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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
海賊軍から銀取物語

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第二皇子にやらせろ

 そっか、浩宇(ハオユー)。好きな人、いるんだ。晴れて官僚になったんだから、故郷から好きな人を呼び寄せて結婚するかもしれない。都では、私と遊んでた限りは、彼女なんていなさそうだった。きっと故郷にいる。教えといてよ。傷が浅いうちに。


 大丈夫。まだ大丈夫。初めて会った日は虫刺され程度で、今は、もう少し傷になってるかもしんないけど、大丈夫。大……丈……。



「どーしたの、(ルイ)。目の下の隈。徹夜? 今日の仕事、体力もつ?」

「え? ああ」


 ぜんぜん大丈夫じゃなかった。翌朝、同僚が私の両目の下に指を添える。


 シェシェが寄ってきた。体をすり寄せてきて、足元に寝転んだ。心配そうな顔で私を見上げる。ちらちらと。何度も。泣きたいよ。


 第二皇子が春香妃のところへふらりと遊びに来た。私の顔を見るなり、気の毒そうな顔で傍に寄り、扇子の影で耳打ちする。


「瑞、女だって言えば?」

「え?」

「それだけで状況は変わるって」

「な、なんのことでしょう」


 すっとぼけた私に、第二皇子はとどめを刺した。


「……瑞って、意外と、ヘタレだったんだ」


 なんですって?! ヘタレにヘタレって言われたぁぁぁ。


 ◇


 朱氏様邸の緊急会合で、私はほぼ屍状態だった。


 私が到着したとき、まだ浩宇の姿はなかった。忙しいのだそう。先に到着していた第二皇子は、嘆いていた。


「よりにもよって、どうして僕なんだろ」


 隣ではお爺ちゃん宦官が慰める。


「大役ではございませんか。外国語に堪能な殿下だからこそ、みなさんの期待を一心に背負ってことを成せるのです」

「どうかなさったのですか?」


 尋ねてみると、とんでもないことを押し付けられていた。海賊のトップに交渉する役目だった。


「瑞、酷いと思わない? 官僚達は海賊が怖いから、僕に押し付けたんだよ。あいつら頭だけはいいんだ。真の取引きだと証明するために皇族を出すべきだとか、相手への誠意を示すには皇子が適任とか、多国籍軍だから外国語が分かる人がいればとか」


 ターゲットを決めてあった様子。確かに。


「多国籍軍ならば、央の国の言葉は通じるはずですね」


 私の言葉に、第二皇子は目と口を丸くする。


「そーじゃん」


 皇族や皇子を出したところで、相手は顔を知らない。誠意も真もへったくれもない。


 それにしても、またこんな公務が舞い込むなんて、またまた朱氏様の画策ではないだろうか。朱氏様に視線をやれば、かなり険しい顔。どうやら今回は違うらしい。


「殿下。今回も、私がご同行します」


 それをお爺ちゃん宦官が遮る。


「朱氏様、あなたはまだ先のある身。この央の国を支えてください。この老骨が参ります」

「とんでもありません。船旅は過酷。今回は三日月港までではなく、場合によっては東の島国まで行かねばなりません」

「ではなおさら。この地が殿下との今生の別れにならぬよう、最期までお側にお仕えしとうございます」


 あらら。第二皇子が海賊に殺されること前提になってるじゃん。


「せめて今年、蹴球(サッカー)大会をしてからにしたい。それまでぐだぐだ話し合ってくれないかな」


 命が危ないはずの第二皇子が今ひとつ呑気な発言をしたところへ、浩宇が帰ってきた。官僚の紫の服を着て。


「殿下、申し訳ありません」


 開口一番、浩宇は第二皇子の前にひれ伏した。


「君が謝ることじゃない。座って。僕に白羽の矢が立ったとき、君の論じた答案を読みに行った。他の答案は通常通り保管されていた。君の答案だけは、父上が持っているんだ。父上は納得されている。僕も、そうしなければ、いずれ銀が足りなくなると思う。浩宇が論じたように、央の国は好景気で、人口が増え、経済が拡大している。そして今、パエリア国の銀が来ない。この先も水銀不足で見込みがない。海賊軍団が西欧とも取引をしているというのなら、彼らを通じて銀を得るという君の案は、極めて理にかなっている」


