第036話〈魔弾:事前工程実行式魔術摘発弾MK1〉
昇格が完了したことで柊はサンドワーム討伐の依頼を受注できるようになった。
「明日狩りに行く。今日は休もう。」
「ますたぁ、サンドワーム線はキャス呼ぶ?」
「そのほうがいいな、相手の強さは未知数、人手は多いほうがいい。」
ちょうどその時、キャスへ渡したアンドロイド16からメールが届く。
「東区130-024で部屋はあいつが303号室で俺たちのが304号室か、となると……」
地図アプリを開いて位置を確認し、宿へ向かう。
「……ここだな。随分と奥まった場所を選んだものだ。」
裏路地にある宿で、隠匿性は高いが設備が整っているかどうかは運次第といったところか。
柊が目的地周辺の路地へ足を踏み入れると、数歩先で粗野な怒鳴り声が響いた。
「おいおい、こんなかわいい子ネコちゃんが一人で何してんだぁ?」
「金も持ってんだろ? オレたちにパッと使わせてくれよ!」
路地の角で、数人の武器を持ったチンピラたちがキャスを取り囲んでいた。
キャスは鬱陶しそうに仮面の下で耳を伏せ、買い込んだ食料の袋を抱えたまま冷ややかな視線を向けている。
その右手中指からはぼんやりと怪しい魔力が揺らめいていた。
「……鬱陶しいわね。どきなさい、あなたたちに用はないわ。」
「そう冷たいこと言うなよ! ちょいと付き合えって――」
チンピラの一人が下品な笑みを浮かべ、キャスの肩に手を伸ばしたその時――。
ドカァンッ!!
重厚な衝撃音とともに、伸ばされた男の手首が不自然な方向へ折り曲げられた。
「ガ、ぁぁぁッ!?」
「失せろ、カスども。」
瞬時に間合いを詰めた柊が、男の腕をへし折り、頭を掴んでそのまま顎へ容赦ない膝蹴りを叩き込む。
男は白目を剥いて路地の壁に激しく激突し、崩れ落ちた。
「な、なんだテメェはッ!?」
「急に襲ってきやがったぞツ、殺せッ!」
「数は……あと3か。」
武器を抜き、飛びかかってくる残りのチンピラ3人に対し、柊は表情ひとつ変えずに左足踏み込み、体重を前方へ移動。
重心を乗せたローキックで一人目の大腿骨をへし折り、それによって倒れ込んだ一人目の首根っこを掴むと、そのままもう一人の腹へ投げ飛ばした。
「あべしッ!」
「うわらばッ!」
ズドンッ! と二人まとめて地面へ叩きつけられ、路地裏に苦悶の呻き声が響き渡る。
「ひッ、く、来るなぁ!」
残る1人がおびえながらも拳銃を発砲するが、弾丸を素手で柊に掴まれる。
(外見はグロック系、となれば9mm弾か。下級アンデッドには効くだろうが……)
キャッチした弾丸を指で弾いて最後のチンピラの額へ弾き、脳震盪を起こして気絶させる。
「ひでぶッ!」
わずか数秒の出来事だった。
「……二度と俺たちの前にツラを出すな。消えろ」
冷徹な視線を向けられたチンピラたちは悲鳴を上げ、唯一動ける一人が残りの仲間を引っ張り逃げ去っていった。
「ますたぁ、おそうじ完了ー。」
プルが呑気に拍手をする横で、柊は衣服の埃を払う。
「大丈夫だったか、キャス。」
「……いや、その、別にアンタが来なくても自分で片付けられたわよ。」
キャスはぷいっと横を向いたが、仮面の下で猫耳が嬉しそうに前へ傾けている。
「分かってる。だが、余計な手間が省けただろ?……それに、明日は高強度の戦闘を行う。今眷属を安易に傷つけられるわけにはいかない。」
「……相変わらず、そういうところは抜かりないのね。」
キャスは少し照くさそうに呟くと、抱えていた袋を持ち直し、小さく微笑んだ。
宿に入り、304号室のドアへ進む。
「二部屋だけ用意しろと言われたときから、いやもっと前からそうだとは思ってたけど……やっぱりあなたたちってそういう……」
キャスが顔を赤らめる。
「お前が思ってるようなものじゃない。」
「んー?ますたぁはますたぁだよ?キャス、ますたぁと同じ部屋がいいの?」
「だ、誰が相部屋なんてするもんかッ!! 変なこと言わないでよこのスライム!!」
「キャス、うるさい。声が大きい。」
「なっ……! だからアンタたちねぇ……ッ!」
柊視点なぜか怒っているキャスを見送り、静かに息を吐いて自分たちの部屋の扉を開けた。
部屋は最低限の設備が整っており、柊は部屋の椅子へ腰をおろしてスマホを起動、ジャックから託されたメモリの魔術的技術情報を表示させる。
「俺の仮定が正しいなら、これはうまくいくはずだ。封入する魔術は……これだな。4節『火炎突』」
柊は新しく習得した鋼属性で魔力を通さなず、折り曲げやすい素材である金に魔法陣を刻み込んでいく。
(ダニエルから金の短刀もらっててよかったぜ。)
魔法陣といっても円形ではなく、メモリにあった両面にコードのように刻み込む方式で、それを巻いて収納することにより小型化を実現できる。
刻み終わればその溝へ柊の血を流し込み、金でもう一層両面に血が漏れないようコーティング。
そしてこちらも鋼属性の魔力を操り、ツェルモ鋼を正確に50口径規格の薬莢の形へ変え、その中へ魔法陣を刻んだロール状の金板を入れ、魔法陣に魔力を送る役割としての猩々緋結晶を雷管の位置へ埋め込む。
「これで発動しないように魔力の流れだけを作れば……」
柊は魔法陣へ魔力を流し、詠唱を始める。
「巡り、穿いて、燃え盛れ、火炎突。」
(発動はしない、あくまで自然な流れを生み出す。魔方陣をいくら精巧に書けてもこの工程がうまくいかなければな……魔術自体への理解も必要だ。)
続いて猩々緋結晶へ火属性の魔力を流し込んでいく。
「ますたぁ、それ何してるの?」
「魔弾、これが完成すれば俺もお前みたいに詠唱が必要なくなる。もしかしたら発動自体は、お前よりこっちのほうが早くなるかもな。」
(引き金を引くだけで全てが完了する。名づけるなら、事前工程実行式魔術摘発弾MK1)
「ますたぁ、プルとお揃いになる!」
プルが嬉しそうに微笑む。
「ああ、そうだ。でも室内は危ないし、数発作ったら外で試すつもりだ。」




