表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の向こう側  作者:
6/16

第六話 着うたフル

 夏休み初日。


 朝から蝉がうるさかった。


 窓を開けた瞬間、熱気が部屋へ流れ込んでくる。


「……夏だな」


 湊はぼんやり呟く。


 カレンダー。


 2006年7月22日。


 学生だった頃は、夏休みって永遠に続くと思っていた。


 でも実際は、一瞬で終わる。


 そのことを、今の湊だけが知っていた。


   ◇


 ピロリロリン♪


 ガラケーが鳴る。


『神谷春斗』


『今日泊まりな!!!』


『モンハンするぞ!!』


『あと映画編集!!!』


 朝からテンションがうるさい。


 湊は少し笑う。


『分かった』


 返信。


 数秒後。


『あと着うた変えたから聞け』


「なんだそれ」


 笑ってしまう。


 昔。


 着うたを設定するだけでテンションが上がっていた。


 好きなサビだけ切り取って。


 月額払ってダウンロードして。


 みんなで聞かせ合ってた。


   ◇


 昼過ぎ。


「おじゃましまーす!!」


 春斗の声が家中に響く。


「うるさ……」


 玄関を開けると。


 春斗。


 慧。


 圭介。


 七海。


 菜摘。


 全員いた。


「人数多っ!?」


「泊まりって言ったじゃん!」


「聞いてない人数が!」


 春斗は勝手にズカズカ上がっていく。


「今日ガチで徹夜だからな!」


「どうせお前最初に寝るだろ」


「寝ねぇし!」


 笑い声。


 その空気だけで、胸が熱くなる。


 昔。


 本当にこうだった。


   ◇


 湊の部屋。


 狭い。


 暑い。


 でも楽しい。


「うわ懐っ!」


 菜摘がMD棚を見る。


「めっちゃあるじゃん!」


「“夏用”って何!?」


「見るなって!」


「うわ絶対好きな曲詰めたやつじゃん!」


 七海たちが騒ぐ。


 慧はパソコン前。


「編集ソフト古……」


「時代だろ」


「Winamp入ってるし」


「消すなよ絶対」


 春斗は既にPSPを起動していた。


「狩り行くぞぉぉ!!」


「編集は?」


「あとで!」


 圭介もPSPを出す。


「ティガ行こうぜ」


「お前毎回死ぬじゃん」


「今日は本気出す」


 男子たちが騒ぎ始める。


 PSPの起動音。


 カチャカチャ鳴るボタン。


 懐かしい。


 当時。


 みんなで集まると、本当にこればかりやっていた。


   ◇


「藤沢くん」


 後ろから澪の声。


 振り返る。


 部屋の隅で、澪が映画雑誌を読んでいた。


「……なに?」


「これ」


 雑誌を見せてくる。


 映画監督特集。


「好きだったよね」


 その言葉に。


 湊の胸が少し痛くなる。


 好きだった。


 本当に。


 昔は。


「……うん」


「今も?」


 湊は少し黙る。


 未来では。


 映画のことなんて、ほとんど考えなくなっていた。


 忙しいとか。


 現実とか。


 色んな理由をつけて。


 でも。


 この時間に戻ってきてから。


 また少しずつ。


 好きだった気持ちが戻ってきている。


「……分かんない」


 正直に答える。


 澪は静かに笑った。


「でも最近、すごく楽しそうだよ」


 その言葉に。


 湊は少しだけ目を逸らした。


   ◇


 夜。


 部屋の電気を消す。


 みんな床へ転がっていた。


 扇風機。


 ぬるい風。


 PSPの光。


「なあ」


 春斗が突然言う。


「将来さ」


「みんなどうなってんだろうな」


 静かになる。


 こういう話を、中学生は突然する。


「俺プロ野球選手」


「無理」


「うるせぇ!」


 笑い声。


「七海は?」


「んー」


「普通に働いてそう」


「リアル」


「菜摘は絶対結婚早い」


「は!? なんで!?」


 また笑う。


 その中で。


 春斗が湊を見る。


「湊は絶対映画関係だろ」


 その言葉に。


 胸が強く締め付けられる。


 未来の自分は。


 もう映画なんて撮っていない。


 夢なんて、とっくに諦めている。


 でも。


 今ここで、それを言いたくなかった。


「……どうかな」


 湊は小さく笑う。


 その時。


 春斗のガラケーが鳴った。


 爆音の着うた。


「うるっさ!?」


「お前音デカすぎ!」


「カッケェだろ!」


 みんな笑う。


 そのくだらない時間が。


 どうしようもなく愛しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