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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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セイル&リヒトの場合 8

 田崎は豪華過ぎて落ち着かないとは言ったものの、セイルに鎧を外されて促されるままに豪華なベッドの上に横たわった。この巨大な身体でも余裕で休める広さの魔界のベッドに感謝した。青年姿のセイルは当然のように服を脱ぎ始める。田崎は目のやり場に困りつつ、セイルが何を始めるのかと思って、田崎のベルトに手をかけたのに気付き慌ててその手を止めた。


(どうして?別に…こっちの姿なら平気だよ?僕に任せて?)


(いや…それに…この体格差だと…)


(大丈夫。少し調整するから…)


(無理しなくていい…それに…セイルのお腹には…)


 そう言って止めると、セイルは少し残念そうな顔をしたものの引き下がった。


(激しい触れ合いはするなって言われたしね…じゃあ止めとくよ)


 セイルはそう言って田崎の上で妖艶な顔付きをして微笑んだ。田崎の胸板は分厚い。セイルは手のひらで触れてフフッと笑った。


(すごい筋肉…たくさん鍛えたんだね…)


 セイルのつぶやきに田崎は鼓動が早まる。


(ドキドキしてる)


 セイルは少し起き上がって上の方にやってきた。田崎の髪に触れて顔を覗き込む。


(リヒト…転生前の名前は?思い出した?)


 田崎は頷いた。


(リ…リヒャルトだ…)


(そう…響き…似てるね。リヒャルト…)


 ただ名前を呼ばれただけなのに、田崎は背中からゾクゾクして身体中に痺れが走るのを感じた。


(リヒャルト…この前世の姿も…僕のもの…いつか、この姿で僕のこと抱いてね)


(あ…あぁ…)


 田崎は自分の身体の上に乗ったセイルの重さを感じながら頷いた。そっと抱きしめて目を閉じる。いつの間にかセイルは女性の姿になっていた。田崎はもう一度しっかりとセイルを抱きしめてその柔らかな輪郭を確認した。この身体の中にはすでに新たな命が宿っているのだ。そう思うと愛しさが込み上げて、なぜか彼は泣きそうになった。


(リヒト?どうしたの?)


(な、なんでもない…)


(言って…)


(いや…別に大したことじゃない…転生前…俺は…家族を作れずに…怪物を倒すことに明け暮れて終わったから…今は…家族が持てて…幸せだなと…思った…それだけなんだ…)


 セイルは田崎の頭を撫でた。


(もう…一人じゃないよ…)


(あぁ…俺を…選んでくれて…ありがとう)


(それはこっちのセリフだよ?受け入れてくれて…ありがとう…僕たちもう家族だからね)


 田崎はセイルの髪を撫でながら目を閉じた。



***



 田崎は夢の中で目を閉じて少し休んだはずだった。ハッとして目覚めると、魔界ほどではないものの広いベッドに田崎は眠っていて、隣には裸のセイルがぴったりとくっついてすやすやと眠っていた。


「……夢の中でも眠ったのか…?どんだけ寝てるんだ…」


 少々呆れてつぶやいたところで、セイルがぱちりと目を開ける。同時にドアがノックされて、ジーンの声が聞こえた。


「体調を確認しにきたよ」


 セイルは申し訳程度にバスローブを羽織って軽々とした足取りでドアを開ける。中に入ってきたジーンは田崎を見ると笑って言った。


「昨日の夜は…夢の中でもきちんと言われたことを守ったようだな…」


 彼は田崎の額に手を当てると頷いた。


「魔力も安定しているし、夢の中で剣は壊しただろう?だから影響を受けることはなくなると思う。無駄に消費していた分がなくなると思えばいい…次はセイル」


 彼はそう言うとベッドに座っているセイルのお腹に手を当てた。彼は微笑んだ。


「無事に着床しているよ。おめでとう」


「本当ですか?良かったぁ…」


 セイルは嬉しそうな顔をした。


「祝福の魔力を流そう」


 彼はそう言って田崎の方をちらりと見た。


「魔力は…唇が一番入りやすいが、首の後ろや額からでもそこそこ流せる…セイルは首の後ろの方が流しやすい…」


 彼はそう言うと、サラリとセイルの髪を避けた。


「陛下…大丈夫なんですか?その…触れ合いは…」


「あぁ…私だってリツを娶ってから克服できたこともあるんだ…」


「そうですか…」


「田崎さんにも覚えてもらわないとね」


 そう言って彼は軽く肩を抱くとセイルの首の後ろに唇を付けた。セイルは目を閉じて心地良さそうな顔をする。田崎は緊張しながら様子を窺っていた。しばらく経つと彼はゆっくりと離れた。


「ありがとうございます…陛下も…克服…おめでとうございます」


「あぁ…リツは双子だから…魔力をたくさん欲するんだよ。ストラスには全て許可した…ま、葛藤がなかったとは言わないが…リツはストラスに一番慣れているからね…」


「全て…ですか?それはまた…思い切ったことをしましたね…」


「命に関わるときに私に遠慮して何もできないのは困る…それだけだよ」


 彼は微笑むと部屋から出ていった。セイルがぼんやりしているので田崎は少し不安になる。セイルは慌てたように田崎の方を振り返ると四つんばいでベッドの上を移動して田崎の横に再び潜り込んだ。セイルは子どものように足をバタバタさせた。


「すごいすごいすごい…」


「…どうした?」


「陛下がレベルアップしたんだよ!昔は…妊婦の祝福を頼まれても…嫌そうに渋々ながら…手を握って魔力を流す程度だったのに…僕の首の後ろにキスした…」


「それは…そんなにすごいこと…なのか?」


「すごいよーそれに…王妃のことを…ストラスに全て許可したとか…あの陛下が王妃に他の悪魔が触れてキスをしたり場合によってはそれ以上のことをしてもいいって頼むなんて…まさに青天の霹靂だよ」


 田崎にはそれがすごいことなのかはいまいちピンと来なかったが、セイルが興奮するからにはそうなのだろうと思った。セイルは田崎に抱きついてキスをする。悪魔はこうしてすぐに気安く触れてくると田崎は思った。セイルに触れられた腕からホッとする魔力の流れを感じて田崎は驚いた。今までただ触れていてもここまでハッキリと意識したことがなかったからだった。田崎はセイルが隣にいるだけでリラックスしている自分に気付く。そして、これまで自分がとれだけストレスを抱えていたのかも分かってしまった。それは唯一の癒しだと思った相手の前でもそうだったことに気付いて、田崎は弱さを見せようとはせずに相手の愚痴を聞いて、頷いていた自分を思い出した。


「リヒト…リヒトは…甘えることになかなか慣れてないだろうけど、しちゃダメってことは何もないんだからね?強くあることと、弱音を吐かないのは別物だよ?」


 セイルはそう言って手を伸ばすとリヒトの頭を撫でた。


「リヒトは何百歳も歳下なんだから、僕に甘えたって何の問題もないよ。不安なことがあったら僕に聞いて?悪魔の子育てはお腹の中に宿った瞬間から始まるから…今こうして触れ合いながら、僕は今隣にいるのが君のお父さんなんだよって教えてるんだよ。そのうち早い子ならお腹の中から意思を伝えてくるから、カイムの子は卵の中でお喋りしてて、うるさいくらいだってベルフェゴール大佐がぼやいてたし…」


「その…卵…からの…悪魔も…いるのか…すごいな…卵の中で…喋るのか…?」


 田崎には想像がつかなかった。


「他の生き物に変身できる悪魔で…獣だったり鳥類だったりの属性が強いと…卵を産むこともあるよ。カイムはそうだったから、産卵したんだ。それに卵の方がお腹に抱える期間も短いから、すぐにお互いの魔力を上げるのに抱き合ったりできるし。ほら、カイムは大佐と…二人とも悪魔だから、片方がこの世界の人間を選んだ僕とは違うからね。魔力の相性が良くても元から悪魔どうしで付き合ってると、定期的にそうしていないと…やっぱり魔力不足が起こるみたいだよ。まぁこれは最近数値を測定していて気付いたことなんだけど…転生者を悪魔に変えて同じ条件下で回数なんかもきちんとカウントして測定して比較すればいいんだけど、例えば…はい今日は必ず三回抱き合って下さいって協力してもらうのも何だか気持ち的には微妙だろうって話になってて、保留にしてるんだ。とにかく…悪魔と元は転生者だった相手の方がこの世界で魔力不足が起こった場合には魔力を上げやすいってこと。簡単に言うとね」


 セイルは田崎の顔を覗き込むと軽くキスをして微笑んだ。


「妊娠するとね…お腹の子の分も魔力が必要になるから、僕はたくさんリヒトにこうやって触れるよ。どのくらい必要になるかはお腹の子の魔力の強さにもよるから、簡単には数値化できないけど、王妃がたくさん魔力を必要とするのはお腹に二人赤ちゃんが入ってるからなんだ。一人は天使で…もう一人は天使と悪魔のハーフだから、ガブリエルは自分が天使なのにどうして人間の子なんだって、あのとき言ってたんだよ…仕方ないよね。こればっかりは…」


「それに、おまけだって…言ってなかったか?力を上げるための…おまけな訳はないだろう…家族が増えるんだから…」


「そうなんだよね。天使にはもしかすると家族っていう概念が理解できないのかもしれない…まぁ…魔界にもそういう悪魔がいない訳じゃないよ。乱交的に交わって群れで生活する種族もいるけど…その場合はその年に子を産む悪魔の人数は決まっていて、きちんと役割分担があるんだよ。そうして生まれた子は別の群れの悪魔と結婚する…だから、それは群れって言っても家族の単位が少し大きくなった、みたいなところはあるね」


「な、なるほど…家族の単位か…考えたこともなかったな」


「一夫多妻制を選ぶ悪魔も多いからけっこう大所帯のところもあるんだよ。でも妻みんなが仲良しな訳じゃないから、例えば第一夫人と第四夫人だけが一緒に暮らしてて、他の夫人は別に暮らしてたり…そういう場合が多いかな…」


 それからもセイルは魔界の常識を田崎に教えてくれた。田崎は一気に視野が広がったような気がした。田崎はかつての恋人も魔界にいたなら、もっと自由に生きられたのかもしれないと思った。だがそれはすでにわずかな感傷でしかなかった。セイルに絡め取られた魂はすでに死のベクトルから解き放たれて、ひたすらに生きる方向に向かっていた。

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