第021話〈アウターソウル〉
スーツの男に付いていくと、裏路地のある場所を超えた途端、男の姿が消えた。
「ッ!、これは!」
「風属性魔術による隠匿です。そのまま進んでください。」
姿は見えないが、声が聞こえてくる。
言われた通りに進めば薄い幕に触れ、それを超えれば、周辺の景色ががらりと変わる。
「マジか……」
20世紀初頭のアメリカ建築に、サイバーパンクが融合している。
空気中には薄くアルコールの匂いがし、近くには西洋の酒場も見える。
その中央には、ひときわ大きい地面と天井を支える柱のようなビルが建っていた。
「こちらです、夜異柊様。」
その中央のビルまで案内され、スーツの男がビルの受付にカードを見せるとすんなりと通され、しばらく歩き、柊とスーツの男はエレベーターに入る。
エレベーターはガラス張りで外が見え、上に登っていくごとに地下なのに下の街が地上のように思える。
最上階に到達し、扉が開く。
そこからもう一度隠匿結界を抜け、とある部屋の前にたどり着いた。
「これから会う御方は、私の主であると同時に個の基地全体の『王』です。」
(おいおいおい、マジかよ!そんなとんでもない奴になぜ俺が!?)
「私はここから先へ進めませんので、これにて失礼します。」
そういってスーツの男は来た道を戻っていく。
「この先が……」
柊は一応前世の作法に則ってその部屋のドアを3回ノックする。
「入れ。」
ドアを隔てているせいか、その声は、発した者がどのような姿なのか全く想像させなかった。
「失礼します。」
扉の先にあるのは荒廃した世界とは思えないほど豪華なクラシック調のオフィス。
そこには高級な葉巻の煙を燻らせながら、ヴィンテージのウイスキーグラスを傾ける、彫りが深い黒髪緑眼の男が一人。
クラシックなフェドーラ帽を被り、黒く重厚感のあるダブルスーツ、光沢のあるシルクのネクタイを身に着け、身長は185cmほどに見える。
「敬語は使わなくてもいい、転生者。この地下街でそれを使うやはほとんどいない。スライムのお嬢さんも擬態を解いて結構だ。」
「……やはり気付いていたか。」
柊がそう答えると同時にプルは擬態を解いて人型に戻り、柊の後ろに隠れる。
「当然だ、このスタビリート基地に踏み込んだ時から、私はお前に目を付けていたよ。」
「なぜ俺が転生者とわかったのか、教えてもらえるか?」
柊は疑問を口にする。
(今後、何を改めるべきかははっきりしたほうがいい。)
「簡単なことだ。まず基地に入るときにスマホへアプリを入れられただろう?その時に、スマホの型番から特定した。純正のアンドロイド16はこの世界には無いからな。」
柊は最初の時点でもうすでに見抜かれていたのだとはっきり理解する。
「さっき基地の外で俺を監視してたのも?」
「俺だ。」
「なるほどな、そういうことか。それならお前の目的は?」
「お前を俺の配下に置くことだ。」
「なら、それに応じた場合の俺のメリットは?」
それを聞き、男は笑う。
「お前に、拒否権がるとでも?」
柊の表情がこわばり、腰の胡狼&伸牙に手をかける。
後ろのプルも拳を硬質化し、臨戦態勢をとる。
「まぁ待てよ、そう気張るな。傭兵をやめろという意味でもないし、俺とお前の目的は一致しているはずだぜ?」
「まさかお前も!」
柊の目的、それは邪神側の転生者の排除、ならば、
「そうだ、俺もKAVOによってこの世界に送られてきた転生者だ。」
「……そういうことか。」
KAVO側の転生者は、邪神側の転生者を殲滅しつくした先に願いの成就が待っている。
(ならば手を組むのが圧倒的に効率的だ。)
「わかった、ならお前についてくが、せめて名前を教えてもらえるか?」
「ああもちろんだ。では改めて、自己紹介をしよう。俺はダニエル・トンプソン、このスタビリートの、首領にして唯一のSランク戦力だ。」
ダニエルは立ち上がり、柊に握手を求める。
柊もSランクに驚きながらもそれに答え、ダニエルの手を握る。
「それから、柊。お前はいつ転移してきた?この調子では黒の森と合わせても1月も無いと思うが……」
「ああそうだ。この世界に来たのはせいぜい1週間前だ。」
「やはりな。」
ダニエルはスーツのポケットからスマホを取り出し、操作を行う。
「この世界に俺以上に詳しいやつを呼んだ。いろいろもろもろと教えてもらえ。来るまでは酒でも飲もう。」
先ほどまで飲んでいたウイスキーを自分のグラスに注ぎ足し、もう一つのグラスにも注ごうとしているダニエルを柊が止める。
「いや、俺はまだ未成年だ。」
「は、死線をくぐり、女とヤッたことがあるならそれは大人だ。」
柊の顔から血の気が引く。
「……まさか、部屋に隠しカメラが……」
「おや、本当にヤッていたのか?」
(嵌められたッ!)
「冗談だよ、こんな世界じゃ大人も子供も変わらん。それに、契約を交わすときには杯を交わすものだ。」
ダニエルは酒を注ぎ、グラスを柊に渡す。
「はぁ、わかったよ。」
グラスを受け取り、ダニエルと乾杯を行う。
(乾杯をしたし、酒は同じ瓶から注がれた。毒の可能性は低いか。)
二人は同時にグラスを仰ぎ、中の酒を飲み干す。
柊の口の中をアルコール特有の刺激や苦味が満たす。
(思ったよりはうまいな。)
「お嬢さんもどうだ?」
プルに向かってそう言い、ダニエルはもう一つグラスをとってこようとする。
「それは本当にやめてくれ……」
「お前が果たして彼氏なのか保護者なのかわからなくなってくるぜ。」
「やめてくれ、それは俺が一番わかっている。」
しかし、プルは不思議そうにウイスキーの瓶を見ている。
「ますたぁ、それおいしいの?」
「うまいが、飲まないほうがいい。」
柊がそう答えた直後、部屋の入り口から声がする。
「そうです、飲まないほうがいい。」
柊はバッと振り返り、その男と目を合わせる。
白衣を身にまとい、眼鏡をかけたその男は続ける。
「スライムという生物は、その性質上体内の細胞一つ一つが全て脳の役割をしまう。そんな生物が酒を飲めば、たった数mlで酔ってしまいます。ましてやウイスキーなんてアルコール濃度が高い酒を飲めば……」
「そこまでにしろジャック、お前の話は長すぎる。」
ダニエルがその男の隣まで歩き、肩を組む。
「こいつはジャック、転生者で俺の知る中ではこの世界に最も詳しい。こいつにも敬語は使わなくていいぜ。」
「勝手に決めないでくださいよ……あなたが夜異柊ですね、ダニエルから話は聞いてると思いますが、あなたにこの世界のことについて教えるよう言われました。」
その男は眼鏡の位置を直し、続ける。
「ジャック・フリンラッターです。」
ダニエルもジャックもアメリカ人で、ダニエルが2075年、ダニエルが2040年から来た。
KAVO側なのでもちろん二人とも人ではなくなっている。




