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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
北の国から銀取物語

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30/61

ひとときのシアワセ

「敵国の捕虜を銀山で働かせる件に関しては、和平が進んだときに国際問題になりかねないということで見送られました。官僚達が囚人を働かせることを提案したのですが、銀山の経営者側がNOと。誠実な人間しか雇わないのだそうです」


 朱氏様の言葉にお爺ちゃん宦官がうんうんと頷く。


「現在の行いが未来の禍根となってはなりません。過去によって現在、現在によって未来が作られるのは囚人も国も同じこと」


 おりこーさんになりたいって思ったけどさ、この話題、私、場違い。私が担っているのは、第二皇子が功績を上げるときのブルーカラー部門。でもって、第二皇子関係なく(こと)が進んじゃってる。ちらりと第二皇子を見れば、扇子の陰であくびを噛み殺している。あーあー、目ぇ半分しか開いてないじゃん。


 朱氏様は報告を締め括った。


「以上が現状です。ここで、殿下が北の国へ小麦をお届けになれば、輝かしい功績となりましょう」


 いきなり出てきた自分の話に、第二皇子は姿勢を正す。


「え、僕が売りに行くの?」

「売る? とんでもございません。届けて、お礼の銀をお受け取りになるのです」

「一緒じゃないか」


 うん。一緒だと思う。けれど朱氏様は断固として違うと言い張る。


「いいえ、売買ではありません。友好の証として銀を戴くのです。北の国はこの先、切実な状況になることが目に見えています。ゆえに央の国から慈悲の心で小麦を提供する。1度に運べる量は限られております。なので、3回に分けて北の国へ届けます」


 そんなにいっぱいなんだ。


「3回に分けるのは、万が一にでも戦に発展させないための対策です。手を出したら、この先小麦はあげないよと。その栄えある第1回目を殿下が華々しく行い、友好の証として銀をお受け取りになるのです」


 ちゃんと裏があった。


「ただいま、この銀の交渉を行うために外交大臣が北の国へ向かっております。根回しをする者は、すでに旅立たせました」


 北の国の国境はわりと近い。都から三日月港よりもずっと。近いと言ってもかなりの距離があるし、そこから北の国の王都までがとても遠い。順調に話が進んだところで第二皇子の出番はまだ2ヶ月以上先だろう。食糧難にぎりぎり間に合うかどうか。


「商人が直接売った方が早いのではないですか?」


 思わず質問してしまった。直接売るなら、わざわざ王都まで行って根回しする必要はない。値段も悪どく高く設定できそう。


 それに関して、朱氏様は丁寧に説明してくれた。


「商人が売った場合、国庫に入る銀は、商人の年間利益の2割。直接交渉すれば、まるっと銀が入る。もちろん、原価、輸送費など考えるとまるっととはいかないが、商人が払う税の少なくとも3倍」


 これにお爺ちゃん宦官が補足する。


「商人らは売り上げをごまかします。もっと。5倍ほどでしょう」

「そうなのですね。ありがとうございます」

「我々は北の国に銀山があると知りませんでした。なので、採掘を始めたのはせいぜいここ数年でしょう。まだ北の国に流通しているのは恐らくは銅。今なら銀を差し出すと考えられます」


 そのとき、本日影の薄かった浩宇が発言した。


「武器商人や商人は北の国で銀が採れる件を知っているのでしょうか。知っているとすれば、殿下の御公務は非常に危険だと思います。彼らは大きな利を逃すことになります。それでなくとも、三日月港の商人、アヘンタバコで儲けようとしていた商人は、殿下を未だ恨んでいるでしょう」


 浩宇は「恨んでいる」なんて温い言葉を遣った。本人目の前に「殺したがっている」など言えなかったのだと思う。言葉の意味は、朱氏様もお爺ちゃん宦官も十分理解している。私も含め、3人でじっと第二皇子に視線を送っているのに、当の第二皇子はぼへ〜っとしている。


 私って、また、北の国まで第二皇子についてくのかな? ちらちら様子を窺ったけれど、まだ先のことだからか、この件に関しての話はそこで終わりだった。


 ◇


 都の秋は美しく過ぎていく。木々が葉を赤や黄色に染め、やがて散る。


 北の国から銀山の情報が届いた。規模が大きく、純度の高い銀鉱石が採れると分かった。央の国との国境に近い場所にある鉱山が1つ、やや北にある鉱山が2つ。朱氏様邸で地図を眺めた日、国境の検問所や駐屯地の場所について話題になっていた。第二皇子は相変わらず眠そうにしていたし、私は浩宇の仕草を盗み見ていた。


 ◇


「わんわん、わんわん」


 シェシェを眺める幸せな日々。ふわっふわの尻尾をなびかせるシェシェの鳴き声は「きゃんきゃん」を卒業した。今の外見は狐っぽい。鼻のところが伸びてきて、美少年から美男子に変わりつつある感じ。ラブリー春香妃も美少女から美女に変わりつつある。可憐で美しいだけでなく利発な方。第二皇子にはマジでもったいない。


 自分の命が狙われてることにも今ひとつピンと来てないようなアホ。敵に捕えられたり、爆発の至近距離にいたり。あの様子じゃ、第二皇子はいつか本当に命を落とす。


 一応、第二皇子にはご健勝でいてほしい。だけど、思うんだよね。あんな顔だけの妓楼に通うような男と一生過ごすなら、ラブリー春香妃は未亡人でよくない?って。未亡人だと何かと地位的に困るのかもしれないけど、困るのは、春香妃じゃなくて、春香妃を輩出した一族。政治的な権力が弱まるから。困れ困れ。10歳の女の子を結婚させるような一族は落ちぶれてしまえ。


 最近の春香妃とシェシェのお気に入りの遊びは蹴球(サッカー)。美しい女の子が美しいわんこと華麗にボールを蹴る。私の役目はボール拾い。シアワセ。


 シアワセを実感したときの後、必ず、ハードな任務がやって来る。想像していた通り、私は北の国へ行く第二皇子にこっそり同行することになった。またまた同僚達に気づかれないようにしなければならない。第二皇子御一行と同じルートを、先回りして進むことになった。




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