第037話〈砂の下の捕食者〉
翌日の夜。
深く沈み込んだ静寂の中、柊たち三人は爆音を上げる重装甲バイク『サイクロン』に乗り、巨大化変異したサンドワームが潜むとされる北の広大な砂漠地帯へと向かっていた。
道中、柊は完成した試作魔弾の手応えを噛み締めていた。
昼間、宿から遠く離れた荒野で試射した際のあの光景——最初の実験として『火炎突』を封入した魔弾は、衝撃とともに分厚い岩塊を粘土のように容易く粉砕し、その裏に潜んでいたアンデッドたちを燃やした。
その他にメモリにあった魔術の『破熱』『土薙』『魔力吸収』etc……
かつて素人考えで適当に考案したあの粗雑な魔弾とは、もはや比較にすらならない桁違いの威力だった。
これまで柊たちのパーティは遠距離火力の乏しさが課題だったが、この魔弾を改良・量産できればその弱点も克服できる。
(うすうす感じていたが、胡狼と伸牙を単純な50口径リボルバーとして運用するのは明確に火力不足だ。かといってサイクロンに増設したガトリングは嵩張り、移動には運転手も必要になる。ダンジョンのような狭小空間には持ち込めず、サイクロンから外せば射手の機動力を著しく削いでしまう……)
柊は手に収まる魔弾へ視線を落とす。
(その点、こいつは圧倒的にコンパクトで持ち運びやすい。規格も最初から胡狼と伸牙の50口径に合わせて設計した。……だが、現状の薬莢では二重混合の内圧に耐えきれず破砕する。さらに高純度のツェルモ鋼で薬莢を打ち直す必要があるな。)
改めて、自らの二挺拳銃の特性を脳裏で反芻する。
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【胡狼&伸牙】
二丁の50口径シングルアクションリボルバー。
凄まじく頑丈で、融点は数万度にまで登る。
6発装填であり、リロード方式はブレイクアクション。
素材の頑丈さのおかげでブレイクアクションでも50口径の弾丸に余裕で耐えられる。
ハンマーを下ろさず引き金を引くことでもシリンダーが回転する。
-敵対者を朱にそめよ-
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ここで重要になるのが、最後の「ハンマーを下ろさずにシリンダーが回転する」という特殊機構。
通常のシングルアクションならばハンマーを起こさねばシリンダーは回らないが、この銃はトリガーの浅打ちだけで内部のシリンダーを送り、目的の弾丸を選択できる。
「状況に合わせて、シリンダー内の異なる魔弾を瞬時に選別・即応できるわけだ。」
「……さっきから一人で何ブツブツ喋ってるのよ、不気味ね。」
サイクロンの横を並走するように歩いていたキャスが、仮面の下からジト目を向けてくる。
柊は軽く一瞥を返しただけで、思考を途切れさせずに足を進めた。
「何でもない。それより……そろそろ着くぞ。」
足を止めると、視界の限りには月光に照らされた何の変哲もない見渡す限りの大砂漠が広がっていた。
「ねえ、本当にこんな場所に、異常なまでに巨大化したサンドワームなんてバケモノがいるの……?」
キャスが不安を隠しきれない様子で、周囲の静まり返った砂丘を警戒しながら見渡す。
「うん、魔力を感じる……すごく大きくてどろどろした気配が、すぐ下にいるよ!」
ぷにぷにと体を揺らしながら、プルが鋭く告げた。
「ああ、微細な地動もある。近づいてきているぞ……足元を警戒しろ!」
柊が警告を発した直後——ズズズ……!と腹に響く激しい地鳴りが砂漠全体を揺らした。
足元の砂が一瞬で巨大なアリジゴクの漏斗のように激しく崩落し始める。
ガアアアアアンッ!!
耳を裂く爆圧とともに凄まじい砂煙が巻き上がり、姿を現したのは60メートルを悠に超える大蛇のごとき巨大な異形——『サンドワーム』だった。
岩盤のように強固な外殻で覆われた巨体が、月光を遮りながら三人の頭上から牙を剥いて襲いかかる!
「FFFUUUUUURRROOOOOOOOOOOO!!!!」
大型車すら丸呑みできそうな巨大な顎が広がり、強烈な口臭と砂嵐とともに三人へ牙を突き立てんと迫る。
(あの表面の強固さ……口内の肉質まで分厚く硬化しているな。依頼内容よりも明らかに巨大化している。長引かせると面倒だ、早めに殺す。)
「飲まれるなよ! 一度砂中に潜られたら、内部から倒しても脱出できなくなって圧死するぞ!」
柊は瞬時に『胡狼』をホルスターから引き抜いた。
ハンマーを指で弾いて位置を合わせ、迫り来るサンドワームの巨大な口腔内へ向けて銃身を固定、引き金を叩く。
「こんがり焼けろ——『火炎突』!!」
撃針が魔弾底部の猩々緋結晶を打ち抜いた瞬間、内包された膨大な魔力が一気に解放され、封入されていた高階級術式が0.01秒で起動する。
一瞬で構築された渦巻く炎のドリルが超高速で射出され、サンドワームの口腔深奥へと穿ち入った。
「FROOOAA!!?」
ジュウウウッと肉が焼ける凄まじい音とともに、火炎突の威力がサンドワームの外殻の一部を内側から泥のように溶かす。
直後、焦げ付いた肉から脂の香ばしい匂いが周囲に立ち込めた。
激痛に狂いながら一度砂の中へ潜航し、着地した柊の足元を狙って下から突き上げんと迫る。
「溶けた部位を狙って集中攻撃しろ!」
「うんっ!」
「言われなくても!」
プルが両腕の流動肉体を瞬時に超硬質の黒光りする大刃へと変化させ、地表を蹴ってサンドワームへ肉薄する。
だがそれよりも早く、キャスが柊の火炎突で赤熱し溶けかけた口内装甲の隙間へ鋭い刀を深々と突き刺した。
物理衝撃のエネルギーが打突となり、サンドワームの巨躯が一瞬ぴくりと硬直する。
そのわずかな隙を逃さず、追撃したプルが同じ傷口へ硬質化した腕の刃を突きたて、二人同時に刃を力任せに捻り上げて傷口を強引にこじ開けた!
