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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
すべては銀のために

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19/61

銀の入り口三日月港

 暑かったはず。シェシェが私の背中にぴったりお尻をくっつけていた。くーんくーんじゃないって。


「ついてきたの?」


 話しかけてもシェシェは首を(かし)げるだけ。かわよ。いえいえ、そんなこと思ってる場合じゃない。こんなにぽてぽてとしか歩けないのに、ついてこられるわけがない。荷物の袋に入っていたのだと思う。きっとラブリー春香(チュンシャン)妃が泣いていらっしゃる。


 大急ぎで検問所にシェシェを連れて行った。交通の要所だから都への便があるはず。


「この子を都の十王府に届けてほしいのですが」

「はあ?」

「荷物に紛れ込んでいたんです。この子、十王府で飼われている子なんです」


 頼んだけれど、見た目からして舶来の子犬。


「この犬って、うっかり逃したりしたら、首が飛ぶやつじゃない?」


 検問所の役人が本気で嫌がる。馬を変えるとき賄賂を多めに渡したのに、わんこは嫌と受け取り拒否。金返せ。


 仕方なく、下手な字でラブリー春香妃へ手紙を書いて役人に渡した。


 困る。これから爆速の長旅なのに。まだ1日目。


 ーーーそれでもなんとかなるもの。シェシェがぽてぽて歩きを卒業してとととと歩きになったころ、三日月港に到着した。


 すごっ。大小様々な帆船や小舟、(はしけ)(台のような平らな船)がきいきいと音を立ててひしめき合い、港を埋め尽くしている。その数1000は越えるだろう。帆船のマストが無数に天に突き上げる。初めて見る光景に圧倒された。沖の方には、何枚もの帆を畳んだ西洋のガレオン船が見える。


 これ、全部取り締まってるの? 不可能。


 急いで1番いい宿に駆け込んだ。第二皇子が泊まってるとしたらここだろう。


「1室、空いてますか?」

「1日くらいならいいけど。何日だい?」

「4日くらいです」

「申し訳ない。ダメだ。都から第二皇子様御一行がいらっしゃるって書状が来たんだ」


 書状、早い! 私よりも先に着いているなんて。きっと駅伝方式で、馬だけじゃなく人も交代したんだと思う。第二皇子の船はまだ到着していないと分かった。間に合った。


 1本裏の道にある、小さな宿を紹介された。シェシェも一緒でOK。部屋で、とりあえず爆睡。疲れた。



「シェシェ、船見に行こ」

「きゃん」


 目覚めて復活。第二皇子御一行が来る前しか出歩けないから、散策するなら今のうち。


 改めて、三日月港の大きな帆船を見上げる。でかい。たくさん荷物を積めそう。沖の異国の船は、央の国の木造船よりカラフルで近代的に見える。1番の違いは帆の枚数。ガレオン船のマストには何本もの横木が渡され、畳まれた帆がいくつも吊り下がっている。


「シェシェ、船、かっこいいね」


 港を一望できる高台へ行ってみた。絶景。


 あっは。密輸が丸見え。三日月港付近は細かい入江がたくさんあり、検問所を通らなくても、そこら中で積荷を下ろせてしまう。着岸用の小さな桟橋があちこちに見える。


 元は密輸の本拠地だった場所。朝廷が禁止しても、密輸業者達は武装して貿易を強行した。下手に弾圧して治安が悪化することを恐れた朝廷は、結局、正式の港として認めた。認める代わりに、税金をがっぽり徴収することにした。


「兄さん、その犬にこれあげな」


 抱っこしていたシェシェが身を乗り出してだばーっとヨダレを垂らしていた。そばで休憩中の男達のカステラに目が釘付け。船の積荷を運ぶ男達だった。


「ありがとう。いただきます」

「兄さん、都から来たんかい? 都訛(みやこなま)りだ」

「はい。訛ってる?」

「ははは。都からか。都から第二皇子が来るんだってな」

「さっき、宿でも聞きました」

「商人らがすっげぇ怒ってるぜ。せっかく運んだアヘンが売れないって」

「そうそう、アヘンは高く売れるからな」

「え?」


 もう内容まで知ってんの? 第二皇子が来て知らせることなんだけど。


「都で公示されたんだってな。3日前に早馬で知らせが届いた」


 3日も前に。


「早馬?」

「あいつらは、独自の情報ルートを持ってる」


 男達は眼下の港を指差す。商人達ーーー彼らの情報は公的な伝達よりもずっと速く、この港を支配しているらしい。


「なんでも、朱氏って宦官も来るんだと」


 え。聞いてないんですけど。


「その朱氏って宦官が、賄賂を受け取らないことで有名らしい」

「いるんか、そんなヤツ。最悪だぜ」

「役人らが大慌てしてたな」

「情け容赦なく官僚を吊し上げるヤツなんだろ?」

「ひぇ。第二皇子だけじゃ不安だから、そいつが来るんじゃね?」

「「「はっはっはっはは」」」


 うんうん。ホントにそうだと思う。そっか。朱氏様もいるなら安心。


「第二皇子、見るのが楽しみだぜ」

「すっげー綺麗なんだってな」

「北の国との戦で大活躍したのも、あの皇子だろ?」

「脳筋タイプなのかもな」


 ぐさっ


 自分の心臓に言葉が刺さった。脳筋。私、浩宇(ハオユー)までじゃなくても、もっとおりこーさんになろ。


「いえてる。女好きで」

「皇子様で見てくれがいいのに妓楼プロにフラれるなんて、よっぽどあっちがヘボいんだろな」

「「「はっはっはっはは」」」

「なあ。第二皇子じゃなくて、朱氏ってやつをここへ来させるのが目的だったりして」

「アヘンだもんな」

「アヘンがやばいってことは、あいつら商人は重々承知だからな」

「今回の分はとっとと売り(さば)いた後だろーな」


 男達はいろいろ教えてくれる。私は「悪いっすねぇ」と相槌を打つ。


「アヘン膏を売りつければいいだけだ」

「だよな、アヘン膏を買いに来る商人は、まだアヘンタバコの禁止を知らねーだろ」

「都から2ヶ月かけて、ゆっく〜り来るからな」


 ん?


「アヘン膏?」


 タバコとアヘンは別々でやってくる。そして、第1工程で生アヘンを精製してアヘン膏を作る。これは三日月港の周辺で行われる。第2工程はアヘン膏とタバコの葉をブレンドしてアヘンタバコの葉にする。これは、この港周辺で行われることは少なく、タバコを吸う前にタバコ屋近くやタバコ屋などで行われることが多い。へー。知らなかった。それ、都の人、知らないんじゃない? タバコ屋さんは知ってるかもだけど。取り締まる役人や軍の人。


「でもま、禁止されたところで、賄賂さえ渡せば、役人はなんでもありだからな」


 うっわー。役人、腐ってる。


「そーそー。朱氏ってヤツがいる間を乗り切ればいいだけ」

「「「はっはっは」」」



 第二皇子の到着は、その2日後だった。


 その日くらいゆっくり休むかと思いきや、即、港のど真ん中に船長達を集め、勅令を読み上げた。第二皇子の後ろには、100人を超す兵士達。壮観。一方、聞く人達は無数。船長、貿易に従事してる人達や、輸出入の検査をする役人、野次馬もいるから、場は人で埋め尽くされた。地面にひれ伏しすのが恒例なのに、後の方はそのスペースもない。


 南東の島々と三日月港を行き来している央の国の元海賊現商人達は、一応、大人しく聞いていた。(はらわた)は煮え繰り返っているだろう。今回の分は売り捌いた後だとしても、今後の利益がなくなる。タバコの10倍の儲け。実際はもっと高額かも。アヘンタバコの葉が普通のタバコの葉の10倍なだけで、アヘン膏はタバコの葉とは別売りだから。


 第二皇子は港内で終わらず、沖に停泊しているガレオン船のところへ行った。ガレオン船は3隻。外国の船は、貿易の許可があっても三日月港へ入ることは許されない。小さな船で積荷や物資をやり取りするのがこの港のルール。


 ガレオン船は商人の船という名目でも、途中、海賊と戦うために大砲ありーの、飛び道具ありーの、ガチムチ武装集団というのが実態。都で見た異国人船長の巨体を思い出す。あんな怒り心頭の化け物たちを相手に向かって、アウエイのガレオン船で、第二皇子は「もうアヘン持ってこないでね☆」と言わなきゃならないなんて。


 1隻ずつ訪れていた。きっと異国語で勅令を伝達している。私は港の隅から見守った。遠すぎて、よく見えないんだけどね。


 終了。


 なーんだ。あっけない。終わった終わった。ご飯食ーべよ。


 軍の人に合わないよう、少し離れた店でシェシェと食事をし、宿に戻ってびっくり。


「なぜでしょう、ご挨拶申し上げます」


 人の部屋で勝手に、第二皇子と朱氏様が待っていた。驚きのあまり、変な枕詞がついてしまった。


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