少年ジーン&少女リツの場合 14
賢木が中等部で教師として復帰を遂げた頃、ジーンは学級委員長の入江に懇願されてリツとヒトミと共に葉光祭の実行委員会のメンバーに組み込まれてしまっていた。今日は補欠として入った姫乃もいる。談話室の一角に集まって、ゆるい話し合いをしているところだった。実行委員会にはいわゆる神メンバーが勢ぞろいしていたので姫乃は上機嫌だった。他のクラスは六季とフミヤ、ミユ、太輝とトウリ、ミライで、そのうちのミユとミライ以外は神メンバーとしてカウントされていた。というのも元々太輝はメンバーではなかったのだが、ヒトミと一緒にランチを食べるうちにメンバーとしてカウントされるようになっていた。姫乃はトウリのことを気にする素振りを最近見せていた。トウリは以前六季をボコろうとして反撃されて以来、六季を神のように崇めていたが、彼もまた転生者で養子だった。実行委員会の学年代表にされた六季はなんで自分が、と言っていたがジーンはそこまでやるつもりはない、ときっぱりと言って断っていた。
「僕のクラスは、迷路、二組はお化け屋敷、三組は縁日でいいかな?でもこれ、絶対他の学年と被るよ?上級生と被ったらクオリティが比較されるってこと、忘れないでよね?」
ムツキは念を押す。
「それに二組以上被ったら第二希望に変更を余儀なくされるジャンケンになるから、第二希望に適当なものを書いてるクラスはまだ間に合うから明日中には変更した方がいいよ!去年そのせいで僕のクラスはメイド喫茶になって、最悪だったんだから」
「あームツキ、メイドの格好してたもんね。でも下手な女子より美人って誰かのお兄ちゃんが言ったせいで、しばらく女子からの風当たりキツくなってたよね…」
姫乃が笑う。一番気まずそうな顔をしたのはトウリだった。トウリは六季の顔をちらりと見て両手を合わせた。
「ホントごめんなさい、二度としません!」
「分かってるならいいよ。だいたい…余計なこと言ったのは…確か滝野の兄貴だし、一部の女子に頼まれて僕にケンカ売ってきたのがトウリたちでしょ?ホントやること幼稚で下らないよ。それに旧校舎裏なんて、しょうもない場所に呼び出してさ…そこにいた中等部の先輩が慌てて僕がボコられそうって先生を呼びに行ったのに、先生方が来る頃には全員僕がボコってたっていうね…あのときの中等部の先生…間抜けな顔してたよね…」
「あぁ、それってアッシーでしょ?芦沢先生。去年のお兄の担任…今年は外されちゃったみたいだけどね…色々あって」
小柄なミライが笑う。ミライは髪が短くボーイッシュな上にスカートではなくスラックスを選んでいるので一見性別不明だった。
「色々?」
ジーンが興味を示すとミライな小声で言った。
「お兄が言うには、一部の生徒と仲良くし過ぎたって言ってたよ。ご飯食べに行ったりカラオケに行ったり…それに魔力が多いのを自慢してたって。契約パートナーが二人いるとか…色々噂があって、どこまで本当の話か知らないけど…」
ミライはそう言って空になったいちごミルクのパックをダストボックス目がけて投げ捨てたが、入らずにパックは下に落ちた。
「あーもうっ!また外した!」
ミライは立ち上がるとパックを拾い上げてダストボックスに入れた。私立なせいか付属小の校舎にも自販機があってジュースや軽食を購入することができる。ココアを飲んでいたジーンがミライの真似をしてパックを投げる。もちろん入らない訳はなく、おぉ!と周囲はどよめいた。ミライは頬を膨らます。リツはそれを見て何かの小動物に似ていると思いながらリンゴジュースを飲んでいた。
「ジャンケンなら負ける気はしないから、問題ないよ」
ジーンは余裕の笑みでそう言う。ジーンが言うからには本当に負けないのだろう。六季はまとめた内容をタブレットに入力し実行委員会のフォルダにコピーして入れた。
「とりあえず…今日のところはここまでかな。明日は各クラスの代表のみが委員会で何をやるかがここで決まるよ。あとはひてすら作業するのみ。高等部は例年飲食関係が多いから、中等部との戦いになると思うよ」
六季が言ってお開きの雰囲気になる。姫乃はトウリたちと帰ってゆく。
「ヒトミ、今日このあと暇?」
太輝が声をかけた。
「うん。五時まで委員会って言っちゃったから…まだ空いてるよ?」
「じゃあ、図書室で自習してく?」
「うん」
太輝はヒトミに対して以前にも増して積極的に誘うようになっていた。人前でも特に臆することなく、ヒトミのことが好きだとアピールするようになっていた。
「僕たちもそうする?五時過ぎに迎えに来てって言ったから。ムツキも待つでしょ?図書室来る?」
ジーンが言うとムツキはどこかそわそわした様子で辺りを見回してスマホをちらりと見た。ジーンは察した。
「っと…僕はここで…」
六季は口ごもる。
「分かった。ムツキ、じゃあまた後で」
「あ…あぁ、うん」
ジーンとリツがヒトミたちと談話室を出ると、廊下の向こうから歩いてくるベルの姿が見えた。ベルは軽く片手を上げる。
「ムツキなら談話室で待ってるよ」
(ただでさえ大佐は目立つから気をつけろよ?)
「そう?勉強教える約束したんだよ」
(分かってますよ。人前でキスなんかしませんって)
口と心の中とで別のことを言いながらジーンと大佐は通り過ぎる。通り過ぎてしばらくしてから、太輝が小声で言った。
「あの六年生目立つよね…この前も中等部の先輩と仲良さそうに話してたし…ジーン、知り合いなの?」
「うん、父親が同じ会社で働いてるから…昔からの知り合いだよ」
「そうなんだ…」
やがて図書室に着いたのでそれぞれ自習をしたり、人に見られないところでリツに触れたり素早くキスしたりしながら、ジーンは時間を費やした。ヒトミは太輝とうまくいっているようで、照れ臭そうな顔をしながら隣に座って本を読んでいた。もうじき迎えに来る時間なのでジーンはリツと共に図書室を出る。談話室の人影はまばらになっていた。大佐と六季と合流して歩いていると、校舎を案内しているのか、芦沢と賢木が歩いてくるのが見えた。
「さようなら」
四人は頭を下げて通り過ぎる。今日は賢木は家でセイルと夕飯を食べる日だ。後で話せばいいと思った。
「さようなら、気を付けて帰るんだよ!」
人好きにする笑顔で芦沢は挨拶をして通り過ぎる。
「この先に談話室があるんですよ…」
当たり障りのない会話が聞こえてくる。駐車場に着くとカイムが待っていた。
「おかえりなさい」
車に乗り込んで駐車場から出たところで大佐が言った。
「この前俺の魔力を欲しがった高等部の生徒…アッシーに魔力分けてもらったことがあるって言ってたんだよなぁ…ちょいちょい名前出てくんの。アッシーって」
「…魔力欲しがったって…キスしたの?」
六季が反応した。
「あーどうだったかな」
大佐は窓の外に視線を逸らす。
「してたよ、がっつり」
ジーンが言うと大佐は変な声を上げた。
「うわぁ!陛下!!」
「ベルの不潔」
「ムツキ!!」
「ムツキとキスしてからはカイム以外とはしてない!本当だよ!」
「……大佐はモテるもんね…今日だって、ベルーベルーってたくさん女の子が来てたし…」
六季は儚げな表情をして窓の外に目を向ける。大佐は六季を抱きしめた。
「他の奴の魔力はカスみたいなもんなんだよ。ムツキの魔力の方が断然旨い…」
大佐は六季のあごを持ち上げて唇を重ねた。六季は目を開いたまま大佐を受け入れて、安心したように目を閉じる。
「リツ…」
ジーンは前の二人を見ながら手を繋いでいたが、リツの肩を抱き寄せるとキスをした。どちらかといえば不足気味の魔力を補うためのキスだ。ゆるやかに魔力が上昇して身体の疲れが軽減された。リツはジーンの魔力に流されて少しの間目を閉じる。
「…芦沢先生って…何の転生者…?気配が…読めなかった…」
「あぁ…何だろうな…妙な男だったな…彼だろう?椎名が気をつけろと言っていたのは…」
前の座席から大佐が振り返って頷く。
「あぁ…魔力が多い自慢してる若い教師がいるって、芦沢のことですよ…恐らく…」
「魔力が多い…ねぇ。確かにぱっと見た感じでは分けても余るほどあるのかもしれないが…」
そう言ってジーンはリツの頬をさらりと撫でた。
「我々悪魔と比較できるほどの魔力なのかな?」




