第015話〈スタビリート基地〉
柊とプルはトカゲの肉を食らって自らの強化を行い、少し気まずくなりながらも進んでいき、やがて地上に出た。
基地までは残り50kmもなく、一日で着くだろう。
(とはいえ、今までは俺が走ったほうが早いから車系を交換していなかったが、プルがいる今は用意したほうがいいか?)
柊はシステムショップを見渡し、良いものがないか物色する。
(荒地や砂漠、岩場を走るんだから強いエンジンと車高が必要だな。)
画面をいくつかスクロールしていくと、無骨で頑強そうな四輪バギーや大型の装甲トラックが目を引く。
しかし、どれもサソリの群れを殲滅したことで増えているとはいえ消費ポイントが重いか、あるいはこの障害物の多い荒野では小回りが利きそうにない。
その中で、柊の目がピタリと一つの項目で止まった。
【重装甲バイク・『サイクロン』(サイドカー付属)】
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[Dランク]
必要ポイント:9500
説明:高トルクの魔力エンジンを搭載した全地形対応の二輪車。付属の重装甲サイドカーをドッキングすることで、悪路走破性と積載量を大幅に向上させる。搭乗者の魔力を流し込むことで、一時的な超限界走行が可能
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「これだな……」
9500ポイントも取られるのは非常に痛いが、二輪ならではの機動力に加え、サイドカーがあればプルを安全に乗せられる。
吸血鬼としての超人的な五感と反射神経、さらに魔眼を持つ柊なら、岩場だらけの荒れ地であってもバイクの手綱を完璧に握れるはずだ。
柊が購入を確定させると、目の前の空間が歪み、重厚な機械音が響き渡る。
光の粒子が収束し、そこに現れたのは黒く塗装された巨大バイク、まさにモンスターマシンだった。
岩を簡単に超えられるオフロードタイヤ、いたるところに張り巡らされた黒い装甲、そしてその横には、しっかりと衝撃吸収サスペンションが組み込まれた、装甲板付きのサイドカーが連結されている。
「わあぁ……! ますたぁ、これなに!? すっごくかっこいい!」
さっきまでの気まずさを一瞬で吹き飛ばし、プルの碧い瞳がキラキラと輝いた。
好奇心を抑えきれない様子で、バイクのタイヤをツンツンと触っている。
「俺たちの足だ。プル、お前はそっちの助手席に乗れ」
「助手席? はーい!」
プルはぴょんっと軽く跳ねて、サイドカーのシートへと器用に収まった。
すっぽりと装甲に守られるような座り心地が気に入ったのか、シートの上で嬉しそうに身体を揺らしている。
柊は運転席に跨り、ハンドルを両手で握り、購入時に収納空間に追加された鍵を出しす。
それを挿してを回すと、魔力エンジンが地響きのような重低音を上げて目覚めた。
シートを通じて伝わってくる圧倒的な馬力の鼓動に、柊の口元が微かに吊り上がる。
「プル、振り落とされるなよ」
「うんっ! ますたぁ、いっけーー!」
アクセルを鋭く捻り込む。
サイクロンはしっかりとしたトラクションで地面を掴み、猛烈な加速で荒野へと飛び出した。
吹き抜ける熱い風が柊の漆黒の髪を揺らし、背中に羽織った聖骸布外套が激しく翻る。
「あははは! はやーい! 風がきもちいい!」
サイドカーの助手席で、プルは両手を広げて無邪気に声を上げている。
先ほど魔力を吸い出されたときの色っぽい表情はどこへやら、今はただ風を楽しんでいる無垢な少女そのものだ。
柊は前方を見据え、種魔眼を薄く開きながら、ハンドルを的確に捌いて岩場の隙間を縫うように爆走していく。
目指している都市までは遮蔽物が少なく、直線距離で残りわずか。
この速度なら、日が登る前には確実に到着するだろう。
(二度目の転移から一週間は経っているだろうが、俺にはこの世界の常識が一切ない。あそこで情報が手に入るといいが……)
バックミラーに映る、楽しそうなプルの笑顔を視線で拾う。
自分を裏切った人間たちと、人間ではないが自分を慕うスライムの少女。
(歓迎されるとはハナから思っていない。生き残るために利用できるものはすべて利用する……それだけだ。)
胸の奥の『鉄の心』をもう一度引き締め、柊はさらにアクセルを開けた。
魔力エンジンの咆哮が荒涼とした荒野へ響き渡る。
数時間後、二人は都市から3km離れた位置に到着した。
都市からは見えないようサイクロンを岩の裏に止め、収納空間に入れる。
