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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
北の国から銀取物語

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29/61

とにかく銀を分捕れ

 しばらくして朱氏様が登場。挨拶に金木犀の香りを話題にし、第一側室の女心を掴む。


「お姿を拝見するより先に、(かぐわ)しい香りが風に乗って参りました。金木犀の黄金色さえ、貴妃様のお傍に寄れば色褪せて見えます。まるで光を(まと)っていらっしゃるようでございます」


 さすが。


 銀の流入が減ることに関しては、すでに把握済みだった。情報を浩宇と共有しているから当然のこと。北の国の銀に関しては、、、


「素晴らしいではありませんか。これも殿下の手柄でございます」


 と称えた。


「相変わらず口が上手いわね、朱氏。心の中では『早く言え』と呆れているでしょう。北の国に銀が見つかったことがどれほど重要か。気づいていないバカ息子を情けなく思います。朱氏、北の国から銀を分捕る方法を考えてください」

「はっ」


 あらら。「分捕る」なんて宣っちゃってる。


「朱氏のところにいる書生にも考えさせましょう」


 浩宇が頼りにされてる。でも、もう、科挙の勉強させてあげて。倍率3000倍だよ。1次は合格してるから、倍率はもっと低いのかな。でも、2次試験を受けるのは1次試験を通過した猛者ばかり。ごめんね、浩宇。私が第一側室に、ぽろっと北の国の話をしちゃったばっかりに。


「北の国への輸出を増やすにしても、あちらに、我が国の陶磁器や生糸はさほど人気がありません。北の国が欲しがるものは、土地と凍らない海でございます」


 朱氏様が進言する。


「そうね。あちらは凍てついた領土。南の方であっても寒さは厳しく、今年は5月まで霜が降りたと聞きます。不作だったことでしょう」


 5月に霜。うんうん。北の国の国境付近、確かに寒かった。


「では、北の国が欲しいものは、何よりも小麦でしょうか」


 なんとなく発言すると、第一側室はばさっと扇子を広げて大輪の牡丹のように微笑んだ。


「そーよ、(ルイ)様。小麦よ。昨年、北の国は不作。貯蔵していた備蓄分をすでに放出したはずです。今年も不作ならば、次の収穫までもちません。朱氏、今年、央の国の小麦は昨年に続き豊作よね?」

「はい。央の国では、米も小麦も豊作続きと聞き及んでおります」

「北の国。小麦が不作ということは、他の作物も不作。ならば家畜も獣も飢えて数が減っています。今は秋。北の国では穀物価格が高騰していることでしょう。朱氏、央の国の、農民達の小麦を銀と交換した商人から、小麦を大量に買いつけるのです。そして、頃合いを見計らって北の国へ売りつけましょう」


 きらりーんと第一側室の目の奥が光る。


「貿易の支払いは銀。そして、間者に北の国の銀山について調べさせましょう。産出量が多いほど危険です。我が央の国は火器大国。銀目当てに武器商人が火器を密輸しないようにしなければ」


 銀があればなんでもできる。


「はっ。この件、即、持ち帰り、検討を始めます」

「私は皇帝陛下に、国内の銀の採掘量を増やすよう、働きかけてみます」


 朱氏様の退室の後、第二皇子がやって来た。後宮と十王府は1kmほどしか離れていない。


「母君、大至急の用とはなんでしょう。馬を飛ばして参りました」


 第一側室は入り口付近に目配せし、右手を少し上げて振った。その合図で侍女達は潮が引くように下がり、パタリと扉が閉ざされる。あ、私、逃げ遅れたかも。イスに座る第一側室の前、第二皇子は荒い息をし、汗を額に浮かべて棒立ち状態。部屋を締め切ったことで無風になり、さらに汗が噴き出している。


 コツ コツ コツ コツ


 第一側室は、座ったままサイドテーブルに手を置き、指を上下させる。そのたびに、爪が規則正しく音を響かせる。そこから生まれる静かな怒気が金木犀の香りに混じり、ひたひたと部屋に広がっていく。


 金木犀の香りの中、天女は閻魔大王に変化(へんげ)した。


「私の実家の稼業を知っていますか?」


 突然の質問に、第二皇子はきょとんとする。


「はい。銀に携わっています」

「ええ。そうです。あなたは私の息子。銀に関する情報は、私に伝えるべきです」

「はい……」


 それでも第二皇子はなんのことだか分かっていない。その様子に、第一側室は(えい)じた。


北国擁銀山ペイクオヨンインシャン」(意味:北の国は銀山持ってるよー)


