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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
第5駐屯地

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ミラクル第二皇子①



 戦未遂の直後から、内通者摘発準備が静かに始まった。


 ことは軍部トップの文官が絡む一大事。但し現時点で掴んでいるのは、第五駐屯地にいる、李一族の武官と北の国との内通を示す証拠のみ。政界には派閥がある。個人間の繋がりもある。その間を縫うように、情報を漏らさず一網打尽にするのは至難の業だった。


 十王府が放火された日、スパイの僧には「内通の証拠」が見つかったことを仲間に報せる猶予がなかった。どこから情報が漏れ、どのような情報を頼りに検問所の内通者である(ホー)が捕縛されたのかは分からないままになっている。


 まず行われたのは、第5駐屯地の李将軍を捕らえることだった。但し、内通の証拠はない。あったのは、李将軍の名が入った、国境城壁の修理しない箇所を指示した地図のみ。都から第5駐屯地へ隠かに役人と軍人が派遣された。第5駐屯地は遠い。情報が漏れ、道中や目的地で彼らが殺されるかもしれないという危険を孕んでいた。


「内通の証拠」にあった内通者の名は、検問所の取り継ぎや武器のごまかしをスムーズにするための実務的なリストに過ぎない。指示する立場の黒幕達の名はそこにはなかった。下っ端を、別件で捕らえた。吐かせる、あるいは、自宅操作を行なって証拠を見つけるとのこと。


「へ? 第二皇子が凱旋できない?」


 重要なことが水面下で進む中、国境からの凱旋部隊に、英雄である第二皇子はいなかった。体調が優れず、馬車で運ばれてくるらしい。


「やはり、殿下は私がいなかったので、ご不便だったのでしょう。戦を防ぐために敵と対峙なさったのですから、ご心労もさぞや……」


 お爺ちゃん宦官は溜息をつく。


 真実は違う。上官がこっそり教えてくれた。第二皇子は、長時間馬に乗ったため、腿の内側とお尻の皮が大変なことになっていて、馬での凱旋が不可能な状態らしい。ああ、そっか。130kmくらい馬で爆走したんだっけ。馬になんて、普段は乗らない雅な生活だもんね。そりゃ股もお尻も大惨事だよ。


 本来ならば、真っ先に宮廷へ参内して皇帝へ報告すべきところを、第二皇子は十王府に運び込まれるらしい。十王府の火事の被害は、不便ではあっても暮らせないほどではない程度だという。



 朱氏様邸での会合の際、浩宇は十王府の放火について推理した。


「直接被害を見たわけではないのですが、建物の外壁は燃えておらず、部屋の中が燃えていたとのこと。それも、いくつかの箇所に、まばらにです。そして、スパイの僧は矢を持って行ったという点から考えてみました」


 第二皇子はまだ戻っていない。部屋にいるのは朱氏様、お爺ちゃん宦官、浩宇、私。


「放火に用いたのは火矢でしょう。兵が少なく手薄とはいえ、十王府には警備の者がいました。しかし、矢であれば遠くから狙えます。まず火災による撹乱。火消しのために兵が門を開けたのに乗じて侵入。十王府には、現在、第二皇子、第四皇子、第六皇子が暮らしておられます。ご結婚なさっていることもあり、最も広い宮に第二皇子が暮らしていらっしゃるとのこと。すぐに特定できるでしょう」


 確かに。十王府には3人の皇子が暮らしているけれど、第二皇子の宮は門からして一段と(いかめ)しい。


「宮が特定できれば、回廊で分けられた最も大きな棟に殿下の寝所があると分かります。そのとき、殿下は寺にいらっしゃいました。不在と分かっています。その棟まるごと、人がいないと推測できます。次は、別棟にいる者達の目を逸らし、内通の証拠を探す邪魔をされないよう、回廊を塞ぎます」


 なるほど。話を聞きながら、浩宇は立派な犯罪者になれると確信してしまう。


「目的の棟にも火を放ったのは、近づかれないためだと思われます。しかし、重要な物が置かれていそうな場所、すなわち寝所には火を放たなかった。激しい雨が降った後でした。なので、水を含んでいた建物の外壁は火が燃え移りにくく、部屋の中へ打ち込んだ火矢による火災は建物の中で収まったのだと思います」


