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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
海賊軍から銀取物語

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航海士の針仕事補佐

読んでくださって、ありがとうございます。とても励みになっております。

「癖ありそうな深海魚」を「航海士の針仕事補佐」と「癖ありそうな深海魚」に変更しました。

瑞が水羅盤の針を養針する場面を追加しました。



 波が砕け、白く散る。その向こうに望む海賊軍の本拠地は、朝焼けに燃えているようだった。


 海賊軍トップの深海魚と呼ばれる男。彼は、3つの拠点を使い分けていた。主に西欧との取引を行う南の島の港。央の国からの密輸品や略奪した品を銀に変える東の島国の貿易港、そして、これから上陸する央の国から近い島。男はこれらを足掛かりに、巨万の富を築いているという。


 深海魚との仲介をする商人の船には、商人や船を扱う乗組員の他に、第二皇子、朱氏様、お爺ちゃん宦官が乗り込んでいた。そこに軍人10名と私が加わる。商人は意外にも、三日月港で第二皇子が捕えた(ことになっている)者だった。商人は私の顔を見て震え上がった。


「な、な、な」


 私は軍人が並ぶ最後尾で、口の前に人差し指を立てて見せた。裏稼業に手を染めていた彼は、流石に口が固かった。


 航海中、上官から指示が出た。船の操作を覚えること。


 海賊の船であっても別の海賊に襲われる可能性があるほど危険な海域。ましてや商船。他にも、遭難、船を操る船員達の事故、病での欠員が考えられる。不測の事態に備えろと言われた。


「たとえ何が起ころうと、最後の1人となっても殿下をお守りしなければならない。できる限り、乗組員に協力して船の操作を叩き込め」

「「「「はいっ」」」」

「邪魔はするな。航海の邪魔にならないよう、見学し、さりげなく学べ」

「「「「はいっ」」」」


 乗船すれば、第二皇子の護衛の仕事は10人も不要。皆、各々、船員達の仕事を手伝った。


 帆を張るタイミング、錨の操作、どれも数日で覚えられるものではない。その中でも航海士は最難関。誰も近づこうともしなかった。見るからに(むず)そう。まず、バリバリのブルーカラーである軍人から見ると、頭を使うホワイトカラー。ご遠慮したい。ここは武科挙を合格している上官や武家出身の軍人に任せよう。


(ルイ)、行け」


 1番下っ端だから押し付けられた。皇族の警護ということもあって、他の軍人は役職付き。


 航海士の部屋は船の聖域だった。水羅盤(機能は羅針盤)があり、その中心の水を湛えたところに、長さ5cm程の縫い針が浮いている。針が正確に方位を指し示すよう、金属類の持ち込み禁止だった。


「失礼します」

「おやおや。綺麗な兄さんだね」


 海の(おとこ)なのに荒っぽくない。少なくとも第一印象は。まあ、この人だって、海賊に襲われるとなったら刀や手榴弾で戦うのだろうけれど。


「刀は外した?」

「はい。見学させてください。お手伝いできることがあれば、お申し付けください」

「大変だね、軍人も」


 話の分かる航海士だった。短期間で覚えられることがなくても、上からの命令があるので何もしない訳にはいかない。その辺りを汲んでくれた。


「じゃあ、養針やってもらおっかな」


 水羅盤に浮かせる針に磁気を与えるため、天然磁石で針を(こす)る。予備の針は数本。錆止めの油を拭き取り、しゅっしゅっと天然磁石で針を一定方向に擦る。ひたすら地味な作業。1本につき50〜100回擦った。擦り終わると、再び錆止めの油を塗って保管。航海士はこの作業を1日に何度もするものらしい。


 針が正しいかどうかのチェックもした。正午の太陽の方角が南。その正午を正確に計測するために、太陽の高さを測る。星の夜の方が、北極星で北が分かりやすかった。針を使うときは、油を拭き取り、中が空洞の草の枯れ茎を小さく切って針に刺す。


「ほら、あれが北斗七星だ」

「では、あの星が北極星ですね。ということは、今、船はやや東よりの北に向かっているのですね」


 方位の見方は分かった。海図はなんとなく分かったような気がする。船の速さを測ったり、そこから進んだ距離を算出するのは……できない。すいません。


 切り替えが大事。航海士の安全を守ることを考えることにした。一応、任務を(こな)す船旅だった。


 ザッバーン!


