第013話〈活性化Ⅰ〉
魔弾で仕留めるにも、その数には限りがある。
岩サソリの数は、明らかにそれを上回っていた。
「プル……あいつらの装甲を斬ってみた感じ、なんか斬れば貫けそうだ?」
「10回はいるはず……」
「そうか、岩石が相手なら斬撃より打撃だ。プル、次は刃じゃなくて拳で殴れ。俺は……」
柊は覚悟を決め、スキル『活性化Ⅰ』を使用する。
「一気に決める!」
牙と爪が鋭くなり、瞳はより一層朱く、輝きを増す。
175cmの身長が180cm近くまで伸び、全身の筋肉が膨れ上がる。
精神力が活性化により一気に減少する。
「うらァァァアアア!」
近くにいたサソリの一体に殴りかかり、装甲に罅を入れる。
拳から血が流れているが、『再生Ⅳ』によってすぐに傷は塞がる。
「オラオラオラオラァ!」
続けざまに拳を浴びせ、そのサソリを完全に叩き潰す。
背後からもサソリが迫るが、即座に収納空間から魔力を事前に大量に込めたツェルモ鋼のナイフを取り出し、そのサソリへ投げる。
ナイフはサソリの装甲に突き刺さり、小さく罅が入る。
「プル!ナイフをブン殴れ!」
「わかった!」
プルは硬質化した拳をナイフへ叩き込み、楔の要領でサソリの装甲が砕け散る。
楔となったツェルモ鋼のナイフがサソリの装甲を砕きながら肉肉しい内部へと深く突き刺さり、そのまま絶命させ、緑色の体液を噴き出させた。
「これで2匹!!」
柊の咆哮が、玄武岩の岩場に響き渡る。
『活性化Ⅰ』による黎種吸血鬼の肉体強化は凄まじい。
全身を駆け巡る血が沸騰するような熱さと、脳を焼き尽くさんばかりの全能感。
しかし、その高揚感に溺れることなく、柊の鉄の心は冷徹なリソース計算を続けていた。
(活性化による消耗は激しい。再生の限界が来る前に、残りを殺す!)
「プル! 次だ! 俺が罅を入れた奴から順に叩き潰せ!」
「うん! プル、もっといっぱい叩く!」
プルは華奢な少女の姿のまま、両腕を肥大化させ、硬質化Ⅳの黒い輝きを纏わせた。
打撃への切り替え指示を瞬時に理解し、以心伝心のように指示が即座に実行される。
ドゴォッ!!!
プルが地響きを立てて跳躍し、迫り来るサソリのハサミを正面から粉砕した。
そこへ柊が『胡狼』と『伸牙』を構え、超人的な脚力で地を滑るように接近する。
魔弾の数は少ない。
柊は通常弾をサソリの関節部の隙間へ正確に撃ち込み、体勢を崩したところへ、魔力を込めたツェルモ鋼のナイフで装甲の継ぎ目をこじ開けた。
「プル、ここだ!」
「はーーー!どんっ!!」
プルの硬質化した質量打撃が、ナイフの後端を完璧に捉える。
バキバキと音を立てて砕け散る玄武岩の装甲。次々とサソリの数が減っていくが、敵もただの木偶ではない。
キィィィイイイィィィン!
生き残ったサソリたちが一斉に口を大きく開き、エネルギーを溜め、全身が振るえ始める。
「なんかわからんが絶対にまずい!」
その隙にサソリ2体を同時に撃破するが、エネルギーのチャージが完了してしまい、強烈な超音波の波動を放ってきた。
ア゜ッッッッッ!!!
岩場全体が小刻みに震え、柊の耳から血が垂れる。
脳を直接揺さぶられるような激痛。
「ぐっ……精神力が削られる……!」
活性化により肉体は強靭になろうとも、精神的な攻撃への耐性はまだ低い。
さらに活性化の使用には精神力を大幅に消費する。
柊の動きが鈍る。
その隙を逃さず、3匹の岩サソリが巨大なハサミを振り上げ、柊の死角から同時に襲いかかった。
「ますたぁ危ないっ!」
引き裂かれる寸前、柊の前に瑠璃色の防壁が立ち塞がった。
プルがスライムの流体へと戻り、巨大な盾となって柊を包み込んだのだ。
物理無効の『液体身体Ⅴ』により、サソリのハサミは空を切るようにプルを通り抜ける。
しかし、サソリの表層に纏う瘴気と超音波の衝撃が、プルの流体を激しく霧散させた。
「あぅっ……! ちょっと痛い……!」
「プル!!」
裏切りと友殺しで鉄となったはずの柊の胸に、身を挺して自分を守った眷属への感情が衝動となって突き上げる。
「俺の眷属に……気安く触れてんじゃねぇ……虫ケラどもがッ!」
__鉄の心は打たれるたびに鍛えられ、より強く、硬くなる。
柊の双眸に宿る朱が、昏い黒を帯びてさらに深く沈む。
スキル『白線触手Ⅰ』の触手を4本マックスで腕から生やし、サソリの一体を持ち上げる。
空で暴れるそれを、プールを攻撃したサソリへ打ち付ける。
二体の蠍が衝突し、装甲が完全に砕け散る。
「死ね。」
柊は生身が露出したそこへ胡狼&伸牙でとどめを刺そうとする。
ザシュ!
「ゴはッ!!」
柊は背後からサソリの尾に貫かれ、大きく吐血する。
傷はあまりにも大きく、なおかつ傷に異物が突き刺さっている。
この状態では再生Ⅳをもってしても即座には戦線復帰ができない。
「ますたぁ!」
怯みから回復したプルは柊に駆け寄り、柊を貫いたサソリの尾を引き抜こうとするが、サソリは意地でも離さず、再度エネルギーのチャージを開始する。
プルの表情が曇る。
「ますたぁを……離せ!!」
柊の身体から流れ出た血が、せせらぎのようにプルへと吸い込まれていく。
血の盟約を結んだ主従のパスにより、柊のスキル『眷属活性化Ⅰ』が、眷属の意思によって強制的に発動したのだ。
その瞬間、岩場に吹き荒れたのは、洞窟の瘴気さえも圧殺する圧倒的な魔力の嵐だった。
「――っ!?」
サソリの尾に貫かれたまま、柊はその光景を凝視する。
プルの半透明なスカイブルーの肉体が、内側から激しく明滅し始めた。
幼い140cmの少女の輪郭が、劇的に、そして妖艶に変貌していく。
波打つ髪が爆発的に伸び、背中を伝って腰のあたりまで生き物のように広がった。
華奢だった四肢はしなやかで強靭な大人の女性の五体へと成長、170cmを超え、幼かった胸元は豊潤な膨らみを湛え、細く引き締まった美しいくびれが露わになる。
もともとのワンピースも肉体の成長とともに形を変え、広がる。
純真無垢な少女から、戦場に君臨する戦士へ。
その美しくも鋭利な碧の瞳が、柊を貫くサソリを冷酷に射抜く。
「プルの、ますたぁから……」
大人の艶を帯びた、しかしどこか幼い声が響く。
「離れろ!!」
特殊眷属契約【血の盟約】
自身が本来使役できる存在を眷属にする場合に発動できる特殊契約
その効果はマスターとの間とのつながりをより強固とし、魔力が十分ならばマスター側から眷属側のスキルを発動すること、またその逆も可能。
さらに、通常の眷属化は好感度を10%上昇させるが、血の盟約の場合は好感度がさらに追加で10%、つまり合計20%上昇する。




