表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
第5駐屯地

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/61

皇后様のミッション

 明確な説明は受けなかった。けれど、皇帝には公費で動いている禁軍以外に私軍を持っていると分かった。おじさんを治療した寺は武装している。


「第一側室様一族縁の寺は、他にもあるのですか?」


 もう少しオブラート(?)に包んだ言い方をしたかったけれど、思いつかない。


 第二皇子は、2つの地名を言った。都の城壁の北に1つ、以前の都の近くに1つ。


 以前の都は向こう岸が煙るほど遠い大きな川の南にあった。2つ目の地名は、その対岸になる。つまり、豊かな南が力を持って都に攻め入ろうとする企てを素早く刈り取ることができる場所。


 なるほど。おじさんを治療した寺で海からの異国の敵に備え、都の北で北の国の騎馬民族来襲に備え、遠く南にある寺で内紛に備えている。皇帝がいかに第一側室一族とガッチガチにタッグを組んでいるかが想像できる。


 蝋燭の灯りが静かに、ただ4人の肌を黄色く照らす。


 皇帝は、美しいというだけで第一側室を寵愛しているわけではなさそう。第一側室の方が、銀の利権を目的に軍備を差し出したかもしれない。もっと前からの結びつきの可能性だってある。不測の事態に備えているとは。さすが帝国のトップ。


 ただそれでも、央の国の一軍人として、皇帝自らが官僚を抑えこみ、禁軍を強化して欲しいと切に願う。


 会議終盤、浩宇が言いにくそうに進言した。


「第5駐屯地を調べることは急務かもしれませんが、瑞が蹴球大会で護衛をすることが決まっております。昨年、刺客を取り押さえたので、任務から外れることは難しいかと」


 そーじゃん。蹴球(サッカー)大会があるじゃん。


 ◇


 とっくに花の季節を過ぎた桃の木はすっかり葉で覆われ、さらさらと風に揺れている。庭に置かれた陶器のテーブルとイスでもてなされる私は、3段タワーのお菓子の皿に面食らっていた。


「瑞、アフタヌーンティーよ」


 非番の私は、第一皇子の正室、桃麗妃に呼び出されていた。一介のヒラ軍人、高貴な方の誘いなど断れるはずもない。央の国の皇族は、大抵、イスに座っていて、面会する者はその前で立ったまま要件を述べるのが通例。しかし、桃麗妃は今回も私を円卓に着かせる。


「見事でございます」


 おおかた、推しである第二皇子の話を聞かせろってことだろう。私が海賊軍の本拠地へ第二皇子に同行したことは、公になっている。


「ね。素敵よね。異国のオヤツの食べ方ですって。どうぞ。それでね、聞かせてちょうだい。海賊軍の拠点に行ったときの推しの話を。私、瑞を待ってたの。遅いんだもの」


 ぎっくーん


 心臓に悪い。確かに私だけ2週間、他の者達より遅れて都へ帰った。そのことは伏せられている。桃麗妃の夫は第一皇子。第一皇子の母親は皇后様。皇后様は軍部のトップで第5駐屯地と絡んでいる、おじさんを探しているかもしれない人達。いったいどこから情報が。


「不本意だけれど、朱氏に文で聞いたわ。そしたら婦人的な不調って。私もね、アレ、腰が痛くて辛いときがあるの。はい、お薬」


 朱氏様、何言ってくれたの?! 一応男性にそんなことを言われて、ちょっと不快。


 桃麗妃から美しい布の巾着を受け取った。中には白い紙で梱包された薬が入っている。


「お気遣い、ありがとうございます」

「大丈夫? 大変だったわね。そういう辛いとき、軍で体を休めることはできるの?」

「いえ。女性は少ないので、そういうわけにはいきません」

「ならば、ずっと春香妃の護衛がいいわね。もし異動を命じられたら、私がとりなしてあげるわ。皇后様は軍部に顔が効くから」

「勿体ないお言葉でございます」


 あれ? 私は、第一側室様んとこの嫁の護衛をしているわけで、その私のことを皇后様にお願いするってできるの? 皇后様と第一側室って、仲悪いんじゃないの? めちゃくちゃバトってるイメージなんだけど。なんてったって後宮。