 白波が砕け散る。朝焼けに輝く岩礁と家々の瓦に目を細める。揺れられながら景色を見つめ、青い月明かりの中の浩宇(ハオユー)を思い出す。


 気まずかった。目尻に感じた柔らかいものは唇かもしれない。髪に触れられた甘やかな時間は衝撃で、私の中では事件だったから。


 浩宇は、十王府まで謝りに来た。


「ごめん。一昨日、驚かせて」

「え、あ。んと」


 困った顔の浩宇にめっちゃ動揺した。あのときも動揺したけれど──あれはパニックに近かった。


「そのままにしとくと、会えなくなりそうで。だから、今日、来た」

「家、帰ってないの?」


 浩宇は、紫の官服を着たまま。


「直で来た」

「服、似合ってる」


 なるべく先日のことをすっとばして、今まで通りに戻れたらと思った。そう願う私の意図を、浩宇は理解してくれたのだと思う。


「オレら、また、今までみたいに会える?」


 屈んで、探るように私を窺う。少し遠い知人としての距離に、物足りなさを感じてしまう。


「あったりまえじゃん」

「よかった」


 浩宇はほっとしたのか、ふぅ〜と小さく息を吐く。


「夕ご飯、一緒に食べる?」


 何度も一緒に食事をしているのに、私から誘ったのは初めてだった。


「すっげーそうしたい。でも」


 そこまで言うと、浩宇は離れた場所にいる門番に視線をやる。


 一緒にいる姿を見られるべきではない。一刻も早く離れなければ。私達が第二皇子に功績を挙げさせるべく動いていることは隠密だから。


「だね。じゃ」


 さっと浩宇から距離をとった。これでも、浩宇が私を呼び出したことは、人に知られてしまった。門番、十王府内で私を呼んだ者。今なら個人的な繋がりはなく、何かの言伝だったと言い訳できる。


「では」


 意識したのか、浩宇は硬い挨拶を返して来た。


 顔が綻んだ。次に二人で会うことを想像して、自分でも呆れるくらい、思いっきり恋する乙女だった。


 けれど、別れの挨拶は1通の文。会えない言い訳がつらつらと書かれていた。2人とも顔バレしていること、今回の私の出張は他の兵士達と一緒なので迂闊に会いに行けないこと、夜しか会えないこと、そして──夜は自分がおかしくなること。そこまで読んだとき、男らしくない様に文を燃やそうとした。思いとどまり続きを読む。


 一行空けて、夜、一日の疲れをどっさり体に感じながら、私のことを思い出すとあった。他愛もないおしゃべりをして落花生を飛ばし合い、酔い潰れて眠る姿が蘇ると。私、なにしとん。


「取っとこ。ぅふ」


 浩宇の文は、お守り代わりに持って来た。左の足首には、前回お互いに結びあったお守りの赤い紐がある。


 ザッパーン!


 風が頬を叩き、現実に引き戻される。朝焼けの中、目の前に燃えるように赤く光るのは海賊の一大拠点。


 港に入る手前で厳しい検問を受けた。大勢の男達が央の国の言葉を喋り散らしながら乗り込んでくる。


 イッケメーン! 1人、骨格からしてビジュアル異次元の男がいる。広い肩幅、長い足、口はやや大きく、きらりーんと歯が光る。歯は、やや黄色いけれど、他の黒い歯の海賊達に比べれば、大したことない。太陽と潮風で傷んだ茶色い髪を1つに束ねている。ばちん☆とウインクされた。は?


 海賊達は無礼にも、第二皇子をヒラ軍人達と同じように扱った。両手を上げさせ、身体中を触り、懐に手を突っこむ。


 最も丁重に扱われたのは、女である私。ビジュアル異次元男が私の肩に腕を掛け、「女か」と訊いた。「そうだ」と答えると、でかい口を閉じて両端をにーっと満足そうに上げた。そして、私だけ持ち物のチェックを受けなかった。一応、刀は他の者達と同じように没収された。


 上陸すると、港街があった。それこそが海賊軍の拠点、海賊の街。


 連行されたのは、その中でも一際大きな邸宅だった。


 どういうわけか、私だけ別コース。風呂に入らされ、女物の服を着ることになった。化粧まで。嫌な予感。なんだか豪華な部屋に通された。部屋にある全てのものが煌びやか。全体的に金とガラスの装飾が目にうるさい。長イスにかけてある虎の毛皮が激しく主張し、金の仏像がそれを眺めるカオスぶり。趣味悪っ。


 口のでかいイケメンが入ってきた。


「はーい。なんて名?」


 チャッラ。


「瑞です」


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