「HOOGUUUUU!!」
「よし、お前たち一旦下がれ! 交代だ!」
キャスとプルは跳躍して後方へと離脱し、柊とラインを入れ替える。
「地より貫け、地槍!」
柊が地表へ放った土魔術。
外殻を直接貫くほどの威力はないが、砂中に逃げ込もうとしていたサンドワームの巨大な頭部を強引に跳ね上げるには十分だった。
持ち上がった頭部の顎下へ、柊は流れるような動作で強力な前蹴りを叩き込んでさらに上方へ浮かせ、むき出しになった下顎の傷口へ零距離で胡狼の銃口を突きつける。
カァン!!
二発目の『火炎突』が炸裂し、巨躯の内部が再び灼熱で焼かれる。
「ますたぁ、プルいい考えがある! 中に直接潜り込む! もっと装甲を溶かして!」
「お? ああ、そういうことか……乗った!」
「え? え? どういうこと!?」
一人困惑して声を上げるキャスを置き去りにし、柊は逆手の『伸牙』からも魔弾を発動。火炎突の連続超高速射撃をサンドワームへ叩き込み、外殻の強度を徹底的に削ぎ落としていく。
「えーいっ!」
プルはキャスと開けた大きな肉の傷口へ向かって跳躍すると、そのまま滑り込むようにサンドワームの体内へと潜り込んだ。
「HOOOAAA!?!?」
体内に侵入した異物感と激痛に、サンドワームは狂乱して暴れ回る。
「え!? なに、中に潜った!?」
「キャス! 俺が焼き払って強度の落ちた箇所、あの6節の部位から輪切りにしてやれ!」
「もうっ! はぁー……分かったわよ、やってやるわ!!」
キャスが呼吸を整え、スキル『風滅迅雷Ⅰ』を発動させる。
彼女の細身の輪郭に眩い電流が走り、荒々しい暴風が全身を纏う。
同時に、サンドワームの内部へ侵入したプルも肉体を限界まで変形させ、ハリネズミのようなが無数の超硬質スパイクとなって内部器官を内部からズタズタに破壊し尽くしていく。
「纏え、引き伸び、奴へ届け——長風剣!」
キャスの掲げた刀に圧縮された風が狂暴に巻き付き、不可視の長大な風刃が伸長する。
「はぁぁあーーーっ!!」
キャスが風を切り裂いてサンドワームの頭上高くへと跳躍。『風滅迅雷Ⅰ』によって亜音速にまで引き上げられた絶対的な斬撃速度で、長風剣が振り下ろされた。
柊の魔弾とプルの体内破壊によって極限まで強度の下がっていた胴体へ、見えない風の刃が寸分の狂いもなく一閃する。
ズシャァアアアアッ!!
断ち切られた頭が豪快に砂煙の上に転がり落ち、胴体から切り離された後もビチビチと断末魔の狂乱で砂へ潜ろうと蠢く。
だが柊はそののたうち回る頭部を逃がさず、異様な怪力で強引に掴み上げ、地上へと引きずり出した。
「随分と短くなったな……プル! 止めだ、喰らわせてやれ!」
柊の叫びに呼応するように、サンドワームの体内から頭部全体へと網の目のように広がっていたプルの肉体全てから、一斉に『嵐丸』の衝撃波が全方位へ放たれた。
シュリュアアアッ!!
爆発的な内圧の炸裂とともに、サンドワームの巨大な頭部が跡形もなく粉砕され、肉片と紫色の体液の雨が荒野に降り注いだ。
「えへへ、やったよますたぁ!」
体液の雨の中、ドロドロの肉体から元の少女の姿へと瞬時に再構成したプルが、満足気に胸を張って笑ってみせた。
「よくやった、プル。」
「んぇあ~~」
柊はプルの頭を撫で、プルは気持ちよさそうな声を上げる。
「私だって……」
都内でキャスが何かをつぶやいたが、柊はそれを聞き取れなかった。
「なんか言ったか?」
「別に何でもないわよ。」
頭部を失ったサンドワームの肉体を回収するため、柊はそれに近寄るが、突如周辺に凄まじい風が吹きすさぶ。
「ッ!何だ!」
「ますたぁ!サンドワームが魔力を吸い込んでる。」
「な、何よあれ!」
周辺の瘴気がサンドワームに吸収され、その肉体が変化を始める。頭部が再生を始め、装甲が厚くなる。
「お前ら距離をとれ!」
三人がサンドワームから離れていき、10mまで逃げたところでサンドワームの再生が完了する。
前よりも色が濃く、全身に新しく攻撃的な角が生え、その口内では以前よりも鋭く硬い牙がぬらぬらと光っていた。
「逃げるぞ!こいつはヤバい!」
今すぐ逃げ出せと柊の本能が告げる。
しかし、サンドワームから半径100m以内の範囲の砂がうごめき、蟻地獄のように柊たちを捉える。
「逃げたくてももう逃げられないわね。先に食べられるわ。」
三人にサンドワームが迫る。