 なんか、まともなことを喋ってる。


「では」

「ほら、つっ立ってないで座って、浩宇。誰かがやらなければいけない。そしたら、皇子って立場で他の人よりは殺されにくい僕かなって結論に達したよ」


 浩宇は再び床にひれ伏した。


「感謝いたします」

「ほらほら。官僚になったんだから、立ったままのお辞儀程度にとどめないと。官僚はプライドが高いんだよ?」


 本日の議題はこのことだったようで、会合は早々に終了した。


 帰ろうとすると、浩宇が私を呼び止める。それは、第二皇子の馬車を見送った後のこと。朱氏様はすーっと屋敷へ消えて行く。


「な、瑞」

「ん?」

「ゆっくり話す間もないな」

「浩宇、忙しそう」

「今だけ。そのうち、要領掴めると思う」

「無理しないでね」

「……」

「?」

「瑞、縁談って来る?」

「来ないよ。あーゆーのは、親の伝手(つて)じゃん」

「そっか。一緒に住んでないもんな。上官からとかは?」

「ないない。上官は武官。住む世界が違う」

「なんだ。そっか。……ょかった」

「ん?」

「ぃゃ。あ、瑞」

「?」

「送る。夜道が危なく、、、ないな」

「……」


 男設定だし。女だとしても護衛してるくらいだし、浩宇より私の方が強いよね。


「せっかく会えたから。やっぱ、送る。道で話せる」

「浩宇、明日も仕事じゃん?」

「それはお互い様」


 心臓がどっこんどっこん鳴る。普通の顔ができているだろうか。友達。男友達。どうしよう。友達として、故郷の彼女の話を聞かされたら。


 満月の夜。それでも顔さえよく見えない。この暗さがかえって心地いい。浩宇に群がる女の子達は出歩かない時間。道ゆく人はいるのに、まるで二人きりで、浩宇を独り占めしているような気がした。節くれだった指には墨が付いていて、柔らかい風に乗ってその匂いが鼻をくすぐる。


 笑いながら話す浩宇の向こうで満月が雲に隠れ、また現れる。家々や木々に隠れ、また姿を見せる。


 落ち着いた声が好き。トーンも。抑揚も。少し訛った北西地方の言葉さえ。


 十王府までの道のりがもっとずっと遠ければいいのに。


「ありがと。これ以上十王府に近づくと、尋問される」


 角を曲がれば十王府前の大通り。(いかめ)しい門の両脇には24時間体制で門番が立っている。


「だな」


 浩宇が立ち止まり、並んでいた私が一歩出た。振り向くと、青い月明かりの中、泣きそうな目がある。浩宇?


「どうしたの」

「分かんね。なんだろな」


 浩宇は、何かを(こら)えるように大きな左手で自分の口を覆う。


「職場、大変なの?」


 私の言葉に、浩宇は「それじゃない」と口を覆ったまま首を横に振った。一呼吸おいて左手が外されると、その手は私の肩にかかった髪に触れる。嬉しさに心が震えた。迷うような指先が耳の辺りに届く。それを見てはいけないと思ったのか、それをじっくり味わいたかったのか、ただどうしていいのか分からなかっただけなのか、私は静かに目を閉じた。


 微かに耳に触れた指が髪を滑っていく気配がした。夜の静寂(しじま)に自分の心臓の音が響き渡っているよう。こめかみ辺りにほわっと温かい息を感じた直後、目尻に柔らかなものと数筋の髪が触れる。耐えかねて目を開けると、浩宇は、自分の胸に私の肩が触れるほど近くにいた。


「ぁ。……あんまり綺麗で」


 その言葉に、一瞬で身体中に火がついた。ヤバい。赤い顔が見られるっ。恥ずかしさに走り出す。


「じゃ」

「ご、ごめん! 瑞」


 うわっ。うわっ。うわぁぁぁあ。何、こんな夜に全力疾走してるんだろ。


 十王府で門番に通行証を見せるとき、肩で息をしていた。門の横の小さな扉から中へ入ってへたり込む。


 もしかして、浩宇も私のこと、好きなの? あれ? 故郷の彼女は? ひょっとして、フェロモンとかってやつのせい? 私からなんか漏れてた? 好きって気持ちだったら、めちゃくちゃ漏れてると思う。だって、第二皇子も朱氏様もお爺ちゃん宦官も気づいてるくらい。待った。そーゆーのじゃなくて、あれだあれ。軍の人らがよく言ってる「恋とエロは別」って。え、じゃ、浩宇、私のこと、好きじゃないとしても、そーゆーエロい目で見てくれてるの? 嬉しい! それでも、それだけでもいい!




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