第002話〈黒の森〉
一通り洋館を見た後、柊はその場から離れる。
魔術は使えないが体内の魔力の流れを感じることはでき、それによる筋力の強化ができた。
(今の魔力量と肉体強度的に20%上昇させるのがやっとか……)
歩いていくとやがて洋館の出口を見つけた。
「やっと出られる……」
ほっとしながらドアを開けると、そこは霧に包まれた黒い森だった。生える植物全てが黒く、草だろうと、気だろうと、果ては咲く花までもが黒かった。
「やっぱり、地球じゃないよな……」
とりあえずまずは生きている人間を探したほうがいいだろう。もっとも、人がいればの話だが。
しばらく歩くと、柊は何やら違和感を感じた。生物の気配がしないのだ。
「おかしいな……いや、気配を消した何かがいるのか?」
可能な限り気配を殺し、森を抜けるために進んでいく。
【任務を開始します。】
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任務:闇に潜む怪物を殺害せよ
報酬:ガチャチケット1枚 システムポイント300
失敗ペナルティ:変異吸血鬼体質の没収
制限時間:10分
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(やはり何かいるな!)
体質が奪われるのはまずい。これがなくなれば生き残るどころか、訓練を受けていない俺では銃の反動で自滅してしまう。
(クソ!やるしかない!)
周辺をよく観察する。何か動いているものがあるはずだ。
「案外見つかるじゃないか……」
視力強化Ⅱによって、柊はかすかだが動くものを見つけた。2時方向に、よく見なければ絶対にわからないであろう獣がいた。保護色というよりかは半透明化のほうが近いだろう。
「姿は虎に似ている、ただの虎では明らかに無いだろうがな。」
(ポイントもさっきの腐った怪物の200と比べ、1.5倍になっている。集中しなければ。)
柊は虎へ照準を定め、デザートイーグルの引き金を引く。
弾丸は一直線に虎へ向かって飛ぶが、すんでのところで感づかれ、回避された。
「おいおいおい!マッハ1.3はあるんだぞ!」
相当まずい。銃弾の避けれるような化け物相手にどう戦えばいいというのだ。
「ROAAAA……」
虎が唸り声を上げる。
「……いいや、俺だって吸血鬼だ。やってやるよ!」
現状、虎との距離は15メートル。 銃弾を避けられるなら、肉薄して確実に脳天をブチ抜けばいい。
柊は地面を蹴った。吸血鬼化した肉体は、人間のそれの3倍の速度で黒い地表を滑走する。 しかし、半透明の虎もまた、予測を上回る反応速度を見せた。柊の接近を察知した瞬間、巨大な顎が網膜いっぱいに広がる。
「オラァ!」
毛皮に打ち込んでもおそらく大したダメージを与えられないだろう。大きく開かれた、無防備な口内へ銃口を突っ込み、引き金を絞る。
ズドンッ!
鼓膜を震わせる爆音。虎の喉奥が爆ぜ、深紅の血飛沫が柊の顔面に降り注いだ。
「GRRRUUUAAAA!」
喉を撃ちぬかれながらも、捕食者の執念が虎の動きを止めない。喉からドス黒い血を噴き出しながら、虎は柊の頭へ狂ったように顎を閉じた。
(しまっ──)
視力強化Ⅱの視界の中で、迫る牙がスローモーションに映る。
とっさに頭を捻ったが、肉が裂ける生々しい音が耳元で響いた。
左耳を丸ごと、頭皮ごと噛みちぎられる。
「ぐ、あ゛っ……!」
脳を焼くような激痛。千切れた傷口から、肉繊維がチリチリとのたうち回り、再生が始まる。
ステータス画面を見る余裕はないが、魔力か体力がガリガリと削られているのが直感で分かった。
(何度も再生はできない……長引けば死ぬ!)
「だが、腕に比べりゃ、どうってこと無ぇんだよッ!」
柊は痛みを狂気でねじ伏せ、虎の頭頭骨を両手で掴んで固定した。そのまま眉間へデザートイーグルを押し付け、二発目を叩き込む。
──ドンッ!
