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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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セイル&リヒトの場合 7

 結局、ミカエルは二人を放っておいてはくれず、夕飯の時間になると再び二人を誘いに来た。天使の気安さにセイルは、殺戮マシンだと思っていたのは思い違いだったのではないかと、当時の噂話を疑い始めたほどだった。同時にこの天使は距離感がおかしい、そうも思った。


「みんなで食べた方が美味しいよ!ま、周りは悪魔だらけだから私たちは浮いてるけどね!」


 それは天使だからというよりはミカエルの言葉の選び方のせいではないかとセイルは思ったが、黙ってついてゆく。リビングに降りると知った顔も知らない顔も大勢が揃っていた。


「あ!先生!?」


 ハルとカイが驚いて田崎の顔を見る。カイは今は中学生の姿だった。


「先生!大丈夫ですか?あれ…先生…こっち側に来ちゃったんですね…想像以上に早いし…元気そうですね」


 カイに苦笑されて田崎は返答に迷った。席はだいたい決まっているのか、どこからともなく現れた初老の執事に田崎はどうぞと言われて椅子に座る。


「きさらぎさんから連絡があって、今日はお二人とも遅くなるようです。あとは水谷さんも少し遅れると連絡がありました」


「分かった。では今揃っている者で今日の夕飯をいただくとしようか」


 ジーンの言葉を皮切りに皆がいただきますと言って食事に手をつけ始めた。今日は洋食だ。ハンバーグを見た社長が子どものようにはしゃいだ声を出して隣のイチカに呆れられていた。田崎はとりあえず色々な野菜の入ったスープに手をつける。コンソメスープだった。優しい味わいでホッとする。テーブルを見渡した田崎は自身が悪魔になったからなのか、周囲の者の大多数が悪魔なことに気付いてしまった。時折、転生者なのか不思議な気配の人間が混じっている程度だ。人間は若い学生がほとんどだった。ルイと仲良く話しているところを見ると、前の学校の繋がりなのだろうかと思う。その近くに、水谷と良く似た顔の男性を見つけて、田崎は思わず驚いてしまった。相手もこちらの視線に気付いたのか、田崎の方を見て小さく頭を下げる。


(水谷先生に似てるけど、彼は双子の弟さんの宮本海晟さん。水谷先生と宮本さんは元はレリエルって名前の一人の天使だったんだけど、引き裂かれて二つになっちゃったんです)


 突然田崎の心の中にルイの声が聞こえて、田崎はルイがこちらを見ていることに気付いた。


(先生も僕の目を見て心の中で強く思えば話せますよ?)


(えっ?聞こえるかい?)


(はい、先生って順応するのが早いですよね。あぁ、妊婦の方の僕は悪阻で食べれないので、僕が食べてるんですよ。こういうときは分裂って便利だなって思います)


 ルイはハンバーグを口に入れて微笑んだ。よく見ればルイのハンバーグは和風のようだった。大根おろしを乗せてルイはハンバーグを頬張る。田崎は絶妙な味わいのソースを絡めてハンバーグを口に運んだ。


「温泉卵もあるよ、目玉焼きも」


 セイルはそう言って半熟の目玉焼きをトッピングにして美味しそうにご飯を食べる。田崎は大概が一人でレトルトの味噌汁を飲んでいた独り暮らしを思い出した。味気ない食事だった。そこまで考えて、田崎は西山のことをあまり思い出せなくなっている自分に気付いた。それよりもセイルのことばかり考えてしまう。自分は薄情なのだろうかと彼は考えたところで、再びルイの声が聞こえた。


(それは先生がセイルに魂を渡したからですよ。僕だってストラスのことと…リツのこと…僕はリツの使い魔でもあるから…その二人のことばかり考えてしまいます。元彼の記憶がない訳じゃないけど、もうあまり気にしなくなったから…先生が薄情って訳じゃありません。大丈夫です)


