は静かに唇を釣り上げた。
「無属性の魔法というのはよくわからないが……まぁいいだろう。」
これで、さらに強くなった。 この呪われた黒の森での生存は、より確かなものへと変わっていく。
・土属性魔術『岩石弾』
岩石を射出する魔術。威力はそこまで高くなく、ウサギかネズミ程度なら一撃で殺せる程度であろう。
・土属性魔術『地潜り』
地中に潜り、移動できる魔術。使用した魔力が多ければ多いほど地中での移動速度が速くなる。
【陽鉄刀】
Dランク
日光/陽属性魔力を長時間連続で浴びることで陽属性を帯びた鉄、『陽鉄』。
それを高熱で鍛えることで生み出した刀。
現在は損傷状態となったことでランクが1つ落ち、Eランクとなっている
損傷状態→自分でもがんばれば修復できる。ランクが1つ落ちる。
破損状態→専門家を探すか特殊技法を用いないと修復できない。ランクが2つ落ちる。
破壊状態→ほとんど修復不能。ランクが3つ落ちる。




