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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
第5駐屯地

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お小遣いで何してる

 


 報告会第2弾のテーマはおじさん。


 私はおじさんと交わしたジェスチャーを再現しながら、報告した。


 言葉による伝達が困難なおじさんの、央の国に描いた×印にはインパクトがあった。


(てい)氏は命を賭けてまで伝えようとなさいました。理解できないことが歯痒くてなりません。北の国からの侵攻に関することであること、第五駐屯地の近くの山に関することというところまでは分かったのですが。何しろ、山しかない場所です。せめてどの山か分かればよいのですが。それでも、そこが何なのか、さっぱり分かりません」


 おじさんの山に1本真っ直ぐな短い線を引いた絵を見せた。


「どの山か尋ねると、丁氏はこの線を引きました。まるで山を分割するかのような」


 ただ、線は山の頂上付近ではない。東西に走る北の国との国境線の上を南北に跨いでいる。


「川でしょうか?」


 浩宇が言った。


 川。ありえる。場所的に南北に流れている川は少ないだろう。央の国の川は、全体的に西の方から東の海へ流れている。そして、第五駐屯地辺りの山岳地帯では、山の谷底をうねうねと蛇行して流れている。そんな中に、北の国と央の国を繋ぐように流れる川があれば、珍しいから目印になる。


「この、(まる)がいっぱい固まってあるのはなんだろう。砦? 武器庫? それも変だよね。山しかない場所。んー、南の方がいっぱいある。戦のときの兵士の配置ともまた違っていそうな」


 第二皇子は、北の国境、第5駐屯地ということから戦を連想していた。


「本人は命が危ないので、そこには行けないということです」


 私はおじさんのジェスチャーから読み取ったことを伝えた。


 第二皇子は眉をハの字にして心配する。


「丁氏は今、どこにいるんだろうね。寺にいればいいものを。あの寺で僧になればよかったのに」


 確かに。どう見てもガチムチ僧達は傭兵だった。おじさんなら、重用されると思う。


 李氏様は閉じた扇子を顎に当て、沈思黙考。ややあって、口を開いた。


(ルイ)様、調べられるか?」

「はい。ぜひ行かせてください」

(ワン)先生や浩宇のようなタイプで動ける者がいればよいのだが」


 めっちゃ役不足って思われてる、私。


「がんばります」


 王先生を巻き込むことはできない。本人が線を引いている。それに、巻き込もうにも皇帝のお気に入り。遠く北の国境へなど連れ出せない。浩宇は官僚の新米。ガチガチの組織の中で動けるはずもない。


「瑞様、休暇なしですまない。行ってくれ」

「はい」


 海賊軍の本拠地へ行った軍人達は、皇帝からじきじきに報奨金を貰った後、2週間の長期休暇を与えられた。けれど私は、おじさんと寺にいて、2週間が終わる1日前に帰った。事務手続きや報酬の受け取りに1日かかり、ご褒美休暇が消えたまま。残念だけれど慣れている。駐屯地や戦場にいれば休暇なんて実質ナシ。交代制で1日置きに休暇がある護衛の今、休暇に不平など全くない。


