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1|地球|ユナイテッドの村|イェヴァ|第四部

村はアカデミアから一時間ほどの距離にあった。美しく、整った場所で、人々はとても幸せに暮らしていた。何年も前、私たちは近くの町々とうまく共存し、良い交易関係も築いていた。だが、悪意に満ちた嘘の噂がその関係を壊し、私たちは町から追い出された。しかも、暴力まで受けた。


アカデミアは、その後、私たちに必要な物資を供給してくれた。そして人々が再び私たちを信頼するよう、できる限りのことをしてくれた。けれど、私たちが何かをしようとするたび、それを壊そうとする者たちがいた。私はまだ子どもだったが、アカデミアが重武装を使って、私たちへの嫌がらせを止めさせた日のことを覚えている。それ以来、彼らは私たちに手を出さなくなった。


アカデミアなしでは、私たちはあの場所にとどまれなかった。


そして地球のどこかの荒れ果てた土地で生き延びるのも、簡単なことではなかった。生命を支えられる場所はこの星にはほとんど残っていなかった。巨大な砂漠が惑星の大半を覆い、飲み水もほとんど存在しなかった。私は、自分たちが忘れ去られるだろうと確信していた。


私は広場の中央にある噴水まで歩いていき、浄化されたきれいな水が三メートルほどの高さまで噴き上がるのを眺めた。子どもの頃、私はそこでよく遊んだものだった。グレイが近づいてきて、私の隣に立った。


「どこへ連れて行かれるのか、もうわかったのか?」


私は彼をとても愛していた。何度も、彼が私を自分の女にしてくれたらと願った。けれど、その気持ちを口にすることはできなかった。私たちを取り巻く不安の中で、家族を持つことはあまりにも遠いものに思えた。


「まだわからない。でも、水の浄化装置を三台頼むつもりよ。私たちはそれを修理できるようにならなきゃいけないし、いまある道具と資源で新しく作れるようにもならなきゃいけない」


「それは俺がやる。水がなければ、ここを出る意味なんてない。結局は同じことだ」


「悲観的すぎるわ」


私は彼の目を見た。


「私たちは前向きな民よ。幸せに生きてきたし、これからもそうあり続けるわ」


「すまない。焦りで頭がおかしくなりそうなんだ」


彼は私の頬に触れ、まっすぐ目を見つめた。


「君にもっといい世界を与えたかった。できることは何でもすると約束する」


私は、彼にキスしてほしかった。


けれど、彼はマーリを愛していた。そしてマーリは、その愛を皆の前で隠そうとしなかった。どのみち、私にはもっと大きな家族を守る役目があった。私たちはまさにそういう存在だった。互いへの愛情と優しさで結ばれた、大きな家族だった。


「ブラウンが言ってた。セクヴェンスは本当に存在していて、私たちを見ているって」


「セクヴェンス?」


「異星人たちのことよ」


グレイは信じられないという顔をした。


「彼は言ってたわ。セクヴェンスは人間だったって。二千年以上前に、別の種族に救われた人たちだって。そして、いまも私たちを見ていると信じてる」


「そんな話に時間を使うな。俺たちは、うまくいかなかった科学実験の残り物か何かなんだろう。異星人だって? 本当にいるなら、どうしてそんな長いあいだ何の連絡もしてこない?」


「自分たちの仲間を殺したり奪ったりするような生き物と、友達になれる?」


「いや」


彼はきっぱりと答えた。


「でも、私たちは違う。そうでしょ? あなたは私を信じてくれる、グレイ?」


「君のことを信じてるのは知ってるだろう。ユナイテッドは互いを信じるんだ」


私は手を伸ばし、噴水の水に触れた。水は美しく、透明だった。まるで私たちみたいに。


「私はセクヴェンスを信じるわ」


私はその冷たい水をすくって飲んだ。


「彼らが助けてくれると思うか?」


「ブラウンはそう言ってたし、本気でそう信じてる。私はセクヴェンスにお礼を言いたいの。だって、私たちはこの物語があったからこそ存在しているんだもの」


「俺たちはここに楽園を作った。でも、楽園は永遠には続かない。感謝を伝えられたらいいな。できるなら、彼らから何かを学ぶことも」


そのとき、通信機にメッセージが届いた。アカデミアからだった。


「私たち、屈辱の砦へ送られることになったわ」


私はその場所の名前だけでも胸が沈んだ。


「南極だって? あそこは人が住める場所じゃない。千年も前から、誰も住んでいない地域だぞ」


「私たちをできるだけ遠くへ追いやりたいのよ。そうすれば安全だと考えてる。たぶん、私たちは忘れられるわ。……生き残る見込みはあるの?」


「水は多い。砦の下には巨大な洞窟もある。だが何か月ものあいだ太陽の光は見られない。地下で作物を育て、地下で家畜を飼わなきゃならない。たったひとつでも間違えたら、飢えか病気で死ぬ」