「義母である皇后様一族は、たぶん、央の国で最も権力があるから」


 桃麗妃は艶然と微笑む。


「軍部のトップや文官だけでなく、武官にも皇后様一族の方々がいらっしゃいますし、他の部にも官僚がいらっしゃると聞いております」

「怖いわよね。夫すら駒に見えてしまうわ」

「怖い方なのですか?」


 ちょっと興味。


「ううん。私にはすっごく優しい。ただね、皇后様は背負っているものが大きすぎるの。だから、非情にならなきゃいけないときがあるのだと思う。きっとそれだけ」


 以前、第二皇子が語っていた。皇后様は、央の国に残った北の国の民族の代表として、威信をかけて皇帝に嫁いだ。皇后様の一族が力を持っているおかげで、央の国に残った北の国の民族は肩身の狭い思いをしなくて済んでいる。


「非情とは?」


 なんとなく、後宮でのバトルロワイヤルのことだろうと想像できるのに、尋ねてしまった。


「一族から、何がなんでも男の子を産むように言われたそうよ。皇帝陛下の第一子を産んだのが自分で、しかも男の子だったとき、神様に泣いて感謝したと仰っているわ。第一皇子は、自分や他の者の命を救ってくれたと」


 ん?


「それくらいのお覚悟だったのですね」

「あら、瑞。国母の代わりなんて他にもいるということよ」


 言っちゃダメなやつ。


「聞かなかったことに致します」


 皇后様一族の目的は、一族から第一皇子を出すこと。第一皇子は皇帝になる。

 

 もしも皇后様の息子が何番目かの皇子だったら、先に生まれた皇子が殺された。仮に皇后様が皇子を産まなかったら、皇后様は殺され、別の女性が一族から嫁ぎ、皇子を産む役割を果たしていた。


「私の夫のもとにも、やがて、一族から側室が嫁いでくるのでしょう。もし私に、その人より先に男の子が産まれていたらと想像すると、ぞっとしちゃう」

「何を仰るのですか」


 もう怖いからやめて。


「でもね。そういった話を私に聞かせてくださる優しさがあるのですよ」

「……」


 それって、優しさ?


「聞いていれば、覚悟も対策もできます」

「対策ですか?」


 桃麗妃は、3段タワーからピンク色の胡麻団子のお皿を手に取り、お茶で口を湿らせてから話し始める。


「ええ。そうね、もしも私に男の子がいて、あの一族から産む気満々女子が嫁いできたら。なんとかして、息子を逃すわ。死んだことにするとか。自分も廃妃になるようなことをしでかしてみるとか」

「そのようなことができるのですか?」

「あら、後宮なんて治外法権。権力さえ手に入れれば、なんてもありよ。今考えている場合というのは、私が第一皇子を産んでいるって前提だから、1番権力を持っているの。それに、正室なのよ」


 強い。強すぎる。でもって、後宮怖過ぎ。


「立派なお覚悟でございます。きっと第一皇子様も協力してくださることでしょう」

「まさか。知らせるわけないじゃない。なんのための対策」


 会話しながら、頭の中では別の思いがぐるぐると渦巻いていた。皇后様は前もって自分がどのような存在であるかを知らしめる人。もしも第一側室が皇后様から、一族の命懸けのミッションを聞かされていたら。きっと、皇后様より後に男の子を産みたい。たとえ、真実は夜明け前に産まれていたとしても、皇后様の息子が午前中に生まれたなら、自分の息子は午後生まれたことにするだろう。


「第一皇子様も皇后様のようにお優しい方なのでしょうね。文武に優れ人柄も素晴らしいと評判でございます」


 私は「お優しい」の辺りで自然に首を傾げてしまう。すると、桃麗妃は珍しく惚気た。


「そーね。ちょっと気が弱いけれど、そこは私がカバーするわ。中身は私にぴったりなのかも。でもね、いくら中身だけ好きになりたくても外見がついてきちゃうのよね」

「街で見た絵師の肖像画は見目麗しい美男子でございました」

「そりゃそうよ。美男子に描かなきゃ首をはねられる」


 そんなこと言われたら、実物を見たくなるじゃん。


「それより、瑞。ね、ね、第二皇子様のご活躍を話して。片方の義手が銃になってる海賊とやりあったの? 一網打尽にして海賊軍を召し抱えたの? 七つの海を手中に収めたのね!」


 勘違いであっても優しくされると(ほだ)される。アフタヌーンティーと生理痛の薬。私は、第二皇子が海賊軍のトップ、深海を跪かせて酒を注いだ話をした。桃麗妃は両手を前で組み合わせ乙女ポーズでうっとりと耳を傾けていた。


「尊い……。はぁ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