第025話〈ザ・ブラッドムーンⅠ〉
プルは水と風の混合を、柊は新しい土魔術の習得を終え、ダニエルに呼ばれたことで再びダニエルのオフィスへ行く。
「どうした柊、なんだか機嫌が悪そうだが?」
ダニエルにそう問われる。
「……いや?そんなことはない。」
「ふーむ、ジャックの奴に嫁を触られたからちょいとキレてるんじゃないのか?」
「そんなわけないだろ!プルに魔術を習得させるには必要だったんだ。」
柊は即座に答える。
その声には隠しきれていない少しの怒りと動揺があった。
「……ふーん?」
ダニエルはにやにやしながら柊とプルを見つめる。
プルも少しうれしそうに柊を見ている。
「まぁ本題に戻ろう。ジャックから聞いてるとは思うが、もう少しで血月がもうすぐやってくる。そうなれば大量のアンデッドと魔物が人の気配を嗅ぎつけて攻め込んでくる。だが、その前にそれらを狩っておけば本番での数が減る。」
ダニエルが柊の前に箱を置く。
「そこでだ、それまでに可能な限りアンデッドと魔物を狩って来てくれ。今回のお前の担当は基地の北東方向だ。もちろん装備は用意するし、給料として50万₤₤用意しよう。」
「まぁいいだろう。というか給料って……」
「俺の部下になると言ったんだ、別にいいだろう?」
「それもそうだが……」
柊は箱の中を開ける。
中には手榴弾が20つと刃渡り50cm程度の刀が2本、そして50口径の弾丸が100発以上入っている。
「魔力不導体である金でコーティングした短刀だ。魔獣相手には役立つかもしれない。あと、お前のドッグタグを貸せ、ランク昇格兼部下任命を行う。」
「マジか、ってことはつぎはC級か?」
柊はドッグタグをダニエルへ渡すと、謎の機械に入れられ、数秒後に出すとランクの表示がDがCに変わり、新しく正方形内部に矢印と丸を組み合わせたようなマークが刻まれている。
「こいつがこの俺の配下であるという印だ。そして、中には50万₤₤しっかり振り込んでおいた。あー、でも今日は夜明けも近いしもう休め。」
「わかった。ありがたく休ませてもらう。」
次の日の夜、柊とプルは早速血月に対応するため、アンデッドと魔物の殲滅へ向かう。
ダニエルの部下となったことでプルは擬態する必要がなくなり、サイクロンも収納空間からの出し入れは見られないほうがいいが、前と比べて堂々と使える。
「さぁ、行くか。」
「うん!」
柊はサイクロンにまたがり、プルもサイドカーに乗る。
基地から20km以内の範囲を重点的に駆けまわり、白線触手と胡狼&伸牙も駆使しながら湧いたアンデッドを殺していく。
前日とは違い、耳をそぎ落とす必要も、そのために頭部を残す必要もない。
頭を部位ごと粉砕する銃でのヘッドショット、吸血鬼の動体視力と射撃能力スキルを活かした「一撃一殺の射撃」を繰り返すことができる
そのおかげで、前日と比べて2倍近くの効率で狩りを行えた。
バイクのエンジン音を響かせながら、柊は右手で胡狼の引き金を弾く。
爆音が荒野に轟き、押し寄せていたアンデッドの頭部が熟した果実のように弾け飛んでいく。
「12匹、16匹、次__」
サイドカーに乗ったプルも、柊の動きに合わせて指先から無詠唱で『風弾』を放ち、打ち漏らしを正確に撃ち抜いていた。
何度も繰り返したおかげで威力は最初より格段に向上しており、2発1匹の命をもっていけるようになった。
10分もたたないうちに殺した数が100匹を突破し、システムポイントも潤う。
「そろそろ100匹か、本当に早いな。前回の分と合わせればAランクの物がシステムショップで買えそうだ。」
「ますたぁ、魔力そろそろ切れそう……」
「なら休んでろ、十分魔力が回復してから続けたほうがいい。」
プルの助力が無くなったことで多少効率が落ちるが、それでも1.5倍ほどの効率を維持できてる。
「まだまだこれからだ、少なくとも1000匹は狩らないと。ダニエルによれば血月本番は数十万のアンデッドや魔物が来るって話だからな……」
(血月までの6日でどれほど狩れる?他の傭兵や転生者、ダニエルの部下も動いているだろうが、フルで狩り続けても1万に到達できるか……)
そう考えながら柊はサイクロンを走らせる。
引き続きサイクロンの体当たり、白線触手による切断、胡狼&伸牙の射撃を繰り返す。
固まってて処理が面倒な場所には手榴弾を投げ、アンデッドの群れに穴を空ける。
一時間が経過し終わるころには1000匹に到達できた。
「体力的にはまだ余裕があるな、プル、魔力はもつか?」
休息と攻撃を繰り返しているプルは答える。
「大丈夫!そとなら魔力を回復しやすい!」
「なら、もう1000匹いくか!」
◉◉◉
「ぐあ、畜生……我が、王たる我がここまで落ちぶれるなど……!」
一人のボロボロのローブを纏った男が荒野を這いずる。
全身が傷にまみれており、四肢は切断されている。
右腕が上腕の途中、左腕が肘、右足が足首、左足が大腿部の途中でそれぞれ斬られており、その欠損だらけの肉体で必死に這っていた。
「だが、まだ終わらぬぞ……目覚めたからには……再び……!」
空の月が一瞬赤く染まる。
「我は……ソロモン72柱が一柱、王たるベリアルなのだぞ!!」
その男の目の前に映るのは無限の荒野。
先が何なのか、それすらわからず男は這進む。




