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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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宮本&水谷の場合

 帰宅した宮本は、兄の勤務する学校で殺人事件が起こったことはすでに知っていたので、気になって途中で連絡を取っていた。なので二階から降りてきた双子の兄の姿に気付いた宮本はホッとした顔をした。


「タクミ…良かった…タクミが住んでるのって、単身者向けの教員住宅でしょ?この辺は家賃もバカ高いから、近隣の学校の近くには教員住宅もセットになってるんだよね…取材…うるさかったよね?」


 そうだったのか、と水谷は辞令を受け取った際に通勤圏内で物件を探したものの、どれも彼には高額で教員住宅が魅力的に思えたのはそのせいだったのかと納得した。


「そっか…実は真上の部屋が…西山先生の部屋で…警察も出入りしてるしマスコミも来るしで落ち着かなくて…学校には弟の社員寮に理由を言って避難させてもらうって伝えてきたよ。僕が感覚過敏で色々と対策してるのは…学校側にも言ってあるからね」


 水谷は少し恥ずかしそうにそう言ったが、彼の抱える問題に気付いていなかった周りの悪魔たちは慌てた顔をした。


「えっ?先生、ごめんなさい!僕うるさかったですよね?」


 後ろからやってきたルイが驚いた様子でそう言ったが、水谷は首を横に振った。


「いや…むしろ…さっきストラスさんがカイセイの到着に気付いたとき…自分では過敏だと思っているこの聴覚も…悪魔の中では過敏でもなんでもないのかもしれないと…思ったんだ。まぁ、人としてならやっぱり異常なんだけどね、暮林くんも時々同じ音を聞いているのかなと思うことがあって…だから声をかけたんだよ」


「あー」


 ルイは恥ずかしそうに水谷の顔を見た。


「ストラスは過保護だから…少し前まで…まぁ、今でも時々ボディガードが一緒のときがあって…僕の影に潜んでるんです。たまに話をします。あ!でもテストで不正したりはしてませんよ!悪魔に誓って!!休み時間だけです」


 ルイがそう言って笑っていると、リビングに入ろうかどうしようかためらっている三夜美の姿に気付いた。ルイは宮本にさりげなく合図をする。慌てて宮本はリビングに三夜美を連れてきた。三夜美は話には聞いていたものの、本当にそっくりな二人の顔を交互に何度も見てしまった。


「タクミ…えぇと…僕が契約パートナーになってる…三夜美だよ。今は、ストラスさんが…養子縁組の手続きを進めてくれていて…暮林の姓になると思う…。いずれは僕が…け…結婚の代わりになる手続きをきちんとしようと思ってて…教員をやってるタクミからしたら、未成年の男の子相手に何言ってんだって思うかもしれないけど…僕は本気で三夜美と一緒にいたいと思っているから…」


「えっ?カイセイさん…そこまで…先のこと…考えて…?」


 三夜美は驚きと恥ずかしさのあまり思わずうつむいてしまった。それから表情を窺うかのように水谷の方を見る。水谷は複雑な表情をしていた。


「…ミヤビさんは今…何歳かな?」


 水谷の言葉に三夜美は口を開く。賛成されていないのがその口調からも伝わってきた。


「…じ、十五歳です…」


「そうか…カイセイ、未成年が相手の契約パートナーがどこまで何をしていいか、ちゃんと分かってる?分かってて…守ってる?」


「……ちゃんと守ってる…十五歳から十七歳までは経口摂取のみ可って」


 福音の鳥でやってきたことを宮本は咄嗟に伏せた。知られたら蛇蝎のごとく兄に疎まれるのは分かりきっている。いまだにこんな誰彼構わず身体を差し出すことに何の抵抗もなく生きてきた薄汚れた自分が、実直な兄の双子の弟だとは自分でも信じられなかった。恐らく似ているのは顔のみだ。中身はまるで違う。


「そう、偉いね。たいがいみんな守れなくなるものだから…カイセイは守れるよね?周りにいるのが悪魔だからって、影響されないようにね?君に魔界の法は適用されてはいないんだから。犯罪者になってしまうよ?」


 リビングには少女姿のベルフェゴール大佐がいて隣の六季の宿題の丸付けをしているところだったが、二人とも内心ではビクビクしながらその会話を背中で聞いていた。二人は声に出さずに話していた。


(やっべぇな。俺、ムツキにキスしちゃったじゃねーか。知らねぇよ。なんだその契約パートナーって。キスは十五歳から?アホか!?そんな悠長なことしてたらムツキなんか魔力欠乏起こしてぶっ倒れるぞ?未成年に死ねって言ってんのか?この国は!!)


(あーだから、本音と建前というか…だってオッケーですって公言しちゃうと、未成年を狙う犯罪者のパラダイスになっちゃうでしょ?ま、だから実際には契約パートナーどうしなら、多少目をつぶるってところが本音なんだよね。契約パートナーが未成年相手に過剰なことやっても、魔力欠乏を起こして命の危機でしたって言っちゃえば、大概はなんとかなるんだよ。それを逆手に取って悪いことする人もいるんだけどさ…四角四面に守る人なんかいないと思う…水谷さんは真面目過ぎ)


(なるほどねぇ…宮本の兄ちゃんは学校の先生か…謹言実直…宮本はやりにくいだろうなぁ…)


(宮本さんのこと、僕よく知らないんだけど…福音の鳥ってとこにいたんでしょ?あの、ちょっと胡散臭いって言われてた…)


(あーうん)


 六季は大佐の顔をじっと見た。


(その返事、知っててお子さまには教えないってときの大佐の言い方だよね)


(あーまぁな。言ったら宮本の悪口みたいになるだろ)


(分かんないよ。聞いてないのにそんなこと判断しようがない…)


 大佐は迷ったが結局伝えることにした。


(ん…要するにだな、福音の鳥で育てられる者の中には、魔力回復薬代わりに自分の身体を使って相手の魔力を安定させるボランティア的役割をこなす者が何名かいたんだよ…その中で群を抜いてトップにいたのが宮本だ。好きだとか嫌いだとかそういう感情を抜きにして…ムツキはそういうことはできないだろ?感情が優先するんだから。感情抜きでもできるってのは、ある意味プロだな)


(えっ…うーん…それは確かに…無理…かも。できるんだ?宮本さんは。それって三夜美は知ってるの?)


(どうだろうな。知ってて知らないフリしてるのかな。今はもう福音の鳥から抜けて、宮本も変わろうとしてるんだとは思うよ。でも兄ちゃんには知られたくないだろうな…)


 大佐は丸付けを終えて無害な少女姿なのをいいことに隣に座ると六季の手を握って魔力を流してくる。


(この格好だし…キスは夜までお預けだなぁ…)


 大佐の残念そうな声が六季の心の中に聞こえた。六季は自分が悪魔ではないからと、律儀にこちらに合わせようとする大佐も案外真面目なのかもしれないと思った。



*** 



 ラマシュトゥ事件から約一週間が経過しようとしていた。レリエルの半分である水谷が滞在した夜と翌日は悪魔たちも普段よりも大人しく真面目に過ごしていた。ルシフェルはその間も生死の境をさまよい、イチカは生きた心地もしない時間を過ごしていた。世間的には神木蒼士は外出中に車のブレーキが突然作動しなくなり車ごと崖から転落して大怪我を負ったことになっていた。宮森は出社していたが、社員に色々と聞かれて毎日疲労して帰宅していた。


「あームカつく!何度聞いてもムカつく!!」


「ねぇ…振動すら…痛いから…静かにしてもらえない?」


 横から遠慮がちな声が聞こえたので、イチカは相手をこれでもかと睨み返す。


「自業自得だろ。俺はまだ納得なんかしてないんだからな!」


「だって…他に…選択肢がなかったんだよ…って、この会話…何回目?」


「このマザコン!!そんなに母ちゃんと心中したかったのかよ!!俺よりも!!クソ雑魚感半端ない!ミカエルの剣を奪って自分でぶった斬るくらいのことしろよ!そうされたって文句言えないくらいのことを、お前の母親はお前にだってしてきたんだぞ!?何が玉座だ!育児放棄したくせに!育てなかった子に玉座だけ与えても罪を帳消しになんかならないだろ!」


 ベッドに横たわって弱々しく返事をするのはルシフェルだった。今は社長の姿に戻っているが、彼の身体はミカエルの剣で切り裂かれた傷とラミアに空けられた大穴とで回復に時間がかかっていた。いつも片手間のように手早く治すブエルがあんなに真面目な様子で真剣に治療するのを久々に見たとイチカは思った。ルシフェルがようやく意識を取り戻したのは先ほどのことだったが、そのときからずっとイチカは怒っていた。


