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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ルイ&田崎の場合

 田崎は気を失っている間におかしな夢を見た。


(先生、田崎先生?)


 目の前にルイがいた。ルイは美少女姿で素肌の透けそうな異国の衣装をまとっていて、田崎は目のやり場を目を失う。辺りは薄暗く、ルイの輪郭がぼんやりと光って見えた。


(とりあえず…あまり遠くに落ちないように先生を捕まえておかないとね…コーキも手伝ってよ!)


(分かってるよ!フワフワしてて着地しにくいんだ!)


 田崎は突然現れた赤い長髪の人物を見上げた。見返す瞳は宝石のような黄緑だ。けれどもまったくの外国人という訳でもない。どこか和の雰囲気もあった。着物に似たものを着ている。何かのコスプレだろうかと田崎は考えた。


(先生、転生前はもっと大きかったんですね。悪魔並の体格!)


 田崎は二人に手を引かれて立ち上がる。その手は普段認識している手よりも遥かに大きかった。着ているのは中世の騎士のような鎧だ。帯剣していることに彼は驚いた。彼はルイを見下ろす。随分と小さいと思った。


(これは…夢…なのか?)


(うーん、半分は夢だけど現実にも繋がってる部分はありますよ?現実の先生は今ちょっと意識を失っちゃって、治療中だからこれ以上奥深くに潜らないように、見張ってろって言われたからそうしてるところです…あんまり離れると戻りにくくなって…現実の田崎先生が昏睡状態になっちゃうので…)


 ルイはそう言いながら浮上する。よく見れば赤い髪の人物とルイの腰には蔦のような植物が絡まっていて、それがまるで命綱のようになっており二人は上から降りてきているのだった。田崎の手を取ると自然と蔦に引かれて身体が上昇した。


(おー回収お疲れ!)


(ストラス…先生、大き過ぎてびっくりしたよ…)


(あぁ?本当だな!)


 だがストラスと呼ばれて返事をした方も今は巨大だった。まるで猛禽類のような鋭い金色の目をしており、彫りが深く少しクセのある黒髪も随分と長い。けれどもストラスだと言われればその面影も多少ある。そして田崎の前に立った彼はそれでも田崎よりもまだ目線が上だった。


(剣豪ね…なるほど。その剣は…魂と共に記憶されて切り離せない類のもの…みたいだな。聖剣…というと聞こえはいいが、要するに魔剣…使い手の魔力と魂を燃やしてその力を発揮する。ま、実物は次の使い手が引き継いでいるから残像みたいなものだけど…それでも影響は受けるんだな)


 田崎は言われた言葉にハッとした。この剣を手にできる者は魔力体力共に人並み外れた者でないとならない理由がそこにあったと言われた気がした。田崎の前に聖剣を手にしていた若者も短命だった。それに亡くなったときは若者だったのにまるで老人のような見た目になっていたらしい。あれは魔力を魔物に吸われたせいだと噂されていたが、そうではなかったのだろう、と今更ながら彼は思った。


(田崎さん、察していると思うけど、その残像を消さない限り、田崎さんは剣に魔力を奪われて悪魔になった身体を維持するには魔力が足りないんですよ…だから気を失った…俺と手合わせして少し剣を振ってもらいますよ…っても、俺もこっちに来てから剣なんか滅多に振り回さないからちょっと鈍ってる…田崎さんと大差ないから安心して下さい…)


(えっ?手合わせ?)


 田崎はストラスがどこからともなく大剣を取り出したのに気付いて反射的に剣を構えていた。自分の手の動きに田崎は慌てた。身体が記憶している。


(俺はさ…親父が剣豪だったってだけで…名前を継いだら剣までおまけでついてきたんですよ…そろそろ時代遅れの武器ですよね…でもピストルよりも俺はこっちが好きなんです。じゃ、始めようか)


 ルイと光輝は固唾を飲んで見守っている。そのとき別の観客が現れた。


(良かった…間に合った!)


(きさらぎさん、しーっ!)


 田崎はやってきた二人を見て、どこかで見た顔だと思った。


(ケイくん、お帰り!きさらぎさんも)


(えっ!?)


 田崎はもう一度二人の顔を確認しようとしたが、すでに打ち合いは始まっていた。田崎は身体が勝手に動いてストラスの剣を防いでいた。


(おっ…反応いいね!)


 ストラスは軽々と田崎の二倍はありそうな剣を操る。防ぐだけで精一杯で攻撃出来なかった。次々と繰り出される剣を受けて田崎は疲労してきた。けれども身体のどこかが、覚醒したような感覚もあった。自分はこの感覚を知っている、そう思った。田崎は攻撃に転じた。渾身の力を込めて振るった自分の剣がストラスの剣にぶつかって鋭い音を立てたと思った瞬間に、田崎の剣がバラバラになって砕け散った。剣はキラキラと輝いて破片となり田崎の前から呆気なく消えうせる。


(おー壊れた!)


 ストラスは剣を鞘に戻した。


(田崎さんは…そのうち新しい自分の剣を手に入れるといいですよ。魔界にはいい剣があります…)


 ストラスはそう言って田崎の前に姿見を持ってきた。


(見覚えありますか?)


 そこには今の自分よりも堂々たる体躯の若い男性が立っていた。短い髪は銀色だ。瞳は黒いと思ったらよく見ると藍色だった。そういえば見覚えのある姿だと思った。長らく忘れていたが、こんな姿をしていたことが確かにあった。


(あ…あぁ…どうして…忘れていたんだろう…)


(恐らく…魂についてきた剣のせいじゃないですかね。断言はできませんが…記憶を呼び戻すのを阻害していた…本来の田崎さんはもっと魔力が強いんですよ)


 田崎は剣士になるためにひたすら訓練を続けた日々を思い出した。訓練は辛くて脱落者も多くいた。そうしてようやく剣豪と呼ばれるようになり、各地で沸き起こる怪物を退治して回る日々が続いた。実際に彼は強かった。なのに突然その日は訪れた。


(いつものように…怪物を始末して…俺は突然倒れたんだ…俺に付き添っていた回復師が…次の剣士を探して下さい…この人はもう終わりですと…言うのが聞こえた…魔力が尽きていたんだ…俺は…回復できるはずだったのに…あのとき俺は…)


 田崎は頭を抱えて崩れ落ちた。一気に流れ込んできた記憶で吐きそうになる。自分にずっと付き添ってきた回復師は聖剣を次の剣士に受け渡す見届け役だった。見届け役の仕事は剣士の死の真相を隠すこと。田崎は回復師に化けていた男に心臓を貫かれて命を落とした。


(うわぁぁっ!)


(田崎さん!それは終わった記憶だ!)


 鋭い痛みに田崎は胸元を握りしめた。


(先生!)


 ストラスとルイは田崎に駆け寄る。ストラスは田崎の胸に手を当てた。


(大丈夫だ…落ち着いて…それは魂の記憶だ…今の記憶じゃない…)


 ストラスの美声が脳に響いて田崎は痺れるような感覚に陥った。痛みが遠ざかる。何か魔力を使ったのだろうかと思う。


(そろそろ…セイルも…向こうの身体の調整が終わる頃ですよ…今、田崎さんの身体の魔力をセイルが補っていて…とりあえず剣を破壊したから少しずつ安定するはずです…)


(ストラス、もっと剣を振るうとこ見たかったなぁ…ね、今度僕にも教えてよ!)


 ルイがストラスの腕に抱きついて猫のようにすり寄る。


(やるなら女の姿にはなるなよ。男の姿なら…まぁ…)


(いやぁ、勉強になりましたよ。打ち合いを見ることができて) 


 少し離れたところから頭を下げた人物を見て、田崎は見覚えがある訳だと思ってその顔を見上げる。


(きさらぎ…きりとさん…ですよね?)


(うん、隣にいるのは遠野圭一朗さん。コーキとは契約パートナーなんです、あ、これ秘密なんだっけ?)


(ルイ、バラすなよ。でも…まぁ、どうせそのうちバレるか…)


 光輝が赤い髪を照れ臭そうに掻き上げると、隣に来た遠野が微笑んで寄り添った。


(こんばんは。悪魔は身体能力が高いから、演技をする上で色々と参考にさせてもらってるんですよ。それにしても立派な体格ですね、うらやましい)


 遠野は田崎を見て微笑んだ。


(リヒト!!)


 上から声が聞こえて悪魔の姿のセイルが翼を広げて降りてきた。セイルは田崎に抱きつく。今の田崎がセイルを抱き上げるとセイルが小さく見えた。


(今度僕とも手合わしようね!とりあえず今は…)


 セイルはそこで田崎の頬を両手で包みこんでキスをする。


(ね…?)


 セイルの瞳には欲望がちらついて見えた。言葉にされなくても自分を求めていると感じる。


(ここは半分夢の領域だから、大丈夫。ストラス補佐官、一部屋部屋貸してほしいな)


 セイルの言葉にストラスはやれやれという表情をしたが、手を振ると何もない空間に幾つもドアの並んだ廊下が出現した。


(へぇ、補佐官はいい部屋持ってるんだなぁ…)


 セイルは田崎の腕から降りると、一番近くのドアの隙間から中を覗き込む。いつの間にかきさらぎきりとの腕の中にも白銀の髪にオッドアイの猫耳の少女が抱きかかえられていて、少女はぴったりと彼に寄り添っていた。


(まぁ、この先はフリータイムだ。半分夢とは言っても多少は現実にも影響を及ぼすから、あまり激しい運動はしない方がいいよ、特にセイルとアイムは。ルイは言わなくても分かるよな?)


 どうやらアイムと呼ばれたのが白銀の髪の少女らしい、と田崎は思った。ピクリと猫耳が動いて、きさらぎきりとが少女の顔を見て照れ臭そうな表情をしたからだった。


(言われなくても僕だって分かってるよ。行こう、リヒト。ここは魔界の王宮の一部を再現してるから、内装も豪華だよ。少し休憩して行かないと損だよ!ホラ、早く!)


 セイルは嬉々として田崎を促す。田崎は苦笑しながらドアを開けて絶句した。まるで映画か何かのセットではないかと勘違いするような、豪華な天蓋付きの巨大なベッドが目の前にあった。重厚な作りの木目調のドアには緻密な細工が掘り込まれている。田崎は正直な感想を口にした。


(…豪華過ぎて落ち着かない…)

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