 やっと第二皇子は自分の失態に気づき、瞳孔を開かせる。


「申し訳ありませんっ。母上。北の国に銀山などなかったはずでした」


 第二皇子は両膝を床につき、首をすくめるように頭を下げる。


「あれからもうすぐ1年ですねぇ」


 第一側室は、まるで風流に昔を懐かしむかのような声を出す。穏やかさが不気味。


「ぎ、ぎ、ぎんざんは、きっと、新しい……」

「1年も経てば、新しくはありません。近くに多くの鉱脈が見つかっている可能性もあります」

「……」

「手にした銀で軍を増強し、こちらへ攻める計画をしている可能性もあります」

「……」


 第一側室は徐にイスから立ち上がり、跪いたままの第二皇子の周りをゆっくりと歩き始める。第一側室は閉じた扇子の精緻な細工を愛おしそうに眺め、その視線を一度も息子へ向けようとはしない。ささーっと衣擦れの音だけが描く円に沿って流れていく。


「そうなってしまったら、手遅れ。病気療養とでも偽って、あなたを銀山で働かせましょう。他の坑夫達は3交代制のホワイト。特別待遇もできるのですよ。地上に出ず飲まず食わずの交代なしも」


 グイ


 第一側室は、閉じた扇子の先で第二皇子のアゴを持ち上げた。


「母上、申し訳ありませんでした。それだけは。母上っ。何卒……」


 わ、わた、わたしも、銀山でお日様を拝めない生活にならないよう、がんばり、ます。


 ◇


 その3日後の夜、プロジェクトの集まりがあった。


 朱氏様が多忙を極め、集まりは 2日間延期されていた。浩宇によれば、夜を徹しての話し合いが行われていたとか。浩宇は宮廷に朱氏様の着替えを届けたほど。さまざまなことが動いたと推測。当初、プロジェクトの目的は、第二皇子に功績を挙げさせることだったんだけどさ。なんか、銀の流通を考える会みたいになっちゃってる。


 いつものメンバー。第二皇子、朱氏様、第二皇子お付きのお爺ちゃん宦官、浩宇、私。


「パエリア国からの銀は、期待できません。カステイラ国と停戦したとしても、すぐにパエリア国の船は来ないでしょう。外洋船は造るのに月日がかかります。そして、水銀不足。カステイラ国を介さずに東の島国と貿易できれば、かなり銀が増えるのでしょうが」


 朱氏様の言葉にお爺ちゃん宦官が答える。


「東の島国との国交は、難しいでしょう。戦も繰り返しありましたし、東の島国の海賊の件もあります。まあ、現在の海賊のトップは、央の国出身だという噂もありますが。あらゆる言語を操る狡猾な男だそうです。なんにせよ、他からの銀の入手ルートを確立するべきでしょう」


 そして朱氏様は決定事項を通達した。


「国内の銀の産出量を増やすことが決定しました。皇帝陛下の御一存です」


 第一側室がおねだりしたのかな。政治を動かす、すっごい裏ルート。


「一方、北の国へ売る小麦については、着々と購入が進んでおります。ただし、官僚達の決議はまだですので、内々にことを進めております。名目は『援助』の予定です。『食糧不足ならば金銭を取るべきではない』という意見が官僚の中に少数あるそうです。ですが、まだ食糧不足は起こっておりません。高額な礼金を入手できる見込みです。央の国での小麦の買い付けの資金は、一時的に第一側室様のご実家が全額肩代わりしてくださっています」


 ひぇ〜。すご。国家規模の小麦の買い付けを立て替え……。


「銀山の調査のため、間者が2名出発しました。あちらの民族に近い顔の者を選びましたので、北の国の人間になりすますことができるでしょう。北の国が銀を得たことによる軍事力強化の可能性を鑑み、国境の検問を厳しくし、武器商人達の密輸を防ぎます。この件については、軍の部隊が派遣されました」


 今日、軍の同僚が「なんか北の方へ突然飛ばされたやつがいる」なんて不思議がってた。実直なタイプで、なにもやらかしてないから変だって。密輸の取り締まり要員かも。辞令もないのに突然いなくなると変だよね。私も長期出張のとき、同僚から「変」「なんかやってる」って思われてるんだろうなー。


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