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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
北の国から銀取物語

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28/61

第一側室の実家稼業


 ぱたん

    ぴと


 扉が閉まるや否や、二人きりになった部屋で私に身を寄せる第一側室。本日は、三日月港での仕事の報酬を受け取りに、後宮まで出向いたところ。


「貴妃様、今日もお美しい。太陽すら隠れてしまうほどの(まばゆ)さでございます」

「瑞様こそ素敵。あなたの瞳に見つめられるだけで、全ての老若男女が心を失ってしまうわ」


 お約束のやりとりの後、第一側室はふんわりと私から離れる。陶器のような肌に薄桃色の服。優雅な物腰は天女のよう。


「瑞様。ファンクラブ公式グッズで、金木犀の匂い袋を作りました」


 部屋の中に溢れる金木犀の香りの中心に、より濃い香りの第一側室がいる。ただ、十王府では、トイレの匂い消しに飾っているから、トイレを連想してしまう。そこは黙っとこ。


「綺麗なオレンジ色ですね」

「瑞様とおそろいって(うた)い文句だから、瑞様も持ってくださいね」

「はぁ」


 第一側室は私をご贔屓(ひいき)にしてくださる、ありがたい存在なんだけど。グッズ……。


「瑞様のことを素敵って思っても、そうそうお目にかかれないじゃない。だからね、ファンが瑞様を感じるためにグッズを作るのよ。グッズを見つめながら瑞様を想像すると、幸せになれるものなのです」


 分からん。


 そして報酬を受け取った。


 三日月港で起こったことについては、第二皇子がじきじきに報告に来たらしい。第一側室には、起こったことの事実が伝わっていた。


「公には息子が華々しく活躍したことになっています。けれど、瑞様がいたから、息子は用心棒からも爆弾からも身を守ることができたのよね。それに、大手柄のわんこちゃんも、瑞様に付いて来たのですから」

「殿下が摘発する荷物を調査なさっていたからこそ、密輸を行う商人のところへ辿り着いたのだと思います」


 私は仰々しく、別視点からの事実を述べる。


 取り調べにより、商人は三日月港の大物で、かなり大がかりに密輸やアヘンに関わっていたと分かった。爆発で蔵が吹き飛んだことは相当インパクトがあったらしく、アヘンが広がる抑制になった。


「アヘンが広がらなければ、央の国の銀がむやみに流出することもないでしょう」

「はい」

「せっかくクズ紙幣が銀になったのだから、央の国の銀を守らなくては」


 第一側室は、華奢な拳を握りしめた。


「そうですね。プロジェクトメンバーの1人が、銀の流入が減ると言っていま「なんですって!」


 切り返し早っ。第一側室は、真剣な目を私に向ける。


「東の島国が貿易制限をしたそうです。これをきっかけに、少ない東の島国の貿易利権を巡って険悪になり、カスイテラ国がパエリア国の船を攻撃しました。これにより、パエリア国が央の国へ銀を運ぶ船は、減っているとのことです。そして、水銀が不足して、銀を造る量が減っているそうです。もう1つ、東の島国が貿易制限をしたので、カステイラ国が仲介して央の国に運んでいた銀も減ります」


 これで合ってるよね?


 第一側室は眉を(ひそ)めて首を横に振った。


「なんてこと。一大事じゃない。情報が伝わるのは海を渡って何ヶ月も経ってから。パエリア国の船は三日月港へ向かっていないということですね」

「三日月港に行ったとき、ガレオン船が停泊していましたが」

「それはきっと、カステイラ国に攻撃される前に祖国を出発した船です」

「そうなのですね」

「このままでは、またクズ紙幣を掴まされてしまいます。まず、国内の銀山の採掘を増やさなくては。皇帝にお話してみます」

「国内の銀山はたくさん採れるのですか?」

「ええ。けれど、我が一族に力が傾きすぎないよう、生産に制限がかけられているの」


 ?


「我が一族……?」

「私の実家です」


 !