 浩宇が不安気な瞳を私に向ける。心配しないでって意味を込めて、他の人に気づかれないよう微笑みを返した。


 話し合いのテーマが移り、第二皇子が皇帝の反応を報告する。


「僕はね、父上に会うのが怖かったんだよ。皇帝陛下の船を見つけちゃったわけだから。なのにそれに関しては、軍の者達に緘口令を敷いていた」


 朱氏様は、密輸船とその乗組員を取り返したことが皇帝の耳に入ることを、自然に任せ、向こうの出方を待つと決断した。


「朱氏殿は人が悪い。沈黙されるほど不気味なことはありません」


 お爺ちゃん宦官は小さく首を横に振る。


「父上の耳に届いたようだよ。自分が杖刑をうけねばって笑っていらっしゃった」


 第二皇子は、皇帝が銀のことについて「こっそり渡せ」と言ったことについては伏せた。不正嫌いの朱氏様がいたからかもしれない。


 お爺ちゃん宦官は涙する。


「殿下。皇帝陛下とかようなジョークを言い合うなど、そこまでの存在に上り詰められたのですね。私はいつ死んでもかまいません」


 第二皇子の「また言ってる」と笑う様子を見ながら、私は、深海魚の「小遣い帳を持たされたガキより悲惨」だという言葉を思い出した。


「質問してよろしいでしょうか。あまりに不敬なのですが、皇帝陛下は自身がお決めになった法を冒してまで密輸をするほど、お金に困っていらっしゃるのでしょうか」


 一瞬その場が静まり返る。マズい。不敬過ぎた。


「すみませんっ。今の発言はなかったことに」


 大慌てで取り消すと、第二皇子が答える。


「困ってるよ。例えば、宮廷からの秘密の脱出ルートがあるとしよう。そこをメンテナンスしたいとする。公費を使えない。或いは、命を狙われるから影武者を増やそうとする。他にも、与えられている禁軍(皇帝の軍)を増強したいとする。極秘に行いたいことは、公費を使えない。税は国のために使うもの。何より、極秘じゃなくなる」


 思わず言ってしまった。


「あんなにでっかい宮殿に住んで、後宮を女の人でいっぱいにして、豪華な服着てるのに?」


 あ、敬語、全部忘れた。「瑞」と浩宇が隣の席から私をつつく。


 第二皇子はノンノンノンと人差し指をメトロノームのように動かす。これ、第一側室もやってた。親子〜。


「豪華な宮殿は威厳を見せつけて権力を誇示するため。力を見せつけて他から倒そうなんて思われないように。後宮に妃がいっぱいいるのは、民族や政権のバランスのために婚姻関係を持つから。それに、豪華な服でも着てなければ、ただのおじさんだからね。分かりやすくしてるだけだよ」


 マジか。


「ぅおっほん」とわざとらしい咳払いの後、お爺ちゃん宦官が(たしな)める。


「殿下の良いところは、素直なところですのに。そのような斜に構えた見方はらしくありません」

「はーい」


 第二皇子は可愛らしく返事をした。


 質問に答えてもらえると分かった私は調子に乗ってしまった。


「では、もう1ついいでしょうか。皇帝陛下は何に大金を注いでおられるのでしょう。先ほど殿下が仰った、極秘の脱出ルートのメンテ、影武者、禁軍の強化ですか?」


 第二皇子は大急ぎで否定する。


「例えばの話だよ。脱出ルートは都市伝説だし、影武者なんて公式にいる。禁軍は今や皇帝陛下直属とは言い難──」

「殿下。」


 禁軍の実態に触れようとした途端、お爺ちゃん宦官のストップが入った。


 禁軍が精鋭部隊だったのは、遥昔。今では儀式を彩る形式的な軍隊になってしまった。軍部の実働部隊、武官が精鋭をリストアップし、禁軍へ異動させようとしたことがある。それは、軍部上層部である事務方、文官に阻まれた。央の国は武官よりも文官の方が遥に権力を持つ。禁軍に当てられた経費は、当然のように上層部があの手この手で自分達の懐へ入れている。


 儀式で見る禁軍の鎧はかっこいい。とても強そうに見える。平時の今はそれでいい。


「そうですね。真の禁軍は、必要だと思います。北の城壁の1番近くを破られたら、1日で都に敵が来られるのですから」


 私は本音を零してしまった。


 長い長い城壁が北の国境にある。城壁の都に1番近い場所から、騎兵隊なら1日で都に到達する。北の国の騎馬隊は、替えの馬を引き連れて爆速進軍する。都は、広大な央の国の極端に北にある。


 央の国になってから遷都が行われた。前の都は、位置的に央の国の真ん中に近い海よりで、農作物がざっくざく採れる豊かな場所だった。遷都の理由は2つ。1つは、その代の皇帝がもともと現在の都の地域を治めていたから。もう1つは、北の国対策のため。北の国から攻められたとき、すぐに報告が届き、出陣の指示を出せる。ただ、即対応できることと同時に、国境を突破されれば、敵は央の国の中枢に手が届いてしまう結果となった。


 軍部の実働部隊においては、禁軍強化は急務と言われている。文官に阻まれ続けて諦めている状態。


 お爺ちゃん宦官が私を見た。


「瑞は見たであろう。屈強な僧らを。あの寺だけではない」


 !


「第一側室様一族の寺というだけではなかったのですね」


 だったら皇帝は、密輸のように爆益の副業が必要になる。


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