「私たちは賢いわ、グレイ。だからこそ、みんな私たちに嫉妬するんでしょう? 生き延びて、あの大陸を自分たちのものにする。もしまた誰かが私たちを苦しめるなら、そのときは胸にある愛を殺してでも、民のために復讐する。今度は備えるの」


「愛こそが、俺たちの本質だよ、イェヴァ」


「生きることも、そうよ」


「君を指導者に選んだのは正しかったな」


彼はそう言って微笑んだ。


「地下での農業、洞窟の中での家畜飼育、エネルギーのことを調べて。昔はそうして生き延びた都市もたくさんあったはずよ。それに薬も作らなきゃいけない。できることを考えて」


「老化抑制剤は?」


「誰も私たちには渡してくれないでしょう。せいぜい百年生きられればいいほうね。……それでも、生き延びるのよ」


私はグレイを強く抱きしめ、そのままでいた。そこへ子どもたちが近づいてきた。


「イェヴァ! 自転車に乗ろうよ!」


「グレイも来る?」


私は明るく尋ねた。


「また今度だ。アカデミアと連絡を取って、水の浄化装置をどう修理し、どう作るか相談しないといけない」


私は子どもたちと一緒に走り出し、自転車を取りに行った。風に触れられるあの自由な感覚が私は大好きだった。たとえ明日、人生が終わるとしても、生きている喜びだけは誰にも奪えなかった。


夜はすぐにやって来た。


家に帰ると、両親にキスをした。二人は悲しそうに笑った。そのころには、村の誰もが自分たちの行き先を知っていた。あれは、村が経験した中でいちばん悲しい夜だった。私はひどく孤独で、誰かに抱きしめられて眠りたかった。何らかの形で私を満たし、守ってくれる誰かが欲しかった。けれど私たちは少人数だったし、独身の男はグレイだけだった。しかもマーリは彼を深く愛していた。私は彼女を不幸にすることなんてできなかった。


子どもたちが大人になったとき、自分より年上の女、それも自分たちの指導者と結婚したいと思うことがあるのだろうか。そんなことまで考えてしまって、私は枕に顔を埋めた。誰にも泣き声を聞かれたくなかった。


夜も更け、泣き疲れて弱りきったころ、私は子どもの頃に自分で描いた絵を見つめた。太陽の光が美しい野原を照らし、その上で、一人の若い女が子どもたちに囲まれながら、両手を上げて太陽を迎えていた。私はその娘をじっと見つめた。そして、ひとつの名前が心に浮かんだ。


ミレナ・リーベ。


「許してください、ミレナ。でも、絶望の中にいる私は喜びを感じられません。あなたはきっと、悲しみが当たり前ではない世界に生きているのでしょう。私はまだ若い。けれど、なぜか知恵を背負わされています。だからこそ、この運命にどう向き合うかを選ぶという、こんなにつらい役目を与えられたのかもしれません。私たちは幸せな民です。ひとつに結ばれ、愛を土台に生きてきました。なのに、価値のない命のように切り捨てられるのは悲しすぎます。私たちが存在できたのは、あなたたちの民を信じた者たちがいたからです。そして、その存在に心から感謝しています。だって、あなたも知っているでしょう。私たちは一人では長く生きられなかった。あなたに、私たちを知ってほしかった。私たちが築いたものを見てほしかった。でも、たぶん私たちの時間はもう終わりです」


私は泣いていた。それでも、続けた。


「私たちは写真を撮ります。自分たちに関する記録をすべて集めて、宇宙へ送ります。あなたの惑星に届くまでには長い時間がかかるでしょう。そのころには、私たちはもういないかもしれない。でも、あなたは知るはずです。私たちが確かに存在し、幸せに生きていたことを。ありがとう」


どうして私は、あの絵の中の若い女に向かって、本当にミレナ・リーベであるかのように話しかけたのだろう。吐き出したかったのかもしれない。あるいは、彼らに見られているような気がしていたのかもしれない。


悲しみから始まったその会話は、終わるころには私の中に新しい力を残していた。私たちは、自分たちが何者だったのかを宇宙へ送るのだ。それが、私たちなりの感謝の伝え方になる。


疲れ果てた私は、涙で濡れた枕にもう一度頭を沈めた。


そして、新しい世界の夢を見た。


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