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第004話〈鬼はどちらか〉

(しゅう)と奈々は、きれいな水があるという湖へ向かって黒い森を進む。 道中、十数匹規模のアンデッドの群れと二度ほど交戦したが、二人は連携しそれらを完璧に殲滅した。


「お前、思ったより強いんだな。俺にはさっぱり使えなかった魔術も、器用に使いこなしてるし。」


「えへへ、ありがと! まだまだ弱いんだけどね。私の土魔術は、足止めも攻撃もいろいろできるから便利なんだよ。」


奈々はモーニングスターを構えて可愛らしく胸を張った。


彼女の戦闘スタイルは実に見事だった。


岩石を弾丸のように射出してアンデッドを怯ませ、足元に小さな落とし穴を作って動きを止める。


さらにはモーニングスターの鉄球に土属性のエンチャントを施し、重さを増した一撃でゾンビの頭部を叩き潰す。


この地獄のような森で、少女一人で二日間生き残ってきたという言葉にも、柊は完全に納得がいった。


「ほんと羨ましいよ。俺は魔術の適性がまるっきり無いみたいだからさ。」


「そうなんだ?。でも柊くんのその銃すっごく強いし、身体能力も高いじゃん! あ、魔術はね、私も最初は全然使えなかったんだよ? 死にかけたら、本能的に使えるようになったの。」


「へえ、死線を超えての覚醒か……俺も死にかけたんだけど、結局は魔術適性を得られなかったんだ。」


柊はデザートイーグルの銃身を軽く撫でながら、苦笑を漏らす。


もしもあの時、腐った長腕に追われた絶体絶命の瞬間に魔術適性を覚醒できていたら、どれほど楽だっただろうか。


システムから得た『吸血鬼(ヴァンパイア)の力』はたしかに強力で破格だ。


だが、その代償として日光を浴びられないのは相当に応える。


もしもこの森が深い霧に覆われ、太陽が遮られていなければ、そもそも洋館から外に出ることすら叶わなかっただろう。


「ううん、才能なんてなくても、今の柊くんは十分頼りになるよ。私、すっごく安心しちゃった」


奈々は柊の隣に並ぶと、小柄な体を少しだけ寄せて、信頼しきったような眩しい笑みを向けてくる。


泥で汚れたセーラー服の隙間から覗く華奢な腕が男としての保護欲を刺激した。


「あ、見えてきた! そろそろ着くよ! こっちこっち!」


奈々は前方の視界が開けたのを見つけると、嬉しそうに声を弾ませ、柊の手を引くようにしてパタパタと先を走っていく。


木々の隙間から、月光を浴びて静かにきらめく美しい湖の水面が見え始めた。


湖の周辺は水源があるせいか霧がより濃く、見通せる距離が短い。



二人はそれぞれ水分を補給し始める。 柊は水を20Lほどシステムの収納空間へ収納していく傍らで、奈々はしゃがみ込み、湖の水でパシャパシャと顔を洗っていた。


「あの、柊くん。……少し、向こうを向いててくれないかな? 体、洗いたくて……」


「え!?」


「その、さすがに異性の前で服を脱ぐのは、ちょっと恥ずかしい、っていうか……」


奈々は濡れた前髪の間から、上目遣いで頬をほんのり赤らめて見せてくる。


あまりにも無防備な『女の子』としての提案に、柊の心臓が大きく跳ねた。


「わ、わかった。よし、あっちに行ってる。うん。絶対、覗かない」


明らかな動揺を隠せないまま、柊は急いで湖に背を向けた。


元いた森の方向へと視線を固定し、直立不動で直進する。


「ふふ、ありがと。絶対に、見ちゃダメだからね?」


背後から、衣類が擦れるスルスルという音が聞こえてくる。


一糸まとわぬ奈々の姿を勝手に想像してしまい、柊は鼻の奥から何か温かいものが流れ出る感覚に襲われた。


地獄のような異世界転生だったが、こんなご褒美があるなら悪くない__




ドスッ



「あ゛……っ!?」



背中から、突き抜けるような衝撃と激痛が走る。 腕や耳を食いちぎられた時の痛みの比ではない。


内臓の奥深くを直接、灼熱のマグマで焼かれ続けるような、凄まじい熱。


ゆっくりと視線を下に向ければ、自分の胸部――その左胸、まさに心臓がある位置から、赤黒い血に濡れた禍々しい『黒い刃』が突き出ていた。


「がはっ……!? ごほっ、げほっ……!」


口から大量の鮮血が溢れ出し、膝から崩れ落ちる。


何が起きたのか理解が追いつかない頭で、柊は必死に首を巡らせて背後を振り返った。


そこには、服を脱ぐどころか、モーニングスターをどっかと地面に突き立て、黒い刀を手に持った奈々の姿があった。


さっきまでの可憐で、健気で、守りたくなるような少女の表情は、完全に消え失せていた。


「あはははは! まーじで引っかかった!私の魔眼で魅了されてたとはいえ、チョロすぎでしょ!ごめんねー、私も君殺さないとシステムに消されるのよ!」


奈々は、腹を抱えてケタケタと下品に笑い声を上げる。その瞳に宿っているのは、純真さなど微塵もない、冷酷で薄汚く、ドス黒い邪悪だった。


「体洗うわけないじゃん、こんな危ない森でさぁ! 銃を持ってるから警戒してたけど、『覗かないで』って言えば簡単に背中見せるんだもん。ウケる。刀で心臓一突き、大成功ー!」


「な……な、な……」


「あ、無理に喋らなくていいよ? 私がいまアンタに突き刺したのは強化された『陽鉄刀』日光を浴びに浴びた鉄で鍛造されたこれを受ければ、アンタ程度のアンデッド首を切らずともすぐに死ぬわ!」


奈々はトコトコと倒れ伏す柊に近づくと、その顔を蔑むように見下ろし、顔を近づけて嘲笑った。


「吸血鬼……いつ……」


「なんで吸血鬼なのか分かったかって?そりゃ転生者とやりあってないアンタにはわからないでしょうけど、この森に来た転生者はほとんどが何らかの要因でアンデッド化してるわ。陽鉄刀を持つ私からすればまさに最高の狩場♪」


最悪のゲス顔。 信じていた同郷の少女からの、あまりにも無慈悲な裏切り。


心の底から、深い絶望が沸き上がる。

アンデッドの分類について。

死から再生する系、死んでも動くはだいたいアンデッド。

聖属性か陽属性が弱点なのもだいたいアンデッド。


例を挙げると

・ゾンビ

・スケルトン

喰屍鬼グール

吸血鬼ヴァンパイア

・ゴースト

などなど

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