「なんであの場に送ったのはルシフェルの一部なのに、こんなに酷いことになってんだよ!俺は聞いてない!一部だから大丈夫だって言うから信じて送り出したのに!!大うそつき!」


 イチカは再び泣き出してしまう。無言で付き添っていたフィランジェルがイチカの肩を抱いて慰めた。


「俺も…アルシエルくらいに、もっと…ちゃんと有言実行の…悪魔を好きになれば…良かったのに…どうして…自分がどうなるかの予測も見誤る…ポンコツなルシフェルしか愛せないんだよ…俺もたいがい雑魚だよな…ほんと…」 


 しゃくり上げながらイチカは途切れ途切れにつぶやく。


「酷い言われようだなぁ…怪我よりもメンタルの方がズタボロだよ…そろそろ優しさが欲しい…」


 ルシフェルがぼやく。


「イチカ…とりあえず…ルシフェルも反省してるからさ。あんまり怒ると胎教にも良くないよ?だから少し落ち着こう?」


 フィランジェルはそう言うとイチカのおでこに口付けをして眠らせてしまった。急に力をなくしたイチカをマルバスが受け取ってルシフェルの横たわる大きなベッドの横にそっと寝かせた。イチカが近くにいる方がルシフェルの回復も早まる。ルシフェルはちらりとイチカを見て、小さな息を吐いた。


「これでも…君を守りたかったんだよ…時空を切り裂いてまたラマシュトゥが逃亡すれば…どこかで同じ惨劇が繰り返される…だから、私が欠けても…そうする必要があったんだ…母には…玉座に座らない私は不要だと、はっきりと言われてしまったけどね。思いのほか…ショックだったってことは、やっぱり私はマザコンなのかなぁ…」


 フィランジェルはいたたまれない気持ちになって、ルシフェルの頭を撫でてしまった。


「お母さまが要らないなら、ここにいる私たちがルシフェルを貰うよ。それでいいんじゃない?イチカだって、今は怒ってるけど、ルシフェルが必要だから怒ってるんだ。死んでほしくなかったし痛い思いもしてほしくなかったから…だから、たった一人に必要とされないことを嘆かなくていい。これからはずっとあなたを必要だと思う人たちの側にいればいいんだよ。この世界の転生者たちは少なくともルシフェルを必要としているんだから」


 ルシフェルは目を見開いて、はぁぁと大きく息を吐いて脱力した。


「あぁ…どうして君は…このタイミングでそんな天使みたいなことを言うの?」 


 ルシフェルは手の甲を目元に当ててしばらく押し黙っていたが、やがて口を開いた。


「…そうだね…母には…私の子ども時代を手向けにしたから…もう私は二度と幼い姿にはなれなくなったんだ…母が愛したルシフェルは…いつまでも幼い子どものルシフェルだったんだろうな…でも、それはこの私じゃない…」


「そうだね。社長はこれから一児の父親になるんだから、子ども時代がなくたって大丈夫だよ」


 そう言ったフィランジェルはリツの姿に戻った。ようやくルシフェルの生きる意思が固まったのが分かったからだった。母親の言葉は想像以上にルシフェルの心を刺していた。身体に与えられた傷よりも。アルシエルはイチカを連れてルシフェルの夢の領域に何度も降りていた。そして説得してようやく連れ戻した。不意に何を思ったのか社長が手を伸ばしてリツのお腹に触れる。さわさわと撫でて微笑んだ。リツは目を丸くする。


「何ですか?それ…念のために言っておきますけど…会社では絶対にしないで下さいよ?堂々とそんなことをされると他の社員がびっくりしますから。イチカのお腹の大きさと比較しないで下さいよ。二人だから大きくもなります…」


「いや…声が聞こえた気がしたから…」


 するとリツは笑った。


「しょっちゅう喋ってますよ?特にルシエルの方は早く生まれてきたいみたいで、何にでも興味津々なんです」


「ちなみに今はなんて…?」


「それ、聞きたいですか?」


「え?」


「ポンコツって何?って聞いてますよ…フィリエルは、ポンコツとトンコツって似てるよねって…本当にしょうもないこと言ってますよ…えっ?昼はラーメン!?妊婦にそんなハイカロリーで塩分量の多いものを要求しないで!!二人とも!!」


「えぇ…やっぱり聞かなきゃ良かったかな…」


 社長は大きなため息をついて心底ガッカリしたような情けない声を出した。

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