「存じ上げませんでした」


 びっくり。第一側室のご実家って、銀山持ってる? ……。どころじゃない。確か、この国の銀の採掘から精製までを一手に行っているのは、一族経営の巨大な独占企業のはず。とんでもない大富豪。だから側室達の大量のクズ紙幣を銀に交換できたんだね。ひぇ〜。


「見つけた先祖に感謝しています」

「どのように発見されるものなのでしょう」


 私も見つけたい。


「言い伝えでは、山がきらきらと光ったと聞きます」

「光るのですね」

「ええ、場合によっては。川下に銀の粒があり、そこから辿って見つかった銀山もあります。それ以降は、その山の岩石の色や生えている植物を観察するなどし、周辺の山々を調べたようです」

「そうなのですか。銀に生える植物があれば、分かりやすいですね」


 頭の中で、風に靡く銀色の牡丹を想像してみる。あんまり綺麗じゃないね。花が重そう。頭の中で銀色の花々を支える枝がバキバキと折れ、地面に銀の花がゴトンゴトンと落ちる。


「ヘビノベッドというシダがあるのです。銀の鉱石は植物にはあまり向かないようで、銀鉱石の近くにはヘビノベッドが生えていることが多いのですよ」

「ヘビがベッドにするような草なのですね」

「なるほどって見た目なの。なかなかのネーミングセンスだと思うわ。土に栄養がなくても、あるいは植物にとって毒になるような物があっても育つのね」

「強い植物なのですね」


 どんな感じかな。ヘビのベッドだから長いよね、きっと。刀みたいな葉っぱかも。


 第一側室は、大きな紙の束を取り出す。手作りの書物なのか、一方で閉じられている。丁寧に捲られているページには、地図や、見たことのない文字や、絵などが描かれている場所がある。ちらちらと目に留まる「銀」の文字。きっと、銀についての書。


「ああ、あったわ。これがヘビノベッドが生えていた場所。地表近くに銀鉱石があるの」


 そのページには、山を上から見たらしきものなのか、方角と山頂の表記があった。ヘビノベッドが見つかった場所と銀鉱石があった部分が描かれている。

 第一側室は紙の束を閉じる。興味本位でお願いしてみた。


「さきほど、他にも地図が見えました。それは、銀山の採掘場所でしょうか」

「ええ。見る?」

「見せていただけるなら」

「どーぞ。すでに我が一族の土地ですから。これらの土地を手に入れるまでは、極秘だったのよ」


 おおーっ。地図には央の国の中央から南東部分にかけて、点々と銀山がある。これが全て第一側室ん()の物なんて。


「ということは、もしも新しく銀山を見つけたら、その人の物ということですか?」

「ノンノンノン」


 第一側室は人差し指をメトロノームのように動かす。


「……」

「いまでは銀の採掘も精錬も央の国の管理下。名目上は。だから、我が一族しかできません。要するに、既得権益です」


 税が銀に統一されて、1番いい思いをするのは、必要とされる銀屋さん、第一側室の一族じゃないだろーか。そう考えると、紙幣を官僚の屋敷に投げ込んだのは単なる腹いせよりも意味を持つ。


「銀山というのは、なんとなく同じような場所にまとまってあるのですね」

「そうね。研究者の話では、銀は大昔の火山活動や地質の状態によるもの。だから、近くには同じ条件だったところがあるのでしょう」

「たくさんあるのですね」


 いっぱい採れそうそう。


「けれど、急いだとしても、今から、三日月港から入ってくる分をカバーできるほど採掘量を増やせないわ。坑夫も職人もいきなりは増やせません」


 ふと私は漏らす。


「北の国のように、捕虜を働かせられたらいいのですが」

「瑞様、何を?」


 第一側室が目をきらりと光らせる。あれ? 私、なんか変なこといったっけ。


「北の国のように、捕虜を」


 リピート。


「どこで?」

「銀山です」

「北の国に銀山はありません」

「ですが、殿下が捕えられていたとき、北の国の陣営で敵方が話していたそうです」

「なんということでしょう。あのバカ息子、そのように大切なことを私に伝えないとは」

「……」

「それは、北の国で初めて見つかった銀山でしょう。北の国には銀山がなく、銅が流通しているのです。これはまたとない金蔓(かねづる)、、、いえ、チャンスです。誰か、朱氏を、朱氏を呼びなさいっ。息子もです」


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