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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
海賊軍から銀取物語

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39/61

浩宇に降る縁談の山



「わんわん、わんわん」


 シェシェと戯れるラブリー春香妃は、私の癒し。この世には愛と優しさと善意と平和しかないように思えるほど輝いて見える。


 ボール拾いをしながら、数日前を思い出す。


 春風の中の華々しいパレードは、熱気に包まれていた。科挙の1、2、3位は別格扱いで、街中を馬でパレードする。人々は、浩宇の若さとイケメンぶりに大興奮だった。花やお菓子、文などがたくさん浩宇の乗る馬に飛んできていた。しかも、地方のど田舎の農民出身。名門の出でないことから、英雄扱いだった。初めて馬に乗る浩宇はへっぴり腰で、馬の高さにびびっていたけれど、女性達にとってはそれも、きゅんポイント。たちまち浩宇は時の人となった。


 彼が朱氏様邸に住んでいると知れ、出待ちする人が現れた。朱氏様は浩宇を守るために、屋敷の敷地内まで馬車を入れ、馬車に乗ったまま屋敷を出入りさせている。既に浩宇は上司から縁談を勧められ、朱氏様のところにも浩宇の縁談話がひっきりなし。私の耳には、同僚から、軍部から、侍女から噂が舞い込む。十王府から出ない侍女達まで浩宇のことを知っているなんて。


「ふぅぅ」


 ボールを持った春香(チュンシャン)妃が、小首を傾げる。


「どうしたの? 瑞、ため息なんてついて」

「大変失礼しました」

「心配事でもあるのかしら?」

「いえ」

「くーんくーんくーん」


 シェシェが心配そうに体を擦り付けてくる。もふもふしたら、地面に押し倒されてれろんれろん舐められた。強制的に笑顔にされた感じ。



 数日後、やっと朱氏様邸で、浩宇に会うことができた。


「今日は浩宇を祝おうと思い集まっていただきました。そうでもしないと、遠慮して、ここへ来ない者がおりますので」


 朱氏様はあからさまに私に視線を送ってくる。こっちは逸らすしかない。


 食事会が始まり、浩宇が報告する。


「今年の面接問題は『銀の安定供給について案を述べよ』というものでした」


 え、面接って問題があるの?


 私が塑像していた面接は、名前や生まれなどの自己紹介と「志望動機は?」のような質疑応答だった。実際は違った。皇帝が問題を発表し、朝から夕方までかけて受験者が論文を書く。それ、面接ちゃうやん。


「いつ面接するの?」


 分からないから浩宇に尋ねた。


「入室して席に着くとき、名前を呼ばれ、皇帝陛下にご挨拶する」


 ぜんぜん面接と違う。それ、顔確認。


 科挙の「面接」に関する私の誤解が解け、話が進む。進行役は朱氏様。


「科挙の面接での問題は、皇帝陛下ご自身がお考えになります。つまり、現在、皇帝陛下が最も関心のある事象です。それが、銀の安定供給というわけです。税を銀に一元化したことにより、銀が必要になった。銀不足は国家の転覆に繋がってしまいます」


 第二皇子はお爺ちゃん宦官からお酒を注がれている。


「へー。実は深刻な問題だものね。で、浩宇はどんなふうに答えたの?」

「3つの提案をしました。

 1つ、銀の国内の産出量を増やす。

 1つ、北の国の銀が流入するよう、武器以外の輸出品を定着させる。

 1つ、外国船が安全に来られるよう海賊を統制する。

 以上を論じました」


 第二皇子は「すごーい」と扇子をぱたぱた扇ぐ。私はすかさず質問した。


「海賊を討伐するのではなくて、統制?」


 すると、朱氏様の目がきらりーんと光る。


「そこですよ。恐らくは、浩宇が1位でなく、2位になってしまった原因は。しかし、皇帝陛下は浩宇の回答に、最もお心を乱されたことでしょう」


 1位→2位? 浩宇が淡々と説明を始めた。


「今、貿易は海賊に荒らされています。正規の貿易もですが、密貿易もです。どちらも我が央の国に銀を運んでくることに変わりありません。噂では、今、暴れている海賊は大船団を持ち、海賊行為と共に密貿易をしている巨大な組織で、央の国の水軍は手を焼いています。いっそ、海賊に船を取り締まる権限を与えよううという発想です。かつて三日月港が正規の港になったときと同じように」


