第五話 前略プロフィール
放課後。
ファミレス。
窓際の席。
ドリンクバー。
ポテト。
制服姿の中学生たち。
夏休み前の浮ついた空気。
「ねぇ聞いて!」
菜摘がテーブルへ身を乗り出す。
「前略変えたんだけど!」
「あーまた?」
七海が笑う。
「お前しょっちゅう変えてるよな」
「だって好きな人欄変わったし!」
「うわ最低」
女子たちが盛り上がる。
湊はその会話を聞きながら、少し笑ってしまう。
懐かしい。
前略プロフィール。
略して“前略”。
好きな食べ物。
好きな音楽。
恋愛観。
全部書く、当時の文化。
「藤沢くん前略やってたよね?」
七海が聞いてくる。
「……まぁ」
「うわ絶対黒歴史あるじゃん」
「やめろ」
菜摘がニヤニヤする。
「湊のプロフィール超暗そう」
「好きな映画とかめっちゃ書いてそう」
「実際書いてた」
慧が即答した。
「うわ」
「キモ」
「お前らな」
笑い声。
でも。
こういうどうでもいい会話が、たまらなく懐かしかった。
◇
「そういやさー」
春斗がポテトを食べながら言う。
「今日狩り行く?」
「狩り?」
湊が聞き返す。
「モンハンだよ!」
春斗はPSPを机に置いた。
懐かしい黒いPSP。
傷だらけ。
「ティガ倒せねぇんだって!」
「お前下手すぎ」
慧が呆れる。
「双剣使えよ」
「大剣しか勝たん!」
「古」
男子たちが盛り上がる。
当時。
学校でも、ファミレスでも、公園でも。
みんなPSPを持ち歩いていた。
授業中ですら、机の下でモンハンしてた奴もいた。
「湊もやるだろ?」
「……まぁ」
「今日家来いよ!」
「徹夜狩りな!」
その言葉に。
湊の胸が少し熱くなる。
昔。
本当にこうして朝まで遊んでいた。
眠いのに笑って。
くだらないことで騒いで。
それだけで毎日が楽しかった。
◇
「藤沢くん」
澪がドリンクバーのコップを持ちながら言う。
「メール返すの遅いよね」
「……え?」
「昨日」
湊の心臓が跳ねる。
「ご、ごめん」
「別に怒ってないけど」
澪は少し笑った。
「返信考えてるのかなって思った」
図星だった。
当時。
好きな子へのメールは、本当に一文字ずつ悩んでいた。
絵文字付けるか。
冷たくないか。
送りすぎじゃないか。
今のSNSみたいに気軽じゃない。
一通一通が重かった。
「……昔から苦手なんだよ」
「メール」
「ふーん」
澪はストローを咥えながら言う。
「でも藤沢くんの文章、ちょっと好き」
その瞬間。
湊の呼吸が止まる。
「……え?」
「なんかちゃんと考えて送ってる感じするから」
ドキッとする。
昔。
こういう一言だけで、一週間くらい浮かれていた。
思い出す。
メールセンター問い合わせを何回も押してた夜。
着信音が鳴るだけで心臓が跳ねてたこと。
全部。
◇
帰り道。
夕焼け。
商店街。
自転車を押しながら歩く。
湊の隣には春斗。
後ろでは女子たちが騒いでる。
「なあ湊」
「ん?」
「映画さ」
「絶対完成させような」
その言葉に。
湊は少し黙る。
未来では。
完成しなかった。
途中で止まった。
みんなバラバラになった。
でも。
今回は。
完成させたい。
本気でそう思ってしまっている自分がいた。
「……ああ」
春斗は笑う。
「文化祭絶対成功させようぜ!」
「そしたらさ」
「俺ら、一生友達って感じしね?」
夕焼けが、街をオレンジ色に染める。
その言葉を聞いた瞬間。
湊は少しだけ笑った。
未来では叶わなかった。
でも。
それでも。
この時間が、本物だったことだけは確かだった。




