第019話〈ファーストオーダー〉
宿屋から出た後、柊は傭兵組合へ直行する。
今日の月は一段と明るく、この都市を照らしていた。
「これは……上弦の月か、なんだか調子がいいな。」
柊は月光を浴びてから調子がよく、数時間前の夜戦で消費した魔力も、いつもを超える速度で回復してきた。
数分後、傭兵組合に到着し門を開けば昨日と同じよりかは人が多かった。
依頼ボードへ近づき、確認する。
そこには十個程度の任務があり、ほとんどがF~Dランク、そしてCランクが2つあった。
柊はそのうち一つに目を付けた。
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依頼【基地周辺アンデッドの掃討】
依頼番号[204713293]
参加可能ランク下限:Eランク
参加可能ランク上限:無し
内容:基地から30km範囲内のアンデッドを可能な限り殲滅せよ
報酬:斬り落としたアンデッドの耳を1つ持ち帰るごとに100₤₤
耳を持たない場合は嘴や両眼球、尻尾でも可
獲得した素材は各自持ち帰っても構いません。
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受付に行き、依頼番号を告げれば受けることができるようだ。
受付には機能と同じ機械腕の女がいた。
「よう、機能の新人。随分と良い物着てるじゃねぇか。」
受付が柊の外套に目を移す。
「ええまぁ。依頼を受諾しに来ました。204713293番なのですが……」
「は~い、204713293……んあ?おい、お前まだF級だっただろ。受けられねぇぞ?」
それを聞き、柊は新しいドッグタグを取り出し、受付に差し出す。
「先日謎の人物からこちらを受け取りましてね。ということはこれは偽物ですか?」
それを見た途端、受付は目を丸くする。
「おいおいマジか、Dランクのドッグタグ!いくらなんでも早すぎるだろ!しかもお前まだ一回も依頼受けてなかったよな!?」
それを聞き、周辺にいた傭兵もざわつく。
受付はそれを受け取り、まじまじと見る。
「しかも正規品だ。マジで使えるぜ?兄ちゃん。」
(本物か、誰かのいたずらという線は消えたわけだ。)
その新しいドッグタグを謎の機械に入れ、操作を少し行った後、受付はそれを柊に返す。
「はい、これで依頼受諾を完了した。そんじゃ一狩り行ってこい!」
柊はそれを聞いて安心し、傭兵組合を出ようとしたところ、入り口付近のテーブルに座っていた大柄の傭兵が、手にもつ大斧を振り降ろし、柊の行く先を塞ぐ。
「待ちな素人、お前どうやって一気に2ランクも上昇させやがった。」
その傭兵のほうを見れば、同じテーブルに仲間らしき者が4人。
「すみませんが、どいてもらえますか?私はただ受け取っただけですよ。別に私が何かをしたというわけではありません。」
「ふ~ん?そんじゃぁお前がDランクに相応しいか試してやるよ!」
大斧が柊に向かって振り下ろされる。
その速度は決して遅くはないが、相手が悪かった。
柊の速度ステータスは、高水準な他ステータスと比べても突き抜けて高く、その大斧を簡単に避けた。
「落ち着いてくださいよ、あなたには関係ないことじゃないですか。」
「そうだよトム、おまえがDランク試験8回受けてやっと受かったから気に入らんのはわかるが、いきなり攻撃すんのは同かと思うぜ?」
仲間の一人が大柄の傭兵にヤジを飛ばす。
「ああ?黙ってろロイ。一回で受かったお前にだけは言われたくねぇ!」
大柄の傭兵が柊に向き直る。
「しかもその口調も気に入らん。まるで文官のヒョロガリみてぇだ。てめぇ金玉ついてんのか?」
それを聞き、さすがに柊も眉をピクリと動かす。
「初対面の相手には敬語を使うのが普通だと思うのですが、違いますか?」
「カマトトぶってんじゃねぇぞクソガキが!」
今度は大斧の横薙ぎ、だが、柊はそれを避けるまでもないと判断し、聖骸布外套から覗く左手で軽々受け止める。
ガウンッ!と、肉体と鉄が衝突したとは思えない硬質な重低音が響いた。
「何!?」
(こういう奴には口で言っても通じない。仕方ないな。)
「どうやらてめぇには論理が通じねぇみたいだな……失せろ。カスが。」
柊は大斧の刃を掴んだまま、魔力で強化した万力のような力で指をめり込ませる。
ギチギチと鉄が悲鳴を上げ、そのまま大斧の肉厚な金属塊をグニャリと歪め、使い物にならなくする。
「ひ、ひぃぃぃ!こいつ!素手で鉄を曲げやがった!」
「お、おちつけ!それぐらい力自慢の傭兵ならできるだろ!」
「タイタスのことを言ってんならあいつはAランクだぞ!」
ビビッて仲間と言い争っている大柄の傭兵を横目に、柊は傭兵組合を出る。
(にしてもこんなべたな展開が来るとはな……これも転生者の宿命か。)
基地から出れば、再び瘴気が満ち溢れ、魔力の回復速度がさらに上昇する。
心なしか服に擬態しているプルも気分がよさそうだ。
さっさと基地から走って離れ、岩陰に隠れて収納空間から装甲バイクサイクロンを取り出す。
「やっと擬態解ける~。」
プルは擬態を解除し、サイクロンのサイドカーに飛び乗る。
「それじゃ、いこうか。」
柊はアクセルをひねり、サイクロンを走らせる。
夜の荒野にはもうアンデッドがちらほらおり、柊はそれらを時速100km前後を維持したバイクで轢いていく。
轢かれたアンデッドの耳を首元から2本生やした白線触手で斬り落とし回収する。
数匹即死していなかったものもいたが、再度轢けばすぐにくたばった。
空を飛んでいるゾンビ鷹は銃撃で頭を潰した後、こちらも触手で嘴を斬り落とし回収する。
他にも犬型、ネズミ型、珍しい物ならライオン型がいた。
「生態系どうなってんだマジで……」
よこではプル風を受け、楽しそうに笑っている。
それを見れば柊の嫌いな生物教科のことなんてどうでもよくなった。
「ますたぁ、プルも戦いたい!」
「そうだなぁ、じゃぁ硬質化した刃をバイクの横に付けられるか?」
「うん!」
そういい終わると同時にプルは肉体の一部をバイクに沿うように這わせ、刃を作り硬質化させる。
攻撃可能範囲が増えたことでアンデッド狩りの効率はさらに上がり、もともと2本で足りていた白線触手が4本必要になった。
40分が過ぎるころには合計で3万₤₤以上、日本円で約16万円まで稼げた。
「ははは!時給がほぼ30万円じゃねぇか!谷でトカゲやらサソリやら狩るより効率良いぞ!」
荒野で一般沸きするようなアンデッドならば、剥ぎ取るような価値のある部位もないので価値を回収するための時間がかからず耳を落として持ち帰るだけでいい。
それでもヘッドショットを行うと耳ごと消し飛ぶので胡狼&伸牙をアンデッドの頭に向けて使うわけにはいかないが。
触手で簡単に耳を切って回収できる柊なら、強い魔物をわざわざ探して倒すより金を効率よく稼げる。
「さて、そろそろ帰るか。」
柊が帰還を選択しバイクを基地の方向に向かって走らせていると、どこからか視線を感じた。
「なんだ?この感覚は……」
魔眼を起動し、周辺を見渡してみると、少しゆがんだ場所を見つけた。
しかしその途端、ゆがみは即座に消えた。
「これは……気のせいか?いや違う。たぶん俺に目を付けた基地のお偉いさんの『目』だろうな……」
とにもかくにも、監視されているのなら奇襲を避けるために相手が殺しにくいような壁、一般人が多い基地内部へ帰るため、柊はバイクのアクセルを全力でひねる。
これ依頼のランク上限下限ってあるけどチームとしてそのランクの範囲内じゃないといけないってこと。
最低一人そのランク下限の人がいれば受けられるし、ランクが上限よりも低くてもチームとして上限に達しているなら受けられない。
受けたきゃチーム分解して各々受けろってこと。
なお上限も下限も依頼者じゃなくて組合が審査してから決めてる。
職人護衛して送り届ける任務で報告にない強者が襲ってくるみたいな事態は防がないと。