 海を棲家とする海賊は強い。央の国の水軍は、海賊を討伐できないまま苛立ちを募らせている。


 第二皇子は天井に目をやった。


「んー。密輸か。それ、父上の地雷かも」


 いつか「絶対に触れてはいけない」って朱氏様が言ってたっけ。でも2位。300位くらいじゃなく。


「実は、皇帝陛下の船ーーと言っても隠密のーー海賊船の被害に遭ったそうです。先に、殿下が三日月港の商人を摘発しました。あのとき、三日月港内で混乱が起き、商人が対海賊用の通行証を皇帝陛下の船に渡せなかったようです。そして皇帝陛下の隠密の船は海賊の被害に遭い、船も積んでいた銀も海賊の手に渡りました。他言すれば首が飛ぶ話です」


 朱氏様は一旦そこで話を止め、鋭い目でその場にいる一人一人を確認する。そして続けた。


「このことがあり、『いっそ、海賊にその他の海賊船の取り締まりの権限を与えよう』という浩宇の意見に動揺なさったのではないかと考えられます。科挙の後、ただちに、この件について内々に話し合いが行われています」


 長らく海賊は、チート東の島国の鬼のような無敵の人達だと言われていた。けれど、水軍によれば、央の国、東の島国、南の島々、はたまた西欧の人間もいる多国籍軍なのだとか。そして、噂では、現在のトップはあらゆる言語を自由に操る、央の国出身の深海魚のように不気味な男。


 浩宇を祝うために集まったというのに、いつの間にか深刻な会議になってしまっている。これではいつもの会合と一緒。


 もし、海賊軍のトップに交渉することになったら誰が行くのかを、外交部門、軍部、法部門、財務部門が譲り合っているらしい。朱氏様は愉快そう。


「『誰だ、そんなことを言い出したのは』『自分で行け』などと言うくせに、科挙で2位だった浩宇と分かると、皆、娘や孫を嫁がせたいから、『大胆かつ合理的』と浩宇を守ろうとするらしい」


 !

 すでに娘や孫を嫁がせたい人達がいるの?


 第二皇子は興味津々。


「モテるんだってね。都中の女の子達が浩宇のこと、騒いでるんだって?」


 浩宇は眉をハの字にし、口の端を歪める。


「そちらは、もう1週間もすれば、飽きると思います。職場で、面と向かって娘や孫のことを申し込んでくる方がいらっしゃるので、そちらの方が困ります。逃げ回っています」

「モテるってどんな感じなんだろ?」


 第二皇子は不思議そうだった。世の男はモテたくてモテたくてモテたくて仕方がないと聞く(主に軍の人達)。が、第二皇子は身分的にモテなど味わえるわけがない。国が傾くほどの美しい顔だから、庶民だったらモテまくっていただろうけれど。その場にいるのは、朱氏様とお爺ちゃん宦官。どちらもモテなど超越した世界の人。なので、浩宇は矛先を私に向けた。


「モテ過ぎるときってどうしてる? 縁談はどうやって断ってる?」


 勘弁してよ。どーして片想いの相手からこんなこと訊かれなきゃいけないわけ。私は、女って安全圏だから女の子に趣味やレジャーのように騒がれているだけで、モテとは本質的に違う。縁談。。。ねーわ、そんなもん。誰が、危険極まりない副業してる軍人を嫁にしたい? 親だって、息子の嫁がそんなだったら、嫌だと思う。


「「「「……。」」」」


 浩宇以外が押し黙った。なにこれ。朱氏様は私の気持ちに気づいている。第二皇子は、たぶん。お爺ちゃん宦官も然り。でもって、全員、浩宇が私を男と勘違いしていること、私が敢えてそれを受け入れていることまで、察している。これ、もう羞恥刑じゃん。会合が夜でよかった。蝋燭の灯りなら、少しは私の赤い顔も目立たないだろう。


 妙な空気になったところで、第二皇子がアドバイスする。


「ほら、えーっと、断るときは『好きな人がいる』と言うのが相手を傷つけない定番だと、市井の書物には書かれていた」


 すると、浩宇は困った顔をした。


「そう言ったんです。そしたら、側室でもいいとか、自分の娘を正室にして好きな人を側室にすればいいとか。はー。もう、常識が全く違うのです」


 !

 浩宇って、好きな人、いるの?!


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