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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
すべては銀のために

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17/61

女子トークは恋バナ


 ときには同僚と女子トークをする。基本ラブリー春香(チュンシャン)妃の護衛は交代制。必要なことを伝達するだけでいいのだけれど。


「きっと身分違いはキツイよね」


 年上の同僚は直属上官に片想い中。相手は名門武家出身の武官。


「お金持ちなら側室もいます。側室なら身分違いもアリですよ?」


 名門だったり金持ちだったりは、同じ屋敷に側室が数人いるのが当たり前。


「それな。他に女がいるってだけで生理的に無理なのに、他に奥さんが何人もいるって、もう、ぜんぜん気持ち悪くてダメ」

「そっか。そうですよね。私も自分だけじゃないと嫌だな」


 自分どころか、そもそも無理なんだけどね。浩宇(ハオユー)の場合は。


「なんで人が使ったものって嫌なんだろ」

「言い方が。使ってなきゃいいんですか?」

「シェアがね、ちょっと。器もキセルも嫌じゃない? 好きな人なら別だけど」

「キセル。タバコ、吸うんですか?」

「ちょっとだけ。ふふ」

「?」

「上司に『吸ってみる?』って」

「きゃーっ。間接ちゅー。それって、あの人ですよね、ね、ね」

「ぅふ」

「タバコかー。はぁ」

「瑞、どーした」

「アヘン入りのタバコの葉、最近、噂になってますよね」

「だね。ヤバいよ。脳ミソ溶けるって聞くし」

「ほら、それが良識的な反応ですよ」

「なに。アヘンに手出そうとしてる男にハマった? それはダメ。好きなら全力で止めな、瑞」


 同僚の助言に、私は力無く首を振る。


「いえ。普通、アヘンのこと話すときって、やっぱ、体がおかしくなるってとこがポイントじゃないですか」

「うん?」

「貿易での銀のことなんて気にしませんよね。体のこと話さずに貿易の銀の流出量だけしか考えないって、サイコパスかも。心ってあるのかな。それに、あの」

「ん?」

「宦官って、その、シたくなくなるんだろーなーってのは、なんとなく思うんですけど、好きって気持ちは、こう、湧いて来ちゃったりするもんなんですか?」


 私、何きいちゃってるんの?


「どーなんだろ。気持ちはあるのかも。ほら、後宮で流行ってるじゃない」

「後宮で?」

「宦官と侍女のカップル」

「は?」

「流行ってんのよノヨー。空いてる宮とか部屋でこっそり同棲」

「知りませんでした」

「心のよりどころ? みたいな」

「へー」


 ぱしっ


 いきなり肩を叩かれ、意味深な目を向けられる。


「枯れ専?」

「違います」

「いかにも銀の量で考えそう」


 確かに朱氏様はそうかもしれないけど。


「ぜったいぜったい違いますから」

「ふっふっふ」


 あ”ー、これ、勘違いしてる。なんか「枯れ専」属性定着してない? カレシできないじゃん。ま、いっか。今、他の人から何か言われても、浩宇のことが気になっちゃって答えられないから。


 ……不毛。ん? 不毛なのかな? 宦官と侍女のカップルがあるって。ってことは、私だって。思い描いてた、温っかい家庭像からズレるけど。子供がいないなら、その人にとって「お母さん」にならずに、いつまでも「女」でいられるかも。プラトニックが続くってステキーーー他の人のことだったらそう言える。自分だったら、どーなの。プラトニックって。後宮で流行ってるくらいだから、私にもできるのかな。


 ◇


 以前にも増して注意深く、朱氏様邸を訪れる。身バレしないように。やっぱり「枯れ専」属性は嫌。


 浩宇に会えるから来ているけれど、話し合いの中身は私が聞かなくてもいい気がする。貿易黒字とか赤字見込みとか国内の銀の流通量とか税収とか。これについて話すのはほとんど浩宇で。その姿はかっこいいんだけどさ。私、自分の財布の中身以上は興味湧かないんだよね。


 なんでこんなことしてるんだっけ。あ、思い出した。第一側室から「あれをなんとかして」って頼まれたからだった。部屋に溢れる数字の海で、目的を見失っていた。


「あれ」である第二皇子は数字に困っている。


「なんてゆーかさ、この縦書きの漢数字。頭に入ってこないんだよね」


 同意。私は昔から、数字は頭の中で円の大きさに変えたり、線の長さに変えたりして、考えている。


「私は……こんな感じに、頭の中で図にしています。これなら少しは分かりませんか?」


 紙に、話し合い中の数字を線にして表した。いくつも書くと比べ易い。全体に対する割合も同じ長さの帯の中に書き込んでみた。


「瑞、ナイス」


 第二皇子の褒め言葉よりも、浩宇が私の方を見て、にっこりしたことが嬉しい。心臓、きゅってなったし。顔、緩んじゃう。


「まず、どれから手をつけるべきでしょうか。目的は、功績を挙げて皇帝陛下や官僚、できれば庶民へアピールすることです」


 朱氏様の言葉に第二皇子は下唇を突き出す。


「何もできないよ。アヘンが合法なんだから。小箱のことを知らせるとき、アヘンの危険性を訴えたんだけどさ、ほら、浩宇が作ってくれた、この資料で。数字ばっかりでぽかーんとしちゃって。しょーがないから、アヘンで南東の小さな島が廃人だらけになった話とか、西の国で政治批判が盛り上がって鎮圧に大変だったとか、軍が隊ごとダメになった話をしたんだよ」

「左様でありましたね」


 お爺ちゃん宦官が辛そうに目を閉じる。


「そしたら『そんな危険なものをこっそり渡されるのは、外国にまで素行の悪さが伝わっているからだ』って怒鳴られたんだよ。また杖刑なんて言われたらたまったもんじゃない。逃げたよ」


 これまでの行いが悪かったせいだよね。ちょっと気の毒。


 ところが、朱氏様はすかさず褒める。


「ありがとうございます。皇帝陛下に丁寧に説明してくださったのですね。アヘンの人身への被害と社会への危険性まで。皇帝陛下は国民のことを第一に考えるお方。息子である殿下からのお言葉は、さぞや心に響いたでしょう。ここに畳みかけるように訴えれば、アヘンは危険な物として輸入禁止になるかもしれません」


 口上手いなー。


「畳みかけるように? また僕? 杖刑は嫌だよ」

「いえ。まず財務官僚から。税を銀への一元化が実現しつつある大改革の最中、銀の流出は一大事。必ず動くでしょう。もう1人は軍部からがいいでしょうか。異国人はこっそり小箱を渡したそうですね。アヘンが非常に危険な物であると承知しているからです。軍部からはアヘンタバコの異様さを報告してもらいましょう」

「「「異様?」」」

「先日、浩宇と見に行ってもらいました」


 朱氏様は発言を浩宇に譲った。


「友達とタバコ屋へ行ってきました。大通りにあるタバコ屋です。店頭にキセルやタバコの葉が売っていて、奥で吸うことができるんです」


 タバコの葉にはランクがあって、高価な葉を選ぶと上客だと思われる。


「朱氏様に言われた通り、少し派手な服を着て、いかにも金持ちの遊んでる息子っぽくして行きました。友達はちょうど、そーゆー感じですので」


 1番高いタバコの葉を買って、奥で楽しんでいると、店の主人がやってきた。「店頭販売していない、プレミアムなタバコがあるから楽しまないか」と言われた。予定通り。浩宇と友達は興味を示した。


「ついてくるように言われて、裏口から店を出ました。そこは裏通りで、正面の建物の中へ案内されました。先日と同じ(にお)いの煙が充満した部屋に、ベッドがいくつもあって、寝そべって吸っていました。異様な光景です。目の焦点が合ってないような、ぼーっとした顔で。ぶつぶつ呟いたり、涎を垂らしたりしていた者もいました。朱氏様から『絶対に吸うな』と言われていましたから、袖で口を塞いで、すぐに帰りました」


 想像できないんだけど。ベッドがいくつもあるなんて、兵舎の雑魚寝部屋とも違うし。


「偶然ですが、軍が隊ごとダメになったことを第二皇子が話してくださったばかり。アヘンを取り締まりたいと働きかけてくれるでしょう」


 皇帝に直で話をできる軍人なんて限られてる。めちゃくちゃ上の方。へー。朱氏様って、軍にも顔が効くのかな。


 そして思い出す。北の国と内通していた将軍がひっそりと処刑されたことを。追求もなし。敵国との内通という大罪にも関わらず、皇后様の一族だったために一族への処罰はなかった。でもって同じ一族から将軍が出た。あの一件で、朱氏様は強力なカードを得たんじゃないだろうか。


 アヘン規制の法が制定されたのは、翌々日だった。


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