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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
第5駐屯地

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52/61

たった一人で墓暴き



 眼下には一面の緑が広がる。私は馬に跨ったまま山々を望む。遠くには第5駐屯地。その手前には、途切れながら続く、長い長い城壁が見える。途切れているのは、険しい地形によって工事が困難な場所や城壁が古さによって崩れた部分。大自然に不釣り合いな人工物は、央の国の恐怖と血税と過酷な労働の賜物。


 都を出た私は馬で北上し、都から最も近い検問所へ向かった。そこで馬を預け、行商の女として北の国へ入った。北の国の女性は大柄なので、長身の私は紛れやすい。入国して即、足腰が丈夫な北の国の馬を2頭購入した。北の国の軍を真似て1頭は替え馬。これで速く移動できる。1人で3頭から5頭引き連れての北の国の軍には、到底及ばないけれど。


 愛馬に名前をつけた。


「ボル、サラン、着いたよ」


 央の国側には第5駐屯地があるので、人目についてしまう。平時の今、北の国側に軍が常駐するシステムはない。もともと騎馬民族は定住する習慣がないから、たまたま国境近くで放牧していた人が異変を知らせる。移動する習慣の民に紛れ、私は怪しまれることなく第5駐屯地近くまで来ることができた。


「あはは。ごはんだらけの場所探そう」


 馬の餌になる草はこの季節、どこにでもある。私の旅での食も、とても充実。出会った遊牧民は親切で、小麦と乳製品や肉を分けてくれたし、自分で鳥を射止めて食べたりする。


「ボル、サラン、これ、分かる?」


 焼いた鳥を食べながら、馬に、おじさんと筆談したときの絵を見せる。国境を跨ぐ1本の線。浩宇は川ではないかと言った。


「真っ直ぐな川、なさそうなんだよね」


 ただ、この季節は木々が鬱蒼と生い茂っているから、小さな川は見えないだろう。山だらけの中から、どうやって線を引かれた山を特定するか、考えあぐねいていた。


 再び、第5駐屯地からは見えない、木々の間から山を見た。第二皇子が捕えられていたテント群があった場所、拐われた際に央の国が陣を組んだ場所、第二皇子の隊がいた東の山の麓と目で辿る。


「東の山か」


 東の山から急襲され、第二皇子は北の国に捕えられた。その山は央の国の領域にある。敵陣営の食糧庫と武器庫を爆破した後、あの山の中の獣道を使った。


「ってことは、あの城壁と城壁の途切れた部分を通ったってこと」


 もちろん、その道は直線じゃない。けれど、おじさんが描いたように、国境を跨いでいる。


 翌朝、日が昇るころに、その道をきのこを探している(てい)で歩いてみた。実際、生えている。時折、馬から降り、採ったきのこをカゴに入れながら山の中を歩く。万が一駐屯地の人に出会ったら、北の国の言葉でまくしたてよう。女だからきっと許してくれる。


 恐らく第二皇子が足を滑らせたと思われる場所を見つけた。


 急な山の斜面。なるほど。一見獣道が続いているけれど、1箇所、抉れている。最初に通る者は気づかないだろう。いきなり馬がバランスを崩せば落馬してしまう。


 ころころころ


 うっかりカゴを傾け、きのこが全部零れた。きのこがなければ言い訳しづらい。今は明るく、足場を確認できる。


「ボル、サラン、ちょっと降りてくるね」


 地面が抉れた部分から少し離れた場所から斜面を降り、きのこを拾う。さらさらと風が木々を揺らす。都よりも乾いた気持ちのいい風に呼ばれるように辺りを見回した。木々の向こうに何かが見えた。石? 葉の緑と木の茶色の中、白に近いグレーが妙に残像を残す。気になって行ってみた。


「お墓」


 それは石を積み上げただけの墓だった。積み上げられた墓標は8つ。8人。穴を掘って死者を埋め、石を積んだだけの墓標。貧しい人だったのだろうか。それとも遊牧民や戦死者だろうか。手を合わせていこう。


 !

 違う。墓じゃない。


 国境を越えて迷い込んだとしても、遊牧民じゃない。彼らは墓を持たない。戦の犠牲者でもない。戦死者は、まとめて埋葬する。8人もいれば、8つも墓を造らない。仮に8回戦があったとして、この場所は不自然。貧しい人という線も消える。なぜなら駐屯地しかない場所だから。仮に住んでいる人がいても、自分の家の近くで弔うだろう。こんな危険な国境を墓地に選ばない。


「ボル、サラン、おいで」


 馬を近くへ呼んだ。何かのとき、すぐに逃げられるように。


 懐からおじさんの描いた絵を出す。南の方が(まる)が多い。南じゃなく、これは下。下の方が多く石がある。この円は積み上げてある石の絵。よく見れば、別の紙にも山と国境を跨ぐ線の絵があった。そこには8つの円があり、1つだけ円の中に×印がある。どれ。墓もどきは、岩や木を避けて造られ、きっちり並んでいない。紙を墓もどきの位置に合わせて回していく。


 ×印の墓もどきは、これ。


 石を退け、肉を刺して焼くときの棒と短刀で土を掘る。これで人骨出てきたら泣いちゃうし。


 出てきたのは数本の太い竹筒だった。1本ずつ中身を見ていく。城壁工事の計画書、騎馬隊の侵入箇所、国境の検問所いる息のかかった役人の名、央の国の都周辺の軍の駐留場所。ぶわっと鳥肌が立った。こんなものが敵国に渡ったら、国が滅びる。


「おじさん……ありがとぅ」

 

 竹筒を馬に積み、石を元通りに積み上げた。


 墓にカモフラージュするなら、1つで構わない。せいぜい3つで十分。私はふと、他の墓もどきも気になった。1つ掘った。木箱の中に長銃が何丁もあった。涙が湧く。おじさんは、誇り高い央の国の軍人だった。上官の命令に屈せず、敵国に武器を渡さなかった。そんなことをすれば、自分がどんな目に遭うか分かっていながら。


 すぐにでも都へ戻って伝えなければ。幸い、この貴重な情報は北の国に渡っていない。問題は、どうやって央の国へ入国するか。このまま進めば駐屯地に出る。最も危険なコース。


 考えた末、元来た道を選んだ。ボルとサランとは、北の国の最後の街でお別れしよう。検問所まで行けば、央の国の軍人として、しかも、皇族の命で動いているという印章を見せることでノーチェック入国できる。小麦での交流の件もあり、使節の行き来はわりとある。


 何日もかけ、都から1番近くの国境の検問所へ向かうときだった。やがて検問所という街で軍隊を見た。鎧こそ着ていないけれど、長刀を持って馬に乗り、談話する男達が集団でいる。遊牧民は家族単位で移動するのが普通。男だけの集団と長刀は、即、戦を意味する。


「おい、そこの女」


 その中の1人に呼び止められ、ぎくりとする。


「はい」


 心拍数が跳ね上がったけれど、かろうじて声は震えなかった。


「薬草はあるか?」

「はい。どのような」

「熊胆とキハダとヨモギがあれば、くれ」

「あります。体に気をつけてください」


 解熱、殺菌、止血に使える3つを渡す。「どこでいつからどうして戦ですか?」と尋ねたいところをぐっと(こら)える。暇なのか、他の男達まで寄ってきた。


「まったく。央の国は不誠実だよな。小麦の量を誤魔化すなんて」

「君、綺麗だね」

「誤魔化したのはどーせ、官僚や役人だろ」

「戦終わったら、オレの嫁にならない?」

「明後日まで、人が集まってくるから、ここら辺は儲かるぞ」

「央の国なんて、さくっとやっつけてくるから、ここで待っててよ」


 央の国をやっつけるなら、向かうのは都。明後日以降。小麦の量を誤魔化されたから。


 急げ。央の国が危ない!


 走った。走りながら考える。時間がどれだけあるのか。ここから国境まで数時間、国境から都まで寝ずに走って1日半、軍の司令部に情報が上り、戦の準備をして出陣するまでに1日か2日、軍が歩兵と共に都から国境へ進軍するには──1週間。その前に都を封鎖したい。


 慎重に。検問所でノーチェックになる皇族の命であるという印章は、央の国へ入国するときに有効なだけ。央の国と小麦のことで揉めている今、皇族の命などと言えば、北の国からの出国のときに捕えられる可能性がある。国境の検問所は、すでに民間人の行き来を止めているかもしれない。その場合、北の国の商人と言えば出してもらえない。じゃあ、央の国の商人だと言えば?


 掘り出した書類が入っている数本の竹筒の中に、乾燥した薬草を詰め、奥が見えないようにした。皇族の命である印章は、下着の中、胸の間に忍ばせる。


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