股の間でおもてなし
「ギブギブギブ……」
仰向けの男の顔が私の股の間にある。
我慢できなかったんだよね。膝枕サービスしてたらスカートまくり上げられて。思わず首4の字固めでおもてなししちゃった。あ、失神しそう。ダメダメ。ちょっと息できるくらいに緩めて、と。
「タバコの葉の何倍くらいで売れるの?」
「じゅ……」
「じ?」
股の間、男は赤紫色の顔のまま、逃れようと掴んでいた私の脚を離し、両手を広げる。
「……」
「10倍?」
「……」
男はロックされた首をわずかに動かす。私の左のふくらはぎが動きを感じ取る。
「じゃさ、タバコの葉の何倍くらいで仕入れてる?」
「……」
再び男は両手をパー。
「10倍ね」
「……」
再び首の動き。
「どっちも10倍。量は?」
今度は、とんとんと私の両脚を叩く。外して欲しいわけね。具体的な数字聞かなきゃ。はい、どーぞ。首4の字固めを解くと、男は私の股の間から這って抜け出し、首を抑えて苦しそう。ごほごほ咳までしている。そこからは細かなことを質疑応答。男は四つん這いのまま、かすれて消えそうな声で答える。
「ふーん。ほー。仕入れ値のどれくらいで売ってんの?」
「3倍で」
私はふわふわのスカートからにょっきり脚を出して、男のアゴを右足親指の背で撫でる。
「悪い人。利益率200%だなんて。だからこんなお高い店に来られるんだ?」
「……」
男は四つん這いのまま固まる。
「ありがと。ごめんなさい、股に挟んで。つい触れられると体が反応しちゃって。熱くなっちゃって」
調査終了。そろそろ帰らなきゃ。明日は仕事。私はさっと立ち上がり、部屋を出るときに重要事項を伝達した。
「ここでのこと、他で喋らないでね。この店の評判落ちるから。もしも喋ったって分かったら、おじさんの家知ってるし、店知ってるし、家族分かってるし、遊びに行っちゃうから」
礼儀正しく「バイバイ」と挨拶も添える。退散。
その足で朱氏様邸に向かい、浩宇に情報を伝える。
「分かった。瑞、ありがと」
「がんばって」
「ははは。瑞、化粧まで。じゃな」
え。ちょっと待った。浩宇って、私のこと男だと思ってる?!
これまでの自分の姿を思い出す。確かに最初に会ったときは男装だった。北の国から第二皇子を奪還したとき。目立っちゃいけなかったから。その後、最初に朱氏様邸へ行ったときは、護衛の制服だった。軍の制服は男女同じ……というか、女性用がない。蹴球大会のときも護衛の制服。朱子様邸で集まるとき、2回目以降は男装した。私のファンクラブ会員の目が厳しいと聞いたから。桃麗妃に「枯れ専」なんて言われちゃって。
ぱたん
「ぁ」
頭の中で忙しなく考えてたのに、訂正する間もなく目の前の扉が閉まる。
だよね。浩宇は忙しい。第二皇子のために資料作んなきゃいけない。
浩宇が宦官だからってこっちは気持ちをセーブしてるよ。でもね、気持ちって頭じゃないじゃん。好き。なのに。官僚の屋敷で絵のモデルのバイトした日、薬で体の自由奪われた浩宇は「……瑞じゃなくて……よかった……」って、言ってくれた。私のこと守ってくれた。あんなこと言われたら、好きになるなって方が無理。あ、れ? そこでも浩宇は私のこと男だと思ってたってことじゃん。そーじゃん。加害者のじーさん官僚は男色の制服フェチ。
朱氏様の狡猾さに今更気づく。めらめらと怒りが湧き上がる。
朱氏様は私が女だと知っている。でもって、きっと、浩宇が私を男だと思ってることに気づいている。男色家が女の私を狙うわけがない。なのに「制服フェチ」という情報を浩宇に与えて、あたかも私が狙われるような伝え方をした。友達(悲しい響き)思いの浩宇は、私の身代わりになるために制服を着て屋敷を訪れた。朱氏様は最初から、浩宇を来させるつもりだった。使用人が言っていた。
『旦那様のお好きな、長身でしゅっとした知的なタイプでございます』
浩宇がビンゴ。
朱氏様に気をつけよう。信用しちゃいけない。疑ってもどうしても、どーせ掌の上でコロコロ転がされるんだろーけど。それでも、純粋な浩宇のことは私が守らなきゃ。
月の光の下、私は自分の服を見る。いつも朱氏様邸を訪れるときの男装。さっきの酒場の、おねーさんの服を着てくればよかった。あのスケスケの派手派手だったら、女って気づいてくれただろうし、ファンクラブ会員に見られても、私ってバレなかったと思う。
……。朱氏様邸ではOKでも、あの服じゃ、皇子達が住む十王府に帰れないよね。
◇
そもそも、丸投げ顔だけ男からの依頼は、簡単に調べられることを前提としていた。軍は港の警備もする。だから、港で「検査」という名目で異国人の船長に話を聞けば教えてもらえる算段だった。
けれど、通訳と一緒に聞きに行ったら「アヘン? なにそれ? おいしーの?」って。いえいえ、通訳同じ人だから。謁見の後、小箱を渡してたじゃん。と思っても、異国人のバックには異国。国家間の問題に発展しては困る。極めて礼儀正しく撤退シマシタ。
仕方なく、羽振りのいいタバコ屋さんを尾行。お座敷でおねーさんにお酌してもらえる高級店に入って行くのを確認した。
「瑞様、まあ♡ 本物だわ」
「ルイさま、りりしい♡」
「絵師の姿絵そっくり!」
お店に私のファンクラブ会員がいた。船の調査帰りで護衛の制服姿だったため、即バレ。「実は、あるお客に非公式に接触したい」旨を伝えたら、
そもそも、丸投げ顔だけ男からの依頼は、簡単に調べられることを前提としていた。軍は港の警備もする。だから、港で「検査」という名目で異国人の船長に話を聞けば教えてもらえる算段だった。
けれど、通訳と一緒に聞きに行ったら「アヘン? なにそれ? おいしーの?」って。いえいえ、通訳同じ人だから。謁見の後、小箱を渡してたじゃん。と思っても、異国人のバックには異国。国家間の問題に発展しては困る。極めて礼儀正しく撤退シマシタ。
仕方なく、羽振りのいいタバコ屋さんを尾行。お座敷でおねーさんにお酌してもらえる高級店に入って行くのを確認した。
「瑞様、まあ♡ 本物だわ」
「ルイさま、りりしい♡」
「絵師の姿絵そっくり!」
お店に私のファンクラブ会員がいた。船に調べに行ったから護衛の制服姿で、即バレ。「実は、あるお客に非公式に接触したい」旨を伝えたら、
「「きゃー」」「ステキ」
とノリノリで服を貸してくれて、メイクもしてくれて。挙句は脱いだ制服にファンが頬ずりしてた。店のオーナーに内緒でこっそりお座敷接触。お酌してたら肩とか触られた。膝枕することになった。首4の字固め発動。結果、素早く情報を入手できた。
タバコ屋さん、災難だったよね。今のところ、アヘンは禁止じゃない。荒稼ぎしてただけで悪いことはしていない。きっとあの後、ファンクラブ会員がとりなしてくれたと思う。
◇
毎日、こんなに幸せでいーんだろーか。
もふもふもふもふ
子犬を愛でるラブリー春香妃を見守る日々。かわいいがかわいいをかわいいしてる。
「シェシェ、シェシェ。おすわり、お手、おかわり、ハイタッチ。お利口」
わんこの名前は「謝謝」に決まった。春香妃は、今まで読書をしたり刺繍をしたり、おしとやかなタイプだと思っていた。違った。シェシェを追いかけて走り回る。その尋常じゃない体力に侍女達は息が上がって苦しそう。
「瑞様、春香妃をお願い、し、ま、す」
ぱたり
年長者から順番に離脱していく。子犬の状態でこれ。成犬になったら、誰が犬と一緒に爆走するラブリー春香妃を追いかけるんだろ。私と同僚の役目になりそう。
「春香妃」
「殿下」
「きゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃん」
シェシェが激しく鳴く。小さいから吠えるという感じの声じゃない。それでも、いつもと明らかに違う。第二皇子の服の匂いをくんくんくんくん、手の匂いをくんくんくんくん執拗に嗅いで、鳴く。
「どーしたんだ、シェシェ」
「殿下、犬は嗅覚が優れているのだそうです。何か特別な匂いがするのでは?」
第二皇子は自分の手を鼻のそばに持っていき思い出そうとする。
「ああ、タバコの葉だ。今までも、タバコの葉を触った後にここへ来てたけどな。あ!」
「殿下、どうかなさったのですか?」
「皇帝と話してたんだよ。アヘン入りのタバコの葉こと。ごめん。シェシェ。きっと臭かったんだね」
第二皇子は部屋を出て行く。しばらくすると、別の服で登場する。
「着替えてきたよ。手も爪の間もよーく洗ってきた。ほらシェシェ」
第二皇子が指先をシェシェの鼻に近づけた。するとシェシェは、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振る。吠えない。
「殿下、アヘンとは何でしょう?」
「そーゆー危険なものがあるんだ。昔々、南の国の兵士達がそれで隊ごとぼろぼろになったとか、酒すら禁じてる厳格な西の国で社会が壊れたり、小さな島が廃人だらけになってしまったり」
「恐ろしい。爆弾のようなものなのですね」
「どちらかというと、病気になる薬かな」
ラブリー春香妃はシェシェを抱っこしてきょとんとしている。なにそれかわいい。春香妃もわんこも同じ表情しちゃってる。もう、第二皇子、説明なんてしないで。悪いことも悲しいことも不幸なことも、ラブリー春香妃に教えないでほしい。