「プル、ここからは俺一人で歩いていく、服装の一部に擬態して張り付いてくれないか?」
「いいよ、えーい!」
プルは体を振るわせ、圧縮し、柊の服装の一部に張り付いて感触と色を模倣する。
柊はそれを確認すると、壁に囲まれた都市へ走り出す。
5分もすれば都市の城門前へたどり着いた。
門の前には門番であろう二人の男が立っており、手にはライフルを持っている。
「すいません、お兄さん。身分証と金はお持ちですか?」
二人のうち若いほうの門番が柊を止める。
言語はどうやら通じるようだが、話している口は日本語として出てくる言葉の発音とは異なっている、
(システムが調整してるのか?とりあえず怪しまれないためにも敬語で話すか。)
「持ち合わせていません。他に入る方法はありますか?」
「あー、別に身分証は必須じゃない。金も同価値の物品があればいい。」
もう片方、中年のほうの門番が答える。
「わかりました。これで十分ですか?」
柊は懐に手を入れる動作をしつつ、収納空間から谷底のトカゲの肉を取り出す。
「ふむ、それはテンタクトオオトカゲの肉ですか?その大きさでしたら相場で150₤₤から300₤₤ですね。十分です。」
(この₤₤というのがどれほどの価値なのかはわからないが、どうやら足りているらしい。)
若い門番はトカゲの肉を受け取る一方、中年の門番は値踏みするように柊の全身を見る。
返り血で汚れた衣服、腰には二丁の銃を下げ、そして何より、その上から羽織った不気味なオーラを放つ外套。
ただの遭難者でも、一般の傭兵でもないことは一目でわかる。
「……アンタ、どこから来た?東側にあるそのトカゲが巣食う流魔峡谷は、まともな人間が単身で通り抜けられるルートじゃないはずだが。」
「道に迷ってな。死に物狂いで走ったらここに辿り着いた」
柊は感情を乗せない声で淡々と嘘を吐く。
中年の門番はなおも疑わしげな目を向けたが、それ以上の追及はしなかった。
この荒廃した世界だ、訳ありの強者など珍しくもないのだろう。
転生者も、あの神の口ぶりから察するに一定数いるはずだ。
「……まあいい。肉の価値は状態もいいし300₤₤として受け取った。入場料の100₤₤を引いて、残りの200₤₤を返す。電子端末の類は持ってるか?」
(ほう、キャッシュレスですか。大したものですね……俺のスマホで試してみるか。)
「はい、これで可能ですか?」
柊は門番に見えないように収納空間から現実で数週間ほおりこんでおいたスマホ(アンドロイド)を取り出す。
もちろん収納空間内では数分しか経っていないので充電は十分だ。
「ふむ、スマートフォンか。随分と旧型だがこれでいいぞ。」
門番はスマホを受け取り、腰にぶら下げている装置にスマホを入れ、操作する。
「よし、これでいい。内部にアプリを入れたからそれで決済ができるぞ。」
スマホを受け取った柊に門番が再度声をかける。
「最後に一つ。身分証がないなら、アンタは『未登録の放浪者』扱いだ。地上の外郭区域ならともかく、地下の居住区へ降りるなら色々と制限がかかるから注意しな。」
「地下、ですか?」
「ああ。この『スタビリート基地』の本体は地下だからな。」
門番が背後の重厚な鉄扉を開ける。 ギギギ、と軋んだ音を立てて開かれた門の先へ、柊は一歩を踏み出した。
◉◉◉
とある薄暗い部屋。
一人の真っ黒な帽子を被り、真っ黒なスーツを着た男が椅子に座り、葉巻を吸っている。
「すみません。ボス。門番が転生者らしき人物を見つけたそうです。」
一人の若い男がその部屋の扉を開け、駆けこむ。
「ほう、5年ぶりか。そいつの実力と年代は特定できるか?」
「はい、所持していたスマートフォンから2020年代から2030年代ではないかと。そして、あの赤い瞳は高確率で吸血鬼と思われます。となれば少なくともD級以上……」
黒ずくめの男は椅子をくるりと回し、若い男に向き直る。
「なるほど、では有用性を調査してこい。」
「はッ!承知しました!」
若い男が部屋から出たのち、黒ずくめの男は一人笑う。
「クククク、楽しみだな。今度の転生者はどのような利益をもたらしてくれるか……」
減少の柊の速度ステータスは180。
そして一般的なバイクの最高速度は速度ステータス換算で約130。
柊の子の180がどんだけ早いかというと、まぁ大体時速400kmである。
え?なんで柊がバイク運転できるのかって?ハワイで親父に習ったんだよ
あと銃の打ち方もハワイで親父に習った




