第022話〈異世界:ヴィージェス〉
すいませんが今回も次回もほぼ説明になります。
「では付いてきてください。」
そう言うとジャックはダニエルのオフィスから出ていき、地下街中心ビルの中を進む。
その途中で、ジャックは柊とプルに言う
「あなた方が正式にダニエルの配下になったので、ついでに伝えておきます。」
「なんだ?」
「血月を知っていますか?」
柊はジャックの問いに答える。
「あの、モンスターが狂暴化して群れて暴れまわる奴か?」
「ええ、まぁそれで合っています。その血月が、計算上ではあと6日で到来します。」
「本当か!?」
「ええ、本当です。」
(これは相当まずいことになった。もし本当に血月が来るなら、ダニエルを裏切って敵対するわけには行けないし、基地から逃げることはできない。今の俺で対処できるか?)
話しているうちに研究室のような場所に着いた。
あたりには柊にはさっぱり理解できない機械や器具が所狭しと置かれており、中には魔術的な物もある。
ジャックは研究室にあるスクリーンの前の席に座り、近くに置いてあったペン型のリモコンを手に取って操作し、スクリーンを起動させる。
「どうぞ適当に座ってください。」
近くの席に座り、スクリーンのほうを見る。
「ではまずは基礎知識から、この世界、というかこの星、ヴィージェスは直径が約4万kmの惑星で、衛星は一つ。こちらでも月と呼ばれています。」
ジャックがスクリーンにリモコンで惑星とその衛星を書き、横にひじょうにざっくりとした世界地図のようなものを書いていく。
「それで、私たちが今いるのがこの『海砂大陸』の南部、それ以外にも他に4つの大陸が発見されており、それぞれ『狂気大陸』、『聖森大陸』、『南極大陸』、『咒熱大陸』と呼ばれてます。」
そこで一拍おき、ジャックは柊に向き直る。
「ですが、見ての通り科学技術が発達しているにも関わらずまだ新大陸を発見する可能性があります。それはなぜかはわかりますか?」
柊は答える。
「宇宙に、人工衛星を飛ばせないからか?」
「その通りです。正確にはあらゆる物体が高度80kmを超えるあたりで何者かによって破壊されます。おかげで人工衛星は飛ばせないし、宇宙に出ることもできないし、最新鋭のミサイルでも射程はせいぜい1000km程度です。人類はいまだ、月の土地を踏むどころか認識が大航海時代と同程度です。」
「……なるほどな。だからこの世界はこれほどアンバランスなのか。」
柊の言葉に、ジャックは眼鏡の奥の目を光らせて頷く。
「その通り。おまけに瘴気で汚染された大地はろくに作物が育たず、畜産業も望めません。国を作ろうにも瘴気浄化装置の維持がまー大変でして。」
柊がうなずくのを確認してジャックは続ける。
「そしてもう一つ、この世界を決定的に歪めている要因があります……そえが、私たち『転生者』の存在です。」
ジャックは淡々と話す。
「このヴィージェスには、定期的に転生者が異なる時代や国からランダムに放り込まれてきます。現在生存しているだけでもかなりの数。」
スクリーンに書かれているものを消しつつ続ける。
「そこからの地球の知識や、神から与えられたシステムやチートスキルは、この世界の既存の文明にとって圧倒的な特異点……つまり、裏社会や基地運営における『一級のブランド』なのですよ。さらに転生者はここに来る段階で脳を改造され、全員がここの共通語『ヴヴラス語』で話せると来た。」
柊は自分の手を見つめる。
「そういうことか、全員日本語を喋っていたと思っていたがそういうことだったとはな。にしてもブランドね。狙われやすい標的の間違いじゃないのか?」
「フッ、確かにその通り。邪神側とKAVO側の転生者は互いを狩るのが目的です。もちろん邪神側も一枚岩ではないですがね。」
ジャックはスクリーンに四つの区分を描きだす。
「そして、その邪神側の転生者を送り込んできた邪神こそがこの4柱、水の邪神『クトゥルフ』!火の邪神『クトゥグア』!風の邪神『ハスター』!そして、土の邪神『ツァトゥグア』!もっともこれが本当の名前なのかも定かではありませんが。」
スクリーンにクトゥルフ神話の四柱の簡易的な図が描かれていく。
タコのような頭部にゴム状の巨体、背中にコウモリのような不気味な翼を持った水の邪神。
激しく燃え盛る巨大な炎の塊、プラズマのような姿の火の邪神。
夥しい触手の上に黄色いローブを纏い、蒼白の仮面を着けた風の邪神。
巨大で肥え太った腹部と、ヒキガエルに似た不気味な頭部を持つ土の邪神。
(傭兵登録の時に出された用紙にもこの邪神たちの名前が書かれていたが、多分地球のあれらとは違うものだろう。)
「これらの姿も分かりやすいためです。実際の外見は見当もつきません。」
やはり、元の世界のクトゥルフ神話とは異なる神たちなのだろう。
「なぁ、これらの邪神と魔術属性に関係はあるのか?」
ジャックは眼鏡を中指で押し上げ、答える。
「良いところに目を付けますね、そうです。これらの邪神の四属性はちょうど魔法の基本四属性に当てはまります。データは少ないですが、それぞれの転生者の魔術属性にも影響があるようです。」
そしてスクリーンを縮小させ、四属性の邪神の横に、三つの丸を描く。
その丸の中にそれぞれ『光』『闇』『無』と描かれる。
「そして、基本四属性に基本と付いているように、そのほかにも希少三属性が存在します。」
柊が質問を投げかける。
「光と闇は分かるが、無属性っていうのは?」
「他の六属性が魔力を物理的な攻撃に変えるのに対し、無属性は精神的な攻撃を行うものです。ただし、単純な無属性では効果がなく、他の属性と混ぜることで相手の肉体を貫き、内部の精神に攻撃できるというわけです。」
「ならなんで精神属性と呼ばれてないんだ?」
「たしかに本来精神属性とでも呼ぶべきものですが、無属性と呼ばれるのは過去にこの性質が判明せず、意味のない属性だと思われていた名残ですね。あなたがKAVO側の転生者なら、ステータスにもそう表記されているはずです。」
柊は黒の森で無属性を得たとき、確かに精神が満ち満ちた感覚があった。
おそらくそれが精神に作用する無属性の効果なのだろう。
「ちょうど魔法について説明しましたし、次は属性を混ぜ合わせることによって生まれる、『魔術混合』について話しましょう。」
・基本四属性
火:熱や乾燥などの性質
風:不可視、広がる性質
水:冷、形を変える性質
土:重量や堅牢の性質
・希少三属性
光:プラスの力、弾く力
闇:マイナスの力、引く力
無:通常では肉体を貫けず、効果がないが、他のものと結合することで精神や魂へ干渉する力