「WSYAAAAAAAAAA!!」
頭蓋を粉砕されてなお、虎は死なない。
狂乱した巨体が柊を押し潰し、地面へと叩きつける。
凄まじい質量。肋骨が悲鳴を上げ、肺の空気が強制的に押し出された。
ガチガチと、目の前で虎の血塗られた牙が鳴る。
デザートイーグルを持つ右腕は、虎の強靭な前足で地面に抑え付けられ、びくともしない。
そして、虎は再度血まみれの口を開き、柊に向かって閉じる。
「ならッ、こうだろ……ッ!」
柊は左手で、地面に落ちていた太い木の枝を掴み、先ほど弾丸で穿った、虎の喉の傷へ向け、全力で突き刺す。
ブチ、ブチブチブチグチャ!
「FUIAAA……!」
肉と気管を蹂躙する嫌な感触が左腕に伝わる。
声帯を完全に破壊されたのか、虎がヒューヒューと虚しい風切り音を漏らしながら、激痛に身を震わせている。
傷口の中で、木の枝をさらに深く抉り回す。 虎の力が一瞬だけ緩んだ。その隙を、スキルによって強化された眼が見逃すはずがない。
「もう一発、おまけだァ!」
柊は地面を這うようにして虎の巨体の下から抜け出すと、即座に立ち上がり、銃口を再びその頭部へと向け、先ほど破壊した眉間の同じ位置へ、再度発砲する。
弾丸は虎の脳を破壊し、ついに殺した。
「あ゛ー、耳はもう再生してるな。クソ、4発も消費させやがって。」
【任務が完了しました。報酬を授与します。】
【システムポイントが合計500に到達しました。収納空間を解放します。】
「収納空間?ってことは物をしまえたりするのか?」
【肯定、現在空間の大きさは1m四方×高度限界100m。非アクセス時の内部の時間流速は自在に変更可能です。】
「高度限界が100mもあるのか、めっちゃ物はいるな!しかも保存にもよさそうだ。」
そう思っていると、柊は自分がひどく空腹であることに気が付いた。
「う、戦い続きで気が付かなかったけど、さすがに腹減ったな……」
そして、目の前には仕留めた獲物、本能的にそれへ手を伸ばす。
口を開き、齧り付く。
口の中に甘美な味が広がる。食感は最悪だが、血の味はこの身に歓喜を感じさせ、体内の魔力が満ち足り、体力が回復するのを感じる。
「いい気分だ……」
【喰血行為により吸血鬼融合率が5.5%に上昇しました。 】
「なるほどな、融合率はこうやって上げるのか。」
微々たるものだが身体能力も上昇しているようだ。
「次はガチャだ。今度は何が出るかな?」
【ガチャを実行……結果:[Cランク]『聖骸布外套(破損)』を取得しました。】
「Cか、結構いいほうなんじゃないか?それで、効果は……」
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【聖骸布外套(破損)】
これを身に纏った者は外界からの浸食を減少させる。
(瘴気の浸食速度を半減 / 日光によるダメージを半減)
破損状態のためランクが2つ落ちている
-正義のたどり着く先-
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「正義か……破損状態だがまあいい。これでしばらくは瘴気に耐えられるだろう。」
外套は着れる状態ではなく、柊は仕方なくマントのようにそれを羽織る。
(ブレザーの上にマントってどうなんだ?そんなこと言ってる場合でもないか。)
柊はそんなことを思いながら残りの虎肉を収納空間へ入れる。
もちろん収納空間の時間流速は最低の1/1000まで下げた。これなら1ヶ月は持つだろう。
収納へしまうのに10秒ほどの待機時間が必要だった。
万が一の場合の逃げ先にしようとも考えていたが、これでは無理だ。なお取り出すときは1秒程度で行える。
しかも、システム画面の説明によれば生き物をしまうには対象の同意が必要なようだ。
「しかたない。現状でも十分便利だしいいか。」