 私は、もう1つの燃えてはいけない物について思いを馳せていた。皇帝の密輸の証拠である帳簿。それに関しては、第二皇子の帰還を待つしかない。


 ◇


「央の国を救いくださり、申し上げる言葉もございません。誠にありがとうございます」


 第二皇子が十王府に運び込まれたのは、騎馬隊のから遅れること1週間が経ったころだった。ベッドでうつ伏せに寝転んだままの第二皇子の傍では、お爺ちゃん宦官が「おいたわしい」と嘆いている。既に、ラブリー春香妃&シェシェとは十分に再会を喜び合った後。私は、輝かしい功績を少々疑いつつも、戦が未然に防がれたことに感謝を述べた。


「瑞。火事の中、春香妃を助けてくれたんだってね。僕こそ礼を言うよ。本当にありがとう」

「もったいないお言葉でございます」


 私は、北の国境の検問所での話を聞きたくてたまらない。なんか、桃麗妃の気持ちが分かるよ。


 ちょうど朱氏様も来訪し、一同は、本人の口から、戦を未然に収めた一部始終を聞くことになった。


「まずさ、賀を捕らえさせた。で、近くの牢に連行させた」


 そして、第二皇子は、北の国が明後日侵攻してくるという驚愕の事実と、僧達が応援に来ることを伝えた。ガチムチ僧達は、ほどなくして到着。それは侵攻予定の前の晩のことだった。


 検問所は防衛戦における、最重要拠点。兵のみならず武器や火器の備えが常にある。翌朝までに、城壁の上に兵が長銃と弓を構え、不測の事態に備えた。


 侵攻の日、北の国は央の国の対応にびっくり仰天。ちなみに、堅牢な城壁があるのは央の国側だけで、北の国側には検問所周辺に申し訳程度の柵があるだけ。そのため、央の国側からは遮るものがなく、北の国の軍勢が丸見えになる。第二皇子は、城壁の上から万単位の騎馬隊を見て、心臓が縮み上がったという。


「なんかさ、城壁の上の特等席に案内されちゃって」


 脚もお尻も皮がめくれて痛いし、脚は動くのが辛いほどの筋肉痛。当然、イスを用意されても、痛くて座ることができなかった。顔は般若。そのことが功を奏し、不動のまま敵を見据える姿を「なんと勇ましい」と感心されたらしい。兵士の誰もが、命を賭して前線に立つ第二皇子に「このお方に付き従おう」と心に誓ったに違いない。騙されちゃったんだね。


「周りがみんな、僕を見るんだ。なんか言えって雰囲気で。しょうがないから、僕、検問所は開かないから帰ってってお願いしたよ」


 その告白に、お爺ちゃん宦官が「敵にお願いですと?!」と驚くと、第二皇子は言い直した。


「そりゃさ、ちゃんと『帰られよ!』って言ったよ。結構離れてて声が届くか心配だったし、短くしか言えなかったんだ」


 お爺ちゃん宦官はほっと胸を撫で下ろす。


「でも、帰ってくれなくってさ。すっごく怖いでっかい人が緩衝地帯に1人でのしのし歩いてくるんだよ。近くまで来てくれるのかなって待ってたんだけど、ちょうど北の国と央の国の真ん中辺りで立ち止まってんの」


 第二皇子は隣にいた軍の指揮官に「行け」と命じた。しかし、、、


「指揮官が『はっ、李**行ってまいります』ってゆーじゃん。姓が李って」


 内通の親玉と推測される軍部のトップは李一族の人間。李という姓は12、3人に1人という割合で存在する、ごくありふれた名前ではある。第二皇子は葛藤した。李、李かぁ。まさかね。でも、万が一、相手と交渉すると言いながら、門を開けて戻る瞬間、周りの兵を殺して、どーぞって北の国を通したらどうしよう──と最悪の事態を考えてしまった。「チェンジ」と言ってしまいたかった。


「『待て』って止めたんだよ」


 第二皇子は『待て、北の国の言葉は分かるか?』と確認しつつ、とにかく李ではない他の人にしようと目論んだ。しかーし。


「みんな、僕が行くと思ったんだよ」


 周りの兵士達は皆、第二皇子にきらっきらの期待の目を向けた。「さすがは殿下」「第二皇子様はなんと素晴らしい」「殿下」「殿下」となってしまった。第二皇子は、ただただ泣きたかったそうな。仕方なく、筋肉痛に鞭打って緩衝地帯を歩いて行った。後に軍で聞いた話によれば、このときの歩き方は非常にゆっくりと大地を踏み締め、威風堂々としていたとのこと。


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