第十三話 文化祭準備
夏休みが終わった。
始業式。
まだ暑い体育館。
校長の長い話。
汗。
眠気。
「だりぃ……」
春斗が後ろで呟く。
「まだ夏休みでよくね?」
「分かる」
男子たちが小声で盛り上がる。
当時。
二学期って少し特別だった。
夏が終わる寂しさと。
文化祭前の浮ついた空気。
全部混ざっていた。
◇
放課後。
二年三組。
教室は既に文化祭モードだった。
机を下げて。
段ボール。
模造紙。
ペンキ。
騒がしい。
「おい春斗!」
「それそっち運べ!」
「うるせぇ監督!」
笑い声。
女子たちは飾り付け。
男子は適当に騒いでる。
青春そのものみたいな空気だった。
「藤沢くん」
澪が後ろから覗き込んでくる。
「編集進んでる?」
「……まぁまぁ」
実際。
かなり進んでいた。
未来の記憶がある分。
編集も撮り方も、昔よりずっと上手くなっている。
でも。
それ以上に。
今の自分は、本気でこの映画を完成させたいと思っていた。
未来では。
途中で止まってしまったから。
◇
「うおー!!」
春斗が突然叫ぶ。
「文化祭成功したらさ!」
「打ち上げしようぜ!」
「また食う話?」
「当たり前だろ!」
七海たちが笑う。
その時。
菜摘が突然言った。
「ねぇ、文化祭終わったらさ」
「みんな別々になってく感じしない?」
一瞬。
教室が静かになる。
まだ14歳。
でも。
少しずつ、未来が見え始める年齢。
「受験とかあるし」
「部活も忙しくなるじゃん」
「……まぁな」
春斗が珍しく静かに言う。
湊の胸が少し苦しくなる。
未来を知っているから。
本当に。
少しずつ会わなくなっていくことを。
◇
「だからさ!」
春斗が急に笑う。
「この映画、絶対残るやつにしようぜ!」
その言葉に。
湊の呼吸が止まりそうになる。
残る。
確かに。
未来でも、自分はこの映画を忘れられなかった。
完成しなかったのに。
ずっと心に残っていた。
「……ああ」
湊は小さく頷く。
「絶対完成させよう」
その瞬間。
教室の空気が少しだけ熱を持った気がした。
◇
夕方。
視聴覚室。
暗い部屋。
パソコンの光。
編集画面。
タイムライン。
カットされた映像。
夕焼け。
河川敷。
笑うみんな。
その全部を見ながら。
湊は、ふと思う。
未来の自分は。
何を失ったんだろう。
夢?
青春?
違う。
たぶん。
“好きだった気持ち”そのものだ。
「……」
湊は静かに映像を再生する。
春斗が笑っている。
七海が走っている。
菜摘がふざけてる。
慧がカメラへピースしてる。
澪が夕焼けを見てる。
その光景を見た瞬間。
胸の奥が熱くなる。
「藤沢くん」
後ろ。
澪だった。
「……あ、ごめん」
「ううん」
澪はモニターを見る。
「このシーン好き」
夕焼け。
河川敷。
風。
「なんか、
終わりそうな感じするから」
その言葉に。
湊は少しだけ笑った。
「……俺も好き」
未来を知っているからこそ。
終わる瞬間が、一番綺麗だって分かってしまう。
◇
帰り道。
夕焼け。
少し涼しくなった風。
夏の終わりの匂い。
「なあ湊」
春斗が歩きながら言う。
「俺さ」
「この夏、一生忘れない気がする」
その言葉に。
湊は少しだけ空を見上げる。
オレンジ色の空。
遠くの踏切。
自転車の音。
「……俺も」
小さく呟く。
本当に。
一生忘れられない夏になっていた。




