第十五話 文化祭
文化祭当日。
朝。
校門前には、生徒たちの声が溢れていた。
看板。
風船。
呼び込み。
いつもと違う制服の着崩し方。
浮ついた空気。
全部が文化祭だった。
「おはよーございまーす!!」
春斗が朝からうるさい。
「テンション高すぎだろ」
「当たり前だろ!!」
「今日上映だぞ!?」
『夏の向こう側』
文化祭の目玉扱いされていた。
理由は単純。
春斗が勝手に宣伝しまくったからだ。
「三中史上最高の青春映画だからな!!」
「お前がハードル上げんな」
慧が呆れている。
でも。
みんな少しだけ緊張していた。
◇
教室。
上映準備。
プロジェクター。
スピーカー。
暗幕。
「映像OK!」
「音声OK!」
「席足りる!?」
「知らん!」
カオスだった。
でも楽しい。
文化祭って、こういう空気だった。
「湊」
春斗が急に真面目な顔をする。
「絶対成功させような」
その言葉に。
湊は少しだけ目を細める。
未来では。
完成しなかった映画。
でも今回は違う。
ちゃんと完成した。
この夏を、ちゃんと形にできた。
「……ああ」
小さく頷く。
◇
上映開始。
教室の電気が消える。
ざわめき。
スクリーン。
そして。
映像が始まる。
河川敷。
夏空。
笑い声。
風。
放課後。
みんなが映る。
教室が、少しずつ静かになっていく。
「……」
湊は後ろから、その光景を見ていた。
生徒。
先生。
友達。
全員がスクリーンを見ている。
そこには。
確かに、自分たちの青春が映っていた。
◇
中盤。
笑いが起きる。
春斗の変顔。
圭介のミス。
菜摘の暴走。
みんな笑ってる。
でも。
終盤になるにつれて、空気が変わっていく。
夕焼け。
河川敷。
静かな音楽。
歩いていくみんなの後ろ姿。
夏の終わり。
そして。
最後の文字。
『あの頃の俺たちは、
確かにここにいた』
暗転。
終わり。
静寂。
数秒。
誰も喋らない。
そのあと。
拍手。
大きな拍手だった。
「すご……」
「普通に泣きそうなんだけど」
「エモ……」
ざわめき。
歓声。
「っしゃあああ!!」
春斗が叫ぶ。
「成功だぁぁぁ!!」
みんな笑ってる。
抱き合ってる。
七海は泣きそうになってる。
慧まで笑ってる。
その光景を見た瞬間。
湊の目から、涙が零れた。
「……っ」
完成した。
あの日。
途中で止まった青春を。
ようやく終わらせることができた。
◇
「藤沢くん」
隣。
澪だった。
「……よかったね」
湊は涙を拭う。
「うん」
「やっと、
完成した」
澪は少し不思議そうな顔をした。
「“やっと”?」
「あ……」
未来の記憶。
途中で止まった映画。
言いかけて。
やめる。
でも。
澪は追及しなかった。
ただ。
優しく笑った。
「今の藤沢くん、
すごくいい顔してる」
その言葉に。
湊は少しだけ笑う。
未来では。
もうしてなかった顔。
でも今は。
ちゃんと笑えていた。
◇
文化祭終了後。
夕方。
誰もいなくなった教室。
オレンジ色の光。
静かな風。
湊は一人、窓際に立っていた。
終わった。
文化祭。
映画。
夏。
全部。
その時。
教室の奥。
ロッカーの近くが、淡く光った。
タイムカプセル。
あの日と同じ。
「……」
湊は静かに目を閉じる。
分かっていた。
終わるんだ。
この時間は。