 そのとき、複数人の声が近付いてきて魔力回復研究所で会った二人組と明らかに悪魔と思われる男性が二人入ってきた。


「ただいまぁ…遅くなっちゃった…あれ?田崎先生だ!先生!元気そうですねー!」


「イツキの先生じゃないのに、先生先生連呼するんじゃないよ」


 眼鏡の青年がムスッとした顔で言う。


「えぇ?あぁ…そっかな?だって先生だって分かっちゃったらさ、なんか田崎さんって呼ぶのも違和感あるんだけど?」


「椎名くん、手洗いうがい、それから食事!」


「あー瀬尾さん、分かってますよ。子どもじゃないんだから」


「向井くんも大変だね。でも手のかかる子ほど可愛いのかな?」


「成瀬さんまで、からかわないで下さいよ!ホラ、イツキ!早く!」


 向井が椎名の手を引いて視界から消える。椎名が現れると騒がしいが憎めない性格をしているなと思って見送った田崎は自分が教員の目線で二人を見ていることに気付いた。制服を着ていると無条件に反応してしまうのかもしれない。


「拷問官に…暗殺者?面白い組み合わせ…」


 隣のセイルのつぶやきに田崎はギョッとする。


「えっ?どっちがどっち…だって?」


(ん?転生前は…椎名くんが拷問官…だけど、今それっぽいことをしてるのは向井くんの方なのかな…?向井くんは暗殺者だよ…だから魔力回復研究所に来てたのか。マルバスが担当してたからチェックしてなかったけど…。あまり多くない転生者の魔力回復薬も完備するのがセラヴィの目的だから)


 セイルは心の中に話しかけてくる。


(それっぽいこと…って…?)


(何?気になるの?それは二人の性的嗜好の問題だから…でも過剰なプレイで相手が死んじゃったら困るからマゴト…あのガタイが良くて一見すると無愛想に見える彼…ね、彼に指導させてるみたい。僕も初めて知ったけど。あぁ、そっか。魔界の拷問官は今、妊娠中で帰ってるから…代理で仕方なくってところなのかな)


(拷問官…?)


(そんなに過剰に反応しなくても昔の呼称の名残だよ。それに誇りを持っている悪魔もいるし。でも今はさすがに戦時中みたいな過激なのはやってないよ。せいぜい耳から肉食のアリを入れたりするくらいかな。嘘ばかり言ってるとアリに脳を食われて記憶を根こそぎ読み取られる…って、刺激の強過ぎる話だった?)


(……)


 田崎は耳の奥がかゆくなった気がした。それで過激ではないなら戦時中はどんな拷問がされていたのだろうと思う。


(今の陛下はクーデターを起こして政権をひっくり返した方だから魔界も穏やかだけど…当時の魔王は過激だったからね。僕は潜伏に成功して機会を窺ってたけど…陛下たちは大変な目に遭ったんだよ。で、当時の魔王の子が、セラヴィの社長。まぁ、色んなことを経てこのテーブルをみんなで平穏無事に囲んで食事ができてるって…ある意味奇跡かもしれないね…本来ならいつ戦争になってもおかしくない顔ぶれが並んでる訳だから…)


 セイルはそう告げながら、美味しそうに白米を頬張る。


(やっぱり米は日本米が一番好きだなぁ。魔界のは水が違うからなのか…粘りが少し少ないのか…なんか風味が違うんだよね。美味しいんだけどさ。悪阻がいつ始まってもいいように、今から食べたいものは食べておかなくちゃ!)


 セイルはポテトサラダに手を伸ばすとモリモリと食べ始める。小気味の良い食べっぷりを見ていると田崎も食欲がわいてきた。田崎もポテトサラダに手を伸ばす。


「うわっ!旨いなこれ!」


「だよね!美味しい!」


 セイルもニコニコした。田崎はここにいる面々の大半のことを知らなかったが、こうしてわいわいしながら食卓を囲むのは久々のことだったので、こういう雰囲気も悪くないなと思った。けれどもハンバーグの残りを口に入れて飲み込んだときに、それは起こった。田崎は急に頭が痛くなった。箸を置いてこめかみの辺りに触れたところまでは記憶があった。


「リヒト!?」


 セイルの叫び声を聞いた気がしたが、そこで田崎は突然意識を失ってしまった。

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