第035話〈Bランク昇格戦〉
三人はビルから出る。
「これからどうするの?メモリの受け渡しはすんだけど……」
キャスからそう問われ、柊は答える。
「お前はとりあえず休め。逃亡生活が続いててろくに休めてなかっただろ。俺とプルはこの基地の傭兵組合へ行って何かいい依頼がないか見てくる。」
キャスが少し気まずそうに言う。
「あの、私お金も電子決済できるものも持ってないんだけど……」
「まぁ、それもそうか。だったらこれを使え。」
柊は収納空間からもともと使っていたアンドロイド16を取り出し、キャスへ渡す。
「俺たちも後で行くから宿を見つけたら二部屋取って場所をこれで連絡しろ。金は中にだいたい4万₤₤入ってる。パスワードは386140だ。」
「えっ……いいの? こんなに……」
キャスは手渡されたアンドロイド16を両手で受け取り、目を丸くして柊を見上げた。
4万₤₤、日本円換算で20万円、宿代や食費としては十分すぎる金額だ。
「さっきテレンスから5000万₤₤も貰ったばかりだからな。それに、お前には体力を回復してもらう必要がある。眷属の不調は俺の戦力ダウンにも直結する。」
「……相変わらず合理的ね。」
キャスは呆れたように小さく肩をすくめたが、その表情にはかすかな安堵の色が浮かんでいた。
「分かったわ。じゃあ、お言葉に甘えて適当な宿を探して休ませてもらう。……ありがと、柊。」
ひらひらと手を振りながら、キャスは基地の繁華街へと歩き去っていく。
仮面の下の猫耳が微かに動いたのを、柊は見逃さなかった。
「ますたぁ、行っちゃったね。」
「ああ。さて、俺たちも行くか。セクラマ基地の『傭兵組合』……俺の次の進化まで必要な吸血鬼融合率はあと6%、さっさと強い魔物を狩て喰らいたい。」
柊とプルは基地の中央区画に位置する巨大なビル、傭兵組合の看板が掲げられた建物へと足を向けた。
建物の中に一歩足を踏み入れると、そこは外の静けさが嘘のような熱気と鉄の匂いに包まれていた。
重装甲のプロテクターを身に纏った荒くれ者たちや、サイバネティクス手術を受けたサイボーグ、不気味な異能を漂わせる者たちが溢れかえり、巨大な電子ホログラムモニターを見上げて議論を交わしている。
「ほう……スタビリート基地より規模が大きいな。」
柊は掲示板に近づき、視線を滑らせる。
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【ランク下限F】基地外壁の修復作業(報酬:1000₤₤)
【ランク下限D】セクラマ外郭の害獣駆除(報酬:2万₤₤)
【ランク下限C】旧時代プラントからの資源回収(報酬:15万₤₤)
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(報酬の桁は悪くないが……効率よくシステムポイントを稼げて強い魔物を狩れる依頼はないか?)
「これがいいか。」
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依頼【サンドワームの討伐】
依頼番号[386201900]
参加可能ランク下限:Bランク
参加可能ランク上限:無し
内容:基地北方向へ20km進んだ位置にて、瘴気を吸収し異常巨大化したサンドワームを討伐する。
報酬:サンドワームが死んでいる写真を提示していただくことで20万₤₤
対象の推定全長は50m、周辺にいる通常のサンドワームは臆病であまり人間を襲いませんので巨大化個体への集中攻略が可能です。討伐時は先端から8~9節の範囲の完全破壊が有効で、それ以下の部位は斬り落としてもその後に時間をかけて再生します。
獲得した素材は持ち帰っても構いません。
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「虫を喰うのはいささか気が進まないが、これがちょうどいいだろう。」
「ますたぁまだCランクだった気がするんだけど……」
「確かにそうだな……」
柊は顎に手を当て、受付カウンターへと向かった。
カウンターの奥では、事務員がだるそうに端末を操作している。
「すみません。CランクからBランクへの昇格試験を受けたいんですが、かのうですか?」
「ん? 昇格か?」
事務員は顔を上げ、柊とプルを品定めするように一瞥した。
「昇格試験はシンプルだ。うちで手配する『試験官(上位ランクの実力者)』と実戦形式で戦い、勝利するか実力を認められれば即昇格となる。ちょうど今、試験場に空いている試験官がいるが……受験料として1万₤₤いただくよ。」
(1万か……)
「払うよ。」
柊は端末をかざし、手早く決済を済ませる。
「はい、1万₤₤確かに受け取りました。じゃあこのエントリーカードを持って、二階の『第一試練場』へ行ってくれ」
受け取ったカードを手に、二階へと続く階段を上る。
そこには駅の改札のようなセキュリティゲートが設置されていた。
カードを差し込むと、電子音とともに重厚なバーが開く。
ゲートを抜けた先に広がっていたのは、外部の衝撃を遮断するための特殊合金で周囲を覆われた、だだっ広い無機質な空間だった。
その中央、薄暗がりの中に一人の男が腕を組んで立っていた。 背には長刀を背負い、全身から隙のない練達の気配を漂わせている。
「昇格を希望するのは……ああ、そっちの少年か?」
男が重々しい声で尋ねる。
「ああ、俺だ。」
柊が歩み出ると、男は背の長刀の柄に手をかけ、滑らかな動作で引き抜いた。薄暗い試練場の中で、研ぎ澄まされた刃がギラリと冷たい光を放つ。
「俺はBランク試験官のライガだ。……安心しろ、殺しはせん。だが、半端な覚悟なら骨を折ることになるぞ。」
「構わない。さっさと始めよう。」
柊は腰のホルスターから『胡狼』と『伸牙』を引き抜き、静かに銃口を男へと向けた。
プルは横で離れて座り、二人の様子を見ている。
柊が迷いなく引き金を引き、弾丸を放つが、ライガはそれを生身で受けながらものともせず柊へ近づく。
「拳銃の弾丸じゃあ俺は倒れんぞ!」
「ならこうさせてもらおう!」
胡狼&伸牙に付けた陰陽銃剣の斬撃へ攻撃方法を切り替える。
「パワーはその程度か?」
ライガに刀で受け止められた。
「この距離なら銃弾も効くんじゃないのか?」
左手の伸牙を殴るように突き出し、ゼロ距離でライガへ弾丸を放つ。
ドドンッ!
「ぐ、さすがに痛いな!」
2発受けてライガは飛びのき、詠唱を始める。
「尖り回れ、鋼錐。」
柊へ回転する金属錐が放たれる。
(これは鋼属性か?だとすれば二重混合持ちか!)
「妨げよ、土砂盾。」
柊は即座に詠唱して土の盾を生み出し、金属錐を何とか防ぐ。
「自分から視界を塞いでどうすんだよ!」
ライガが土の盾の上まで跳躍し、刀で柊の左腕を貫く。
「ぐぅッ、だが、捕まえたぜ!」
「何!?」
再生によってライガの刀を固定し、引き寄せてライガから武器を奪う。
さらに、着地直後のライガへ蹴りを入れる。
腕で防がれ衝撃を減らされたが、それでも一瞬の隙ができ、脚の反発による回転を利用してライガの首に陰陽銃剣をあてる。
「私の勝ちで、いいですかね?」
「お前の勝ちでいいよ。少ししくじった。」
ライガはそう言い、ハンコを取り出し、柊のカードに押す。
「これで合格だ。」
「あ、ライガさん、さっきのは鋼属性ですか?もしそうなら教えていただけませんか?」
「ふーむ、じゃあ10万₤₤よこしな。」
ライガが悪い表情を浮かべながら金額を提示する。
「熔属性も可能でしたら25万₤₤払います。」
(絶対に習得したい、金がかかっても仕方ない!)
「随分と羽振りがいいなぁ、よし、なら両方教えてやる。」
ライガが明らかに嬉しそうにそう言う。
柊から金を受けとり、ライガはジャックがプルに混合を教えた時と同じように柊の肩へ手を載せる。
「そんじゃ、魔力の流れを作るから抵抗するなよ?」
ライガの右手から魔力が流れ込み、自然と体内の魔力が押されてライガの左手へ流れていく。
火と土の魔力が約2:8の割合で混ぜられ、より硬く堅牢な魔力を形成する。
「これが鋼属性だ。次は溶属性。」
火と土の魔力が今度は約6:4で混ざる。
粘り気のある高熱の魔力。
「感じられたか?」
「ええ、理解できました。」
自分から体内で魔力を火属性と土属性へ変換、同じ比率で混ぜ、手のひらから放出。
「ほう、両方ともできたか。速いな。もう何回か手本が必要かと思ったぜ。」
「混合は、結構試してきましたからね